「響け!ユーフォニアム」主人公・久美子の心情描写に寄り添う京アニの本気
いうなれば、主人公がシナリオに都合よく引きずられていないだけでなく、久美子という没個性的なキャラクターを受け付けない視聴者から不評を受けるリスクが高くなることを見越した上で、なお積極的にカメラが彼女のネガティブな側面を捉えようとする作り方をしている。京アニの本気度が窺えます。
2015-07-19 22:20:54シナリオ上の因果関係によってではなく、等身大の女の子である久美子の心情や無意識に振り回される形で芝居が組み立てられている。これは視聴者側におもねることなく、ドラマとして真摯に描き切ろうという制作側の意志表示と見て取れるのではないか。1話初見時の印象は大袈裟にいえばこんな感じです。
2015-07-19 22:25:02描き方自体はとてもさりげなく、人によってはテンポが遅いなどの不満もあったでしょうが、少なくとも僕には衝撃だった。その描出に成功しているかどうかはそれぞれの受け手にもよるでしょうが、失敗であろうとなかろうと、それを商業作品上で成立させようと挑戦する気概は買ってしかるべきだと思う。
2015-07-19 22:30:05まぁこれまで久美子ちゃんペロペロ的なツイートを何度も繰り返してフォロワーさんを辟易させてきたので、それがあながち根拠がない行為でもなかったという言い訳みたいなもんです。ただ本作においては久美子というキャラ造形をどう見るかで、作品自体の評価が大きく左右される面があることは確かかと。
2015-07-19 22:32:40ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ pic.twitter.com/JGupdrTKDX
2015-07-19 22:37:10とはいえ1話の段階では、正直に言ってその芝居の深さや展開にはまだ半信半疑であり、お世辞にもお話の作り方は上手いとは思えなかった。決定的だったのは次の2話、滝先生が生徒たちに全国を目指すよう「仕向ける」シーン。いかにも自然に描かれていますが、あれには度肝を抜かれた。
2015-07-19 22:39:11さりげなく描かれていますが、この時点で指導者としての有能さや葵先輩の挙手が部内の問題と関わりがあることなど、その空気の重さを通して深く描出しえている。滝先生のキャラが立つと同時に、部内の問題が間接的に露呈する名シーンです。生徒たち自身にさえ見えていない心理的攻防が身につまされる。
2015-07-19 22:43:34なぜこの時点で滝が指導者として有能だとわかるのか。滝はまず、「生徒の自主性を重んじる」とか「皆さんで今年の目標を決めてほしい」などと言いながら、去年の目標を黒板に書き出します。全国大会出場。すると部長が「それはスローガンみたいなもので」と、その言葉が本気ではなかったと注釈する。
2015-07-19 22:46:28そこで滝は「では、なかったことにしましょう」と言って、全国大会出場の文字に大きくバツを入れる。「私自身はどちらでも構わない」と念を押しつつ、全国を目指すのか、楽しい部活のままでいくのかと、二者択一を突きつける。結局、副部長の発案で多数決を取り、全国を目指す形に落ち着く。
2015-07-19 22:49:54しかしこのシーンを見て、本当に生徒たち自身が全国に行きたいと思っているように見えるだろうか。滝が手を「パン!」と叩いた時、明らかに彼らの表情は人質のそれです。少なくともこのくだりで本気の姿勢を見せているのは、しっかり肘を伸ばして挙手している麗奈のみ。大半は手が頭よりも下です。
2015-07-19 22:55:15ここではっきり読み取れるのは、滝が意図的に生徒たちの言質を取ったということです。そもそも彼は1話で何をしていたか。過去のコンクール演奏を聴いていたではないか。つまり彼は全国を目指すかどうかは皆さん次第などと言っておきながら、ハナから全国を目指す以外の選択肢を求めていないわけです。
2015-07-19 23:00:02滝は生徒たち自身に「自分たちが決めた」と植え付けさせるために、再三「私はどちらでも構わない」と繰り返し、二者択一を迫る。ここで滝が狡猾なのは、その直前に全国大会出場の文字に大きくバツをつけることで、生徒たちの無意識に罪悪感を植え付けている点です。その弱みに付け込む形で選択を迫る。
2015-07-19 23:04:49しかし逆にいえば、そうせざるを得ない事情があったのだろうとも推察できる。おそらく滝は、副顧問から部の現状について先んじて聞かされていたのでしょう。だから「全国目指して頑張りましょう」などと押し付ける形になるのを避けたかったのかもしれない。ただでさえ高校生はあまのじゃくなんだから。
2015-07-19 23:10:26滝がどこまで意識的に計算ずくだったのかは不明ですが、手を「パン!」とした様子から鑑みるに、全国に対する秘めたる情熱はこの時点で明らかです。また、この場面で多数決という最も民主的に見えつつ、最も安直で愚かな解決手段に飛びついてしまうあすか先輩の青臭さも、実に高校生らしくて良い。
2015-07-19 23:13:12といったように、同調圧力を逆手に取った滝の有能さのみならず、滝の秘めたる熱意や、滝のやり方でしか解決しえないだろう何らかの心理的トラブルが過去にあったこと、そのヒントが葵先輩のアリバイ作りにあることなど、2話のこのシーンだけで様々なファクターが読み取れます。
2015-07-19 23:19:15しかもここで上手いのは、久美子の葛藤(麗奈との内的ドラマ)が、全国を目指すか否かという部全体の問題(外的ドラマ)と不可分に結びついており、この物語が久美子という個人レベルのドラマを主軸としながらも、同時に部全体の群像劇として、互いに絡み合い、補い合う形で描かれている点です。
2015-07-19 23:29:16さらに麗奈だけが肘をピンと伸ばしているカットも、3話ラストでいきなり叫び出すシーンの動機としてきちんと繋がっている。「こんなはずじゃないのに!」というやるせない感情の爆発から逆算するだけで、4話を待たずとも、この学校を選んだ彼女の動機が滝にあることが推測できるように描かれている。
2015-07-19 23:44:12そのわかりにくさとテンポの悪さからしばしば批判されがちな1話、2話ですが、このようにユーフォというアニメは、これまでとは異なるアプローチによって作られたアニメであり、従来のアニメ観の鋳型で判断してしまっては、やはりその価値を見誤ってしまいかねないのではないかと思います。
2015-07-19 23:50:36えーと、ここまで語った内容は導入でして、本当に書きたかったのはここからなんですが(笑)我ながら長すぎる。2話の滝のシーンも素晴らしいのですが、このアニメはとにかく芝居の深さや生理描写が他のアニメと一線を画しているので、後日また改めてそのあたりに触れてみたいと思います。あざした。
2015-07-19 23:51:50