稲川淳二のつぶやき怪談　2015年7月20日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

こちらに歩いてくる音が確かに聞こえる。 Ｂさんは堤防でひとり、片付けながら、 『来たな、釣れたのかな？』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“ペコペコ、ペコペコ” 次第に足音が近づいてくるんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『ああ、来た、来た』 声を掛けようと思って、振り返ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

真っ暗な闇の中で、小さな光と足音がこっちに近づいてくる。 でも、姿が見えない。 明かりは胸の高さにあるけど、光しか見えないんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『風が吹いて雨が降っているから見えないのかな？』 『でも、普通なら姿が見えるのになぁ』 そう思いながら、片付けを終えたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“ペコペコ、ペコペコ” 音はしている、明かりもある。 でも、姿が見えない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

足音が段々と近づいてきて、いよいよすぐそばまで来た時、 『ええーっ？』 Ｂさんはよーく光を見て、ギクッ！とした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

目の前に来たのに、見えたのは光だけだったんです。 『姿がない！』 その瞬間、Ｂさんは気が付いた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『ウワーッ、人魂だーっ！』 Ｂさんは真っ青。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

人魂はそのまま、Ｂさんの目の前を横切って、スーッ……、と通りすぎた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『わわーっ、人魂だーっ！』 Ｂさんは転げるようにして、停めてあるワゴン車のほうに逃げ込んだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“ドドーン！” と、車の中に飛び込んだ。 バーン！と、力一杯扉を閉めた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

恐怖でもう、全身がガクガク震える。 その騒ぎで、先に寝ていたＡさんが目が覚めたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

寝ぼけ眼で見ると、異様な状態のＢさんがいるから、 「おい、どうしたんだよ？」 Ｂさんは、なんとか話そうとするけど、恐怖でどうにもまともに話が出来ない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「はぁ、はぁ、はぁ、」 Ｂさんはやっと落ち着いて口がきけるようになったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「で、出た、出たんだ！」 「い、今そこの前の、堤防で片づけていると……」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると、その話を聞いているＡさんが、なぜか急に顔が青ざめてきたんです。 震えてきて、顔面が蒼白になった。 全身がガタガタ、震えだした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｂさんは、自分の体験を話しているのに、 Ａさんの目線が自分のほうを向いていないことに気がついた。 顔が引きつったまま、全く自分の目は見ていない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

自分の斜め後ろを見ている。 逆にＢさんは、「おい、どうしたんだよ？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「俺の話をしているのに、なんでお前がそんなに怯えた顔してんだよ？」 Ａさんは真っ青になったまま、 「お、おい……」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「お前の後ろにな、肩口にいるんだ………」 Ｂさん、 「え？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ａさん、 「ふ、振り返るんじゃねぇ。」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｂさん、 「誰がいるんだ？」 「そいつ…、ガラス越しにこっちを見てる……」 「雨合羽をかぶって、全身ビッショリ濡れた男が俺たちを見てるぞぉ…」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｂさん、 「ぎゃーっ！」 後ろも振り返らないで、Ａさんにしがみついた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時、ワゴン車を覗いていた男は消えたそうです。 ふたりは車の中で震えが止まらない。