ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ 10101900:ネオサイタマ・プライド

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
0
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヘ……ヘエ、間違いない……かと。なあ、モメン?」「間違いないドスエ」モメンと呼ばれたオイランは繰り返し頷いた。「フジキドだったドスエ……休憩時間はネオサイタマ・プライドを見ているから、もう、はっきりと!人相が!」「あいわかった」スパルタカスは頷き、片手を上げて黙らせる。 25

2015-07-17 17:32:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スパルタカスは数ブロック離れた地点でこのオイランの叫びを聞き分け、すぐにこの場へ向かったかたちである。彼はおもむろにその場に片膝をつき、アスファルトに指で触れる。ニンジャ野伏行為だ。ソウルの痕跡から、ニンジャスレイヤーの逃走方向を探っているのだ。やがて彼は獰猛に笑った! 26

2015-07-17 17:35:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウイーッ!身も心もリフレッシュ!とくらァ!」その時、ふいに猥褻店内のノレンを払って路上に現れ出た者あり。日焼けしてガリガリに痩せた、着流し姿の男である。「なんだ、なんだ、エエ?」「またどうぞドスエ……あら?」男と見送りオイランは、路上のゴヨキキ、モメン、スパルタカスを見た。27

2015-07-17 17:38:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何やってンだ、こんな広くもねえ路上で」着流し姿の男は顎を掻いた。「スパルタカス=サンともあろう御仁がよォ?なあ?」「エ……スパル……何?」見送りのオイランは瞬きした。着流し姿の男はぶらぶらと手ぬぐいを振り、オイランを店内へ帰らせた。「オメエらも帰れ!」ゴヨキキとモメンもだ。28

2015-07-17 17:42:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」スパルタカスは立ち上がり、着流し男をじっと睨んだ。常人ならば即座に失禁するニンジャの凝視だ。だが着流し男はただ睨み返す。人払いを済ませると、彼はあらためてアイサツした。「ドーモ。スパルタカス=サン。俺ァな、実際ニンジャスレイヤー=サンの師匠、マスターヴォーパルよ」 29

2015-07-17 17:44:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

空気が変わった。スパルタカスは軸足を多少後ろに引き、マスターヴォーパルに向かい合った。店内から「アイエエエ!」という叫びが聴こえた。どろりと煮凝った空気の濃厚なニンジャ・アトモスフィアにあてられた感受性の強い市民が、ノレンを隔てた店内で、わけもわからず失禁したのだろう。 30

2015-07-17 17:47:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マッタ!いや、マッタ!そういうのじゃねえ!」マスターヴォーパルは手をかざし、後ずさった。「お、俺がやるッてんじゃねえよ!なあ?とにかくアンタは、俺の不肖の弟子を追ってよ、ブッ殺したいわけだろうが。エエ?」「急いでいるんだがな」スパルタカスは低く言った。 31

2015-07-17 17:49:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まあそう言うなッて。な?」マスターヴォーパルは笑った。「俺は事情通でよ……なにしろ地獄耳なンでな。お前がそうやって、こう、アマクダリ・セクトのために大車輪の大頑張りをしてる事も知ってるンでな?エエ?格闘マネーを積み上げて、カネ、権力、女!な?」「……」「そして、カラテ」 32

2015-07-17 17:50:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スパルタカスの両腕が微かに動いた。煮凝った空気が流れる。「アイエッ!待て!殺すな!俺を。つまらんぞ」マスターヴォーパルは後ずさった。「手短にな」スパルタカスは低く言った。「なら、ビビらすない」マスターヴォーパルは咳払いした。「アー……ウン。本題に入ろうじゃねえか」 33

2015-07-17 17:52:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ……ハァーッ……」フジキドはコンクリート壁にもたれながら、路地裏を進んでいた。全身の関節が軋み、肩が燃えるように熱い。乾いたペンキブラシで塗ったように、血が壁に軌跡を残す。肩口には浅い銃創。先程、一般市民……ライフル銃を持った老婆に、マンションの窓から撃たれたのだ。35

2015-07-17 18:13:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フジキドがいました!」「バカ!」「今すぐ通報してください!」「チャンス倍点!」ビル街の間を飛び交うイナセな叫び声が、彼の後方で響き渡る。ヨタモノ、賞金稼ぎ、ヤクザ、無軌道大学生に留まらず、下層労働者、サラリマン、オーエルまで……いまやネオサイタマの全てが彼に牙を剥いている。36

2015-07-17 18:21:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は疲弊し、追われていた。市民らは静かに熱狂し、彼を殺して莫大な懸賞金を手にし、英雄になろうとしていた。フジキドは荒れ果て閉店した店のショウウインドウに映る己の姿を見た。(((おお、フジキドよ……何とブザマな姿か……!)))ニューロンの同居人、ナラク・ニンジャが彼を罵った。 37

2015-07-17 18:28:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

後方からハンターたちの声が接近する。相手は所詮、一般市民。その気になれば、今のフジキドにもカラテ虐殺突破は容易かろう。だが彼はそうしなかった。その結果がこれだ。ナラクは猛り狂っていた。(((殺せフジキド!復讐を妨げる愚か者どもを皆殺しにしようぞ!)))「…黙れ……ナラク…」 38

2015-07-17 18:34:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((犬めいて野垂れ死にたいか?あの犬めらを殺せ!殺せ!殺せ!)))「黙れ……ナラク!」フジキドは声を払い除けるように歩き、裏路地を出た。プァーン!急ブレーキもむなしく、タクシーが彼に接触して走り去った。サツバツ!「グワーッ!」フジキドは重金属酸性雨塗れの泥の中に転がった。 39

2015-07-17 18:43:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『新たな指名手配犯と懸賞金情報ドスエ』上空を飛ぶツェッペリンや街頭TVからマイコ音声。『マッチ・ジュンゴー……モナコ・チャン……国家機密級の電脳テロに関与と見られ……』「ヌウーッ…」フジキドは歯を食いしばって泥の中から立ち上がり、ハンチング帽子を被り直して、再び歩き始めた。 40

2015-07-17 18:50:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スシさえあれば……!だがスシ・バーやコケシマートでの補給の試みは、いずれも苦々しい失敗に終わっていた。カラテでスシを強奪し事を起こせば、追っ手に気取られる危険性がある。ナラクに身を任せれば、市民をカラテ虐殺し、思うがままスシを奪えるだろう。だが今手綱を離せば、永遠に堕する。 41

2015-07-17 18:59:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もはやその感情は、己自身のものなのか、ナラクのものなのかすら判然とせぬ。ナラクの声はもう聞こえなくなった。視界が揺らぎ、マンゲキョめいて回転を始める。彼方にスゴイタカイ・ビルが見える。全てが終わり、また始まった場所。フジキドはそこに向かって歩き続けた。 42

2015-07-17 19:05:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私はフジキド・ケンジだ……マルノウチ・スゴイタカイビル……フユコ……トチノキ……。いま……帰る……」フジキドは呻きながら歩いた。全身が鉛めいて重くなっていった。そして足を滑らせて倒れ、路地裏のゴミ山の横で足を投げ出した。 43

2015-07-17 19:11:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

放送は続く。「私は滅私奉公の男だ!誰よりもネオサイタマを案じている!市民インタビューを聞きましょう!」『スゴイ心配』『外出できないですよ!』『ゴスだから……現世の事はわからない(ここでミチグラは顔をしかめた)』『やはり鍛え直さないと!若者をね!そこから始めないといけない!』 44

2015-07-17 19:18:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『テロリストが怖い!』『シバタ新知事は……あ、まだでしたっけ?とにかく彼になんとかしてもらいたい!』「……さあ!どうですか市民の皆さん?貴方は一人ではない!変な違法電波ラジオとかは聞かずに、即通報!我々は一丸となって苦境を乗り越えよう!それがネオサイタマ市民のプライドだ!」 45

2015-07-17 19:21:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……権力の座、カスミガセキ・ジグラット。乳白色のダブルスーツに身を包んだアガメムノンは、独り、その長い回廊を歩んでいた。ガラス張りの窓からは、広大無辺なるネオサイタマの夜景が見える。いまや彼は、正式なるサキハシ知事の代理人として認証され、知事と同等の全施設アクセス権を得た。 47

2015-07-17 19:30:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガメムノンは機密エレベータを下り、中枢部へと降りる。知事用プライベート・オンセンに行き、疲れを癒すのだろうか。……無論、否である。シバタの代理人登録儀式時も、グレーター議員たちは、この権限の正しい重要性を理解していなかった。彼が得るのはその程度の利益であろうと考えてていた。48

2015-07-17 19:38:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カスミガセキ・ジグラットは、Y2K以前から途方も無い複合増築を重ねられ現在の姿となった巨大建造物だ。ゆえに、現在の議員のうちもはや誰独りも由来を知らぬまま、ただ議会則の端に記載されているという理由で引き継がれてきた遺産があった。フスマが開き、忘れられた空間へと彼を迎え入れた。49

2015-07-17 19:45:59