[改稿版]『当たって砕けて不連年』＃0～４

天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』 ＃０ pic.twitter.com/kU7BtDRM9k

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貴方には守りたい人がいるだろうか。 …いきなり何だと言う気持ちはわかる。しかしこれから話すことは、きっとその問いに密接に繋がると思うんだ。 これが貴方に1つの答えを示したり 貴方の中に既にある答えと同じだったり 昔誰かに誓った言葉を思い出させたり なんてことは、きっと全くない。①

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この話は、ただの俺の「妄想」なのだ。 決して現実の人物や団体には関係ないし、 決して史実に基づいていたり、決して俺の実体験にまつわるものじゃないし、 こんなこと決して「現実」に起こっていることなんかじゃない。 もう一度。これは「妄想」であり、本当の本当に「現実」なんかじゃない。②

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本当だよ。 本当の本当。 本当だ、多分。 だけど…確かに俺はこの時、この年、この頃に。俺の生きる理由となった人と出会ったんだ。 これは、そのときの話だ。 当時のことは全部…一言一句欠かさず覚えてる。 そしてこれは俺の中の一つの答えで、 俺が彼らに誓った言葉だ。③

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では最後に、くどいようだがもう一度。 これは「妄想」であり、 本当に本当に「現実」とは何も関係ない。④

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『当たって砕けて不連年』 ＃１－１

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物語を紡ぐ上で支障が生じないよう、最初に俺のことを話しておこう。俺は「公立高校の二年生」。「みんなからは横様と呼ばれている」。古語で異常を意味する横様に由来する訳じゃなく単純に「苗字からもじられた渾名」である。部活は演劇部。美術が得意なのもあり大道具や背景、演出を担当している。①

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将来の夢は劇団の美術さんになって、星の数ある舞台を自分の世界観で再構成していくことだ。現に今、週末には、俳優志望の友人の紹介で何度かとある劇団に見学させてもらっていたりする。あそこに足を運ぶ度、早くここに立ちたい、と胸が躍る。そしてそのために、計り知れぬ努力が必要だとも。②

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しかしどこかまあ俺ならいけちゃうでしょと調子に乗っている部分もあって。 このとき俺は進路に美大を選ばず、人間がどんなものに注視するのかを学ぶために心理学科と、海外でも活躍するために英文科を考えていた。周りが芸術に無頓着なのもあり、俺は妙に絵だけに限っては自信があるらしい。③

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一度演劇部に依頼があり保育園で演劇をしたことがあった。そのときの俺の描いた背景や小物の可愛さと言ったら…。正直俺が思うに部員たちの演技はへったくそなので、暗幕があがったときの子供たちの「かわいいー！」という真っ黄色な声は俺の作った世界観への感動の声なのだったと未だに思っている。④

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後日、部員たちにそんな話をしたら「自惚れすぎだろ」とため息をつかれた。 では聞くが、俺への黄色い声でなければお前らに向けられた声ってことだろ。酔ってる証拠だ、そっちこそ自惚れてるだろ、と指摘したら「死ね」と言われた。そのショックで一週間学校を休んだ。俺はメンタルが超弱いらしい。⑤

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だがそんな俺も、クソメンタル以外は結構面白い性格をしているらしいので、一年の頃の友達の何人かは今でも絡みにきて一緒に弁当を食べてくれる。今日もそんな感じで昼休みは先ほどの俳優志望の友人、丁字路三咲と弁当を食べようと、教室の真ん中の方に座って包みを広げた。 「いただきます」⑥

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と、今から俺に食べられる命へ挨拶して弁当箱を開いた。 すると。 これまで母が作った弁当の中でも一切見たことのなかった──さくらでんぶでかわいらしく描かれたピンクのハートと目が合った。⑦ pic.twitter.com/HqGaGD3weo

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「････････････････････」 絶句。 しかもさくらでんぶ以外におかずの姿は見えない。 おい。 まさか俺の弁当はウケ狙いな上に中身もスカスカなのか…？ ウケてないけどね。全然ウケてないけどね。 一体これで午後をどう乗り切れと。 笑えはしないけど、なんか泣けてきた。⑧

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硬直している俺を見てどうしたのかと弁当箱を覗いた丁字路もブツを見て唖然としている。 そして俺の顔と弁当を交互に見て、にやにや笑っていた。 と、俺はついに気づいた。弁当箱がいつも使っている樹脂製ではなく、金属製だ。これは俺の弁当箱ではない。つまり俺の弁当ではないということだ。⑨

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「まさか･･・・」 弁当を取り替えられた。 もしそうだとしたら、こんなふざけたことをするのは一人だけだ。 俺には───一人だけ天敵がいるのだ。⑩

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『当たって砕けて不連年』 ＃１－２

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屋上は閑散としていて殺風景だった。 架空の世界では当然のようにキャラがこの場を利用し、幼なじみと美少女転校生のハーレムを構築したり、授業をサボり昼寝の場として用いたり、版権によって使い込まれている地として名高い。が、実は屋上で走り回ると下階に足音が轟きかなりの騒音となるのだ。①

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だからか、基本的に屋上は生徒は立ち入り禁止でありがっかりする者も多い。そんな悩める屋上事情などお構いなしに錆びた柵の上に佇む男がいた。強風にあおられ痩躯が揺れる。バランスを崩せば地面へと真っ逆様にも関わらず雄大に海に浮かんでいるように───そいつは風の上に力を抜いて漂っていた。②

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その穏やかな背中に、俺はますますもって怒りがこみあげる。そのまま落っこちてしまえという思いも相まり、柵の上の十字架に向かって叫んだ。 「おい地口！お前また勝手にお前の趣味悪い弁当と俺の弁当すり替えやがったな、一体何考えてやがる！」③ pic.twitter.com/WjyM7LqGom

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するとそれを皮切りに、一気に十字架は力を抜き後頭部から屋上の床に落下した。さすがの俺も心配になる程の勢いで頭を叩きつけたので若干引いたが、当の本人はけろっとした様子で   「ごめん、聞こえなかった。もっかい」   と、だるそうに仰向けになりながら半目で俺を見た。 とぼけおって。④

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「お前･･･俺の弁当とこの弁当とっかえただろ」 「うんおいしかったよ。君のお母さんは君思いのやさしいお母さんみたいだね」 「んなこと聞いてねえ！どういうつもりだよって聞いてんだ！」 「どういうつもりって」 何でそんなことを聞くんだろう、と純粋に疑問に目をぱちくりさせる地口。⑤

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そして子供のように微笑んだ。 「こーゆーことしたら君から話しかけてもらえるかな、って思ったから」 「･･･････････････････････」 気持ち悪ぃ…。 この地口寸志というのは、あまり喋らない俺のような奴にさえ気味の悪い悪戯をしてくる、何を考えてるかわからない男だ。⑥

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本当もうむかつくほど黙ってれば見られるくらい顔は整っているのだが、というよりイケメンなのだが、人格のキモさや協調性のなさが祟って友達と呼べるやつなどこいつにはいない。こいつはいつもひとりぼっちだ。 だからか知らんがいつもこんな風に俺に嫌がらせか冗談かわからない茶々を入れてくる。⑦

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何で俺なのかよくわからないが、多分春のクラス替えの時に、まだ顔も知らなかったコイツに対して「よろしくな」みたいなことを言ってしまったのが原因な気がする。それ以降特に俺から地口に何かした記憶は全くないし、無意識に何かしたらしいこともない。逆に何かあってくれと思うほど納得できない。⑧