ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ 10101900:ネオサイタマ・プライド

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そこには赤いトリイ・ゲートが立ち、Y2K直後の混乱を生き延びたUNIX群が、静かに再起動のときを待っていた。月のアルゴスと対になるべく作られたシステム。天下るための地上の座。メガトリイ社の支配者、すなわち鷲の一族のDNAを持つ者が受け取るべき遺産。 50

2015-07-17 19:54:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は息を吐き、己の血を吸わせたハンコを認証機に捺印した。『承認ドスエ』モニタにアスキー文字で描かれたメガトリイ紋が次々浮かび上がった。アルゴスのPINGが届いた。ナムアミダブツ!システムはたちまち、ネットワークに電子の根を張った。……直後、ネオサイタマから磁気嵐が消え去った。51

2015-07-17 20:02:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◇休憩時間(それはアニメイシヨン同時再生の後に)◇

2015-07-17 20:03:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガメムノンの手によって、ネオサイタマが、世界が、もはや後戻りできぬ激変に向かって静かに進み続けていた頃……。フジキドは冷たい重金属酸性雨に打たれながら力尽き、路地裏で静かに目を閉じた。 53

2015-07-17 23:07:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは呼吸を整えるための、ほんの一瞬のメディテーションのはずだった。だがフジキドの意識は途絶えた。最後まで、うわごとのように、己の妻子の名を唱えながら。 54

2015-07-17 23:11:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((愚かなり、フジキドよ。こうなることは、初めから解っていたであろう。我らの他には誰ひとりも、オヌシの妻子を悼み、弔い、墓前にセンコを供える者など無いのだ。復讐を行う者など、我ら以外には))) 55

2015-07-17 23:17:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして内なる声も遠ざかっていった。 56

2015-07-17 23:18:37
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それが己の声なのか、ナラクの声なのかすらも、もうフジキドには分からなかった。 57

2015-07-17 23:19:44
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「部長の、バカヤロー!」サラリマンめいた男の声が聞こえた。「主任、ちょっと、重いっスよこれ、俺も、飲み過ぎちゃって、足がもう」「バカヤロー!もう一軒付き合えバカヤロー!」 59

2015-07-17 23:23:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『……見かけたら、即通報!それがネオサイタマ市民のプライドだ!』「変な頭髪しやがってバカヤロー!」くたびれたサラリマンは巨大プラズマTVに映し出されるミチグラ・キトミの下で、男は叫んだ。呂律はろくに回らず誰も聞き取れない。「主任、もう帰りましょうよ」「うるせえバカヤロー!」 60

2015-07-17 23:28:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウッ……」フジキドは目を開けた。長い悪夢を抜け、サラリマン時代に戻り、ヤマダ係長の世話になっているのかと。だが実際違った。彼は直ちに自分の状況を把握した。二人の酔漢サラリマンに同僚めいて両肩を抱えられながら、繁華街を抜けている。すぐ傍を、血眼のハンター市民が通り過ぎてゆく。61

2015-07-17 23:32:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何がネオサイタマ・プライドだバカヤロー……。俺たちをバカにしやがってよォ……」主任は酔歩しながら、腹の底の不満をつぶやいた。それから無難な不平不満を叫んだ「部長のバカヤロー!俺は明日もビジネスだバカヤロー!」「主任、もう帰りましょうよ!……アッ、起きたっぽいですよ!」 62

2015-07-17 23:37:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らは何者か。見当もつかぬ。「何故……私を……?」運ばれながら、フジキドはそう聞くしかなかった。「……アア?そりゃ……路地裏にあんたが転がっててよォ……奥さんだか家族の名前を繰り返して……帰る、帰るって言うからよォ……放っとけねえだろ」主任が言った。「今夜は……物騒だしよォ」63

2015-07-17 23:44:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それだけの……理由で……?」「そうだよバカヤロー!俺はムシャクシャしてんだバカヤロー!」主任は酒臭い息を吐いた。「……ドサクサに紛れてデタラメがまかり通ってやがる。この辺にフジキド・ケンジがいただァ?その前は洋上の艦隊?どんだけ離れてると思ってンだ、バカにしやがって……」 64

2015-07-17 23:56:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スミマセン、ドーモ……」名前も知らぬサラリマンの善意が、己の命を拾ったのかも知れぬのだと知ったフジキドは、ただ、二人に感謝した。「ドーモ……」あのまま放置されていれば、路地裏でブザマな死を遂げていたかも知れぬ。あるいは、ナラクが取り返しのつかぬ殺戮を繰り広げたかも知れぬ。 65

2015-07-18 00:00:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう大丈夫です、ここから独りで」「まだ無理だよ兄ちゃん、ホラ、おぼつかねえ」フジキドは再び抱え直された。遠目からは誰の目にも、酔っ払ったサラリマン3人組にしか見えぬ。「しかし、もし私が……本当に、指名手配犯だとしたら?」フジキドは問うた。「エーッ?」主任は笑って首を傾げた。66

2015-07-18 00:09:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

主任はミチグラの番組を一瞥し、唾を吐きながら言った。「……知らねえよ、俺ァ酔っ払ってるし。俺たちゃとにかくよォ、ミチグラとよォ、あの番組がどうにも気に入らねえんだ……もう何がホントで何がウソだか、わかんねえよ。そんな事考えてるヒマもねえくらい、こっちは毎日ビジネスなんだよ…」67

2015-07-18 00:15:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だいたいアイツの番組は何なんだよ!?今すぐだ、だの、考える時間は無い、だの……考えさせろってんだよ!」「ですよね」部下と思しきサラリマンが相槌を打った。「なあ?フジキドにしてもよお、俺は見逃さなかったぞ?あの、昔のセンセイだかなんだかのよォ……。都合の悪いのは全部ナシだ」 68

2015-07-18 00:18:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……それに、あんた、バカ丁寧だし、サラリマンだろ。元サラリマンか?どっちにせよテロリストにゃ見えねえよ……ハハハハハハ!俺たちと同じだ!」主任は笑った。自分のささやかな抵抗に満足しているかのようだった。「なあ、子どもいるのかい?」「……ハイ」フジキドは答えた。「男?女?」 69

2015-07-18 00:27:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「男の子です、一人だけ」フジキドは答えた。「アー、そうだと思ったよ。そういうくたびれ方だ。何歳だい?」主任が笑って問うた。フジキドはやや間を置いて、答えた。「……5歳と、少し」「そりゃ大変だ、まだ手のかかる歳だ。あんたを拾ってやれてよかったよ。今夜はホント、物騒だからな!」 70

2015-07-18 00:32:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ……ドーモ……」フジキドは呻くように項垂れ、ただ、感謝の言葉を述べた。涙はとうに枯れ果てていた。そのままサラリマン2人とともに、フジキドは重金属酸性雨の降りしきるネオン街を渡った。それは未だ弱々しかったが、次第に、フジキドの四肢に復讐のカラテが戻り始めた。 71

2015-07-18 00:44:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして、いつまたニンジャ追跡者が現れ、この二人を危険に晒すやも知れぬという考えに至った。彼は主任に問うた。「……スミマセン、もしよければ」「何だ?」「そのスシを頂けませんか……お代は、払います……」フジキドは主任の持つスシ折詰を見ながら言った。「あとは……独りで行けます」72

2015-07-18 00:48:42