稲川淳二の『つぶやき怪談』(2015.07.20)

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稲川淳二 @Junji_Inagawa

私の顔を見るなり、 「稲川さん。俺の家庭菜園においでよ。 今、大根が30センチにもなって最高に旨いんだよ」 なんて言って、もう夜中なのに半分強引に大根を掘りに行かされましたよ。

2015-07-20 21:58:16
稲川淳二 @Junji_Inagawa

好意で言ってくれて嬉しいけど、 私の都合ももうちょっと考えてくれると助かるんですがね。

2015-07-20 21:58:41
稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、そんなお付き合いの中でもまた、 凄い話を聞かせてもらえることがあるんですよ。 私の工房から下って歩いて30分ほど行くと、そこには堤防があるんです。

2015-07-20 21:59:16
稲川淳二 @Junji_Inagawa

その堤防、実はここらでは有名な夜釣りの好ポイントなんです。 けっこう大物が釣れるんです。

2015-07-20 21:59:54
稲川淳二 @Junji_Inagawa

シーバスとかアイナメ、運がいいと鯛の大物も釣れるポイントなんですね。 その堤防の先には白浜があって、その奥は原生林が生い茂っている場所なんです。

2015-07-20 22:00:30
稲川淳二 @Junji_Inagawa

その堤防で、何人もの釣り人が真冬に夜釣りをしているんですね。 冬の最中、寒い中で深夜から次の日の朝まで釣っているんですから、 釣り人の情熱って凄いですよね。

2015-07-20 22:01:09
稲川淳二 @Junji_Inagawa

その日も地元の釣り人が行ったんです。 名前は仮に、Aさん、Bさん、とします。 年齢は30歳を過ぎた人たちです。

2015-07-20 22:01:43
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ふたりとも時間が空くと釣りをしている、釣りが大好きな人間なんです。 釣りは別名“悪魔の趣味”って言われてるんですよ。

2015-07-20 22:02:09
稲川淳二 @Junji_Inagawa

悪魔でさえ、釣りの魅力にハマってしまうっていう意味なんです。 好きになったら止められない魅力があるんですね。

2015-07-20 22:02:40
稲川淳二 @Junji_Inagawa

寒い最中、Aさん、Bさんは釣り糸を垂らして大物を狙っていたんです。 その日は風が出てきて当りがなかったんです。 波も多いから、当りがなかったんですね。

2015-07-20 22:03:14
稲川淳二 @Junji_Inagawa

仕方ないから、堤防から移動して、 湾に近い場所に移動して釣っていたんですが、そこでも釣れなかったんです。 そのうち、ポツ、ポツ、と雨が降り始めた。

2015-07-20 22:03:43
稲川淳二 @Junji_Inagawa

氷雨ですね。 ビューッ、風も強くなる。

2015-07-20 22:04:05
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこでAさんが、 「今日はダメだな。俺、ワゴン車の中で仮眠するわ、明け方にまた釣るよ」

2015-07-20 22:04:30
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そう、Bさんに言って、近くに停めてあるワゴン車に仮眠しに行ったんです。 Bさんはまだ諦めなかったんです。

2015-07-20 22:04:51
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「よーし、Aさんに大物を見せつけてやるか」 頑張って、堤防の手前で粘っていたんですね。

2015-07-20 22:05:13
稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると、 “ザザーッ!” 次第に氷雨が強くなる。

2015-07-20 22:05:36
稲川淳二 @Junji_Inagawa

“ビューウウウウゥ!” 風もより強くなってきた。

2015-07-20 22:05:55
稲川淳二 @Junji_Inagawa

雨も降り続いているし、流石にBさんも、 『いやだな』 と、思い始めたんです。

2015-07-20 22:06:20
稲川淳二 @Junji_Inagawa

周りを見たら、堤防に何人もいた釣り人がすっかり姿を消している。 いつの間にか、自分ひとりだったことに気が付いたんです。

2015-07-20 22:06:46
稲川淳二 @Junji_Inagawa

Bさん、 『ダメだな。俺も車の中で一休みして明け方に釣るか』 釣り竿や釣り道具を片付け始めたんです。

2015-07-20 22:07:12
稲川淳二 @Junji_Inagawa

周りは漆黒の闇。 その中で風が吹きつけ、氷雨が降り続いている堤防。

2015-07-20 22:07:35
稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時、Bさんは片付けをしながら、フッ、と堤防の先のほうを見たんです。 堤防の端、その内側の海の上で小さな明かりがひとつ。 ポツン、と光ったんです。

2015-07-20 22:08:02
稲川淳二 @Junji_Inagawa

その光が、ツツーッ、と堤防に近寄って、そのまま堤防の上に上がったんです。 そしてそのまま、その光が自分のいる方向に近寄って来るのが見えたんです。

2015-07-20 22:08:33
稲川淳二 @Junji_Inagawa

Bさん、釣りの片付けをしながら、 『あれぇ?』 『あの堤防の先に、砂浜から上がれる階段なんかあったかなぁ?』 そんなことを考えながら片付けをしていたんです。

2015-07-20 22:09:22
稲川淳二 @Junji_Inagawa

その光がBさんのほうに近づいてくるんです。 “ペコペコ” コンクリートの堤防を歩いていてくる、ゴム長靴の音がするんです。

2015-07-20 22:10:02