[改稿版]『当たって砕けて不連年』#0~4

前回投稿分より挿絵追加・大幅改稿版のオリジナル小説『当たって砕けて不連年』まとめその①
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天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

ふと地口は再び柵に立った。先ほどと同じように作業に戻るように事務的に柵の上で十字架になる。 「早まれ」 「落ちないよ平気、心配しないで」 ・・・・いや俺はお前にそのまま飛び降りろと言ったんだが。ヤツは呑気に平衡感覚には自信があるんだよね、と笑う。 「一つ、お願いがあるんだけど」⑨

2015-04-18 20:27:23
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

と、唐突に地口が冷めた声で呟いた。 俺は反射で嫌だけど?と返した。地口は俺の返事を完全に無視し、自分のペースで話を進めた。 「放課後にね、行って欲しい場所があるんだ」 「・・・・使い走りならごめんだぞ」 「使い走りじゃないよ、正義の味方だ。」 珍しく地口が、空に強く声を張った。⑩

2015-04-18 20:28:59
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「・・・・・・・・・・・どういう意味だ?」 俺が素直に尋ねると地口が薄く笑った。 「受け答えのたび譲歩してくれるんだね。君やっぱりいいひとだ」 別にそんなつもりはなかった。 気持ち悪…なんだ。 まあ自分の都合のいいように解釈すればいいと思うけど、こいつに言われると鳥肌立つな。⑪

2015-04-18 20:30:16
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

地口は続けた。 「学校の最寄駅に大きな交差点があるんだ。二車線の大きな。そこ、小学校や中学校が近くにあって下校中の子供の姿が多くて。こっそりランドセルに財布を忍ばせてプリクラを撮ってる姿というのはなっかなか風情が…」 「それで?」 「写真を撮ってきてほしい、小学生の」 「おい」⑫

2015-04-18 20:31:37
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「あ、間違えた。撮るなら写真より映像だよね」 「五十歩百歩っていう言葉があってだな」 「でも今回は違う。さっきも言ったけど正義の味方だから」 「俺、もう帰っていいか・・・・?」 「事故が起こるんだ」 唐突だ。 いや、恐らくこれが本題なのだろう。 しかし内容が内容である。⑬

2015-04-18 20:32:58
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「交通事故だ。若きダンプがランドセルの女の子と男の子、リュックの女の子をはね、三人は全身を強く打って死ぬ」 「事故って予見できたら事件なんじゃ」 「どこからかは知らないが、風を感じるんだ。事故を起こそうとする何かの呼吸が。つまり若きダンプに轢く気はないからやっぱり事故なんだよ」⑭

2015-04-18 20:34:33
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「前から思ってたがお前頭湧いてんじゃないか?」 「そうかもしれない」 と、俺の厭味に曖昧に微笑んだ。涼しそうに俺の顔色をただ窺っている、そんな感じだった。 「・・・・・話にならん、帰る」 俺は屋上から去ろうと入口のドアに手をかける。 するとその背中に地口はぞんざいに話しかけた。⑮

2015-04-18 20:35:44
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「丸腰じゃ心許ないだろ、正義の味方なら怖い顔の着ぐるみでも装備した方がいいかもよ」 ダンプに対して人間がかなわないのは確かだ。でも着ぐるみ?鎧とか強そうな装備じゃないのか。俺は地口に理由を聞いた。すると 「子供が怖がって全力で逃げるか、若きダンプが恐怖で目反らすかするでしょ」⑯

2015-04-18 20:36:57
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

今度こそ俺は勢いよく屋上から出て行った。 地口には付き合えない。悲鳴をあげて逃げられるなんて痛い程の存在否定だ。しかも純粋な子供の悲鳴というのは特に。死にそう。俺はメンタルが弱いんだ。しかし足は演劇部の衣裳庫へ進む。確かあのとき保育園でやった演劇は「赤ずきん」だったはずだ───⑰

2015-04-18 20:38:11
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

当たって砕けて不連年』 #2-1

2015-04-18 20:39:20
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

ニュースで読まれる原稿の常識的な規制表現として、死体の状況をぼかして報じるという掟がある。たとえば落下死などの出来事を述べる際に多い「全身を強く打って死亡」という表現だが、この場合は地面に強く打ち付けられたことにより身体が著しく破損していたり、バラバラになっている状況を指す。①

2015-04-18 20:39:24
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

地口が交通事故で死ぬと言うランドセルの男女とリュックの彼女は「全身を強く打って死亡」するらしい。つまり三人がバラバラになって死ぬ大惨事が起こるそうだ。 冗談じゃねぇ。 しかし冗談に過ぎない地口の妄言を信じて、俺は今狼の着ぐるみを持って最寄駅に張り込んでいる。 本当冗談じゃねぇ。②

2015-04-18 20:40:39
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

現在一六時二八分。 張り込みを始めて五分が過ぎ、ため息をついた。まだ五分だが、もうすでに超帰りたい。地口に踊らされてる自分に気づいたのだ。せっかく今日は部活がなかったのに…。 貴重な放課後が…。 地口への怒りで苛々しながら俺は交差点を跋扈する色鮮やかなランドセルに目を向けた。③

2015-04-18 20:41:53
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

昔ポピュラーだった赤いランドセルは既に姿を消し、水色や黄色、オレンジや黄緑などのランドセルが目に入った。男か女か見分けがつくように赤と黒で区別されたランドセルも男女の明確な境界線がなくなったのだろう。 しかし困った。ヒントがランドセルの男の子と女の子というだけでは完全に詰みだ。④

2015-04-18 20:43:04
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

なぜかって、外見で男子なのか女子なのか解らないのだ。今の時代女子でも水色が好きな子はいるし男子でもピンクが好きな子はいる。だから中性的な子が黄緑色のランドセルを背負っていたとしたら守りきれる自信がない。しかし地口は知ってか知らずかこんなことも言ってた。 「リュックの女の子」と。⑤

2015-04-18 20:45:58
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

小学校では普通リュックやバッグで通学することを禁止していることが多くこのランドセルの嵐の中リュックというのは悪目立ちをする。捜索するのはこっちが良いだろう。ダンプに轢かれるということはリュックの女の子の近くに、ランドセルの男女もいるはずだ。 「さーて、さっさと見つけて帰るか」⑥

2015-04-18 20:47:43
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

腕時計の針は一六時半をとうに過ぎていた。 地口め。事故の予言なんてくだらねーことすんなら時間くらい指定しろよ。くだらねーとか言っといて地口の言うことを真に受けてここにいる俺を、俺は心底疑問に思った。 何で地口の言うことなんか聞いてんだろ。 あいつの言うこと聞く筋合いないのに。 ⑦

2015-04-18 20:49:02
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

結局ランドセルの男女もリュックの女子も発見できずに時は来た。 俺の視界に大きな車が入った。駅近くにダンプって珍しいなあとぼーっと眺め、やっと違和感に気づく。 ──若きダンプにはねられ全身を強く打って死亡する───。 逢魔が刻の喧噪に突如、ダンプが法定速度を誤り突っ込んできた。⑧

2015-04-18 20:50:27
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

現れたダンプにクラクションで叫ぶ車と騒ぎに群がる人が場を埋めた。その中心には、 ランドセルの女の子と、 ランドセルの男の子と、 リュックの女の子である。 青信号を渡ってしまった彼らに若きダンプが迫る。俺が視界いっぱいに広がる情報を把握しようとすると、時は流れる速度を緩めていく。⑨

2015-04-18 20:51:21
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『ダンプカーが交差点を直進。』 『車両の信号は赤。』 『歩行者信号は青。』 『道路に群がる86の人と23の乗用車。』 『横断歩道には歩きスマホをしているリュックを背負った女の子と。』 『先ほど買ったのであろうチョコレートを、二人で分け合う』 『仲睦まじいランドセルの男女。 』⑩

2015-04-18 20:52:34
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『ダンプの運転手は若く、つい先ほどまで高校生だったような、幼い顔立ちに。』 『何かに酩酊しているような、恍惚とした表情。』 『彼我の間にはじきに距離という概念が失せ、物質と物質が正面からぶつかり、おはじきのようにはじけとぶ』────⑪ pic.twitter.com/1cHHuFDw5N

2015-04-18 20:53:58
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天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

寝落ちかけていた時が目をさましたその瞬間、俺は三人の絶滅危惧者と猛進するダンプの間にめがけ、留意しておいた狼の頭部を、思いっきりぶん投げた。 ただの狼の頭部ではない。 俺の手が入った最高傑作の特殊マスクだ。 実力派の鬼才(俺)によって作られた、本物よりも大迫力の狼の頭部である!⑫

2015-04-18 20:55:19
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「!?うわっ!」 若きダンプの悲鳴が聞こえたような気がした直後、目が覚めたようにダンプは急ブレーキをかけ急右折した。思わずガッツポーズが出たがしかし内心は驚愕と恐怖。耳を劈くダンプの急ブレーキ音に、ついに自分が轢かれそうになってた事に気づいたリュックの女子は携帯から顔をあげた。⑬

2015-04-18 20:56:30
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

ダンプの影で彼女しか見えなかったが、俺は命を救えた達成感にも本当に起きたという驚愕にも表情を変えることはなかった。ただ他の二人のことだけが気がかりだった。 ダンプの運転手はそのまま歩道に乗り上げ駐車をし降りて状況を確認する。その動作でダンプが視界からなくなり、横断歩道が見えた。⑭

2015-04-18 20:57:41
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

リュックを背負った女の子は無事だった。   ランドセルの男の子も、膝を擦ったがかろうじて無事だった。   しかし──ランドセルを背負った女の子の方は、 腰の関節が粉々に砕け、 丁寧に折られた折り紙のように、 下半身と上半身がぺったりと接していた。⑮

2015-04-18 20:58:57
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