[改稿版]『当たって砕けて不連年』＃0～４

天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』 ＃３－１

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翌日。 あんなことがあったくせにむかつく位いつも通りの、気持ちよくも悪くも無い朝だった。あんなことを目の前で見たくせに俺は普通に朝飯をたいらげ、歯を磨き、いつも通りに顔を洗った後、少しいつもとは異なり通学の時間までの時間が余ってしまった。 朝の手持ち無沙汰というのは久しぶりだ。①

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何故だか、色々なことが面倒な気分だ。 結局、あの後野次馬のうちの誰かの通報により、一人の少女の命を奪ったあの事故は、予言の主でも俺でもなく、パトカーによって収束した。ダンプの運転手は連行され、未遂とはいえ事故に巻き込まれたリュックの女の子と友達を失った少年は事情を聞かれていた。②

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ちなみに俺が狼の頭を投げたのを目撃した人はいたと思うが、発言力のない野次馬だったのだろう。俺は現場に走ってきた警察の人と挨拶も交わすことなく、その場を静かに離れ、狼の頭を回収し部室に戻して帰宅した。 何の気もなしにテレビを眺めるが、いつもと変わらないような報道内容に嫌気が差す。③

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昨日の事故のことなんてやっていなかったが、まあ地方の小さな駅近くの交差点だったし全国ネットで取りあげられることなんて期待していなかったから、妥当だろう。 と、うわべだけの嘆息を吐いた。 ところで。 最近の朝のニュース番組のテンションがいまいちわからないのは、俺だけだろうか。④

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ある局の情報番組は顔だけは良い女子アナがやたら推されていたり、ある局では朝からオリーブオイルばかり入れる料理コーナーが人気を呼んでいたり。 今は大分見なくなってしまったが、俺が毎日なんとなくチェックしてしまうことといえば、今日の運勢をランキングで紹介するコーナーくらいのものだ。⑤

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なんで占いコーナーなんてあるのだろう。まあ朝から真面目なテンションで報道されても誰も見ないだろうし、そういう工夫なのかもしれない。 噂をすれば、占いのコーナーが始まった。 ちなみに俺は「乙女座」だ。つぎつぎと星座が上位から紹介されていき、目をこらして乙女座を探すが見あたらない。⑥

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見逃したかな、いやそんなはずはない、と思ったが、最後の最後になって、ちゃんと紹介されたのでよかった。 いやよくない。 最後に紹介されたということは、つまり、そういうことだ。 「今日最も悪い運勢は･･････ごめんなさい☆乙女座のあなたです！」 うっさいわ。 ……うっさいわ。⑦

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謝るくらいなら最初っからランキングになどするな。 そもそもどこの馬の骨とも知らんヤツに俺の今日一日の運の向きなど決められたくなんかないわ。 ものすんごい知り合いでも嫌だけど。 「イライラがつのって人間関係が悪化！物の扱いには気をつけてね☆ラッキーアイテムは」 主電源を落とした。⑧

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テレビを見ていても仕方がないから何か絵でも描こうか、とスケッチブックを開くが、手の届く範囲内に画材がなかったので、「ばいばーい」と別れを告げながらスケッチブックを放り投げた。 全く物の扱いの粗い男もいたものである。 礼儀知らずめ。 スケッチブックさんに謝れ。 ごめんなさい。⑨

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して、改めて時計を見返すが、暇を持て余し始めてからまだ２分しか経っていない。 もういいや。 ちょっと早く学校に着いたところで怒られたりなんてしないだろうし。 俺はいつもより重い体をよっこらせと起こし、すでに準備のしてあった通学鞄をひっ掴んで、履き慣れた革靴をはいて、家を出た。⑩

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俺の家は陽のよく当たる一五階立てマンションの八階、セレブ階だ。 故に、昇降には言わずもがなエレベーターを用いる。紅色の床の居心地の悪い箱の中の鏡で、俺は少し伸びてきた前髪を気にしていると、１階に着いたのでエレベーターから降りた。 するとそこに、見慣れた痩身痩躯があった。⑪

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否。 忌み慣れた地口寸志がそこにいた。 「うお、おおおお前って！」 「感謝状ってさーもらえたのー？」 相変わらずこっちのペースを考えずに間の抜けた声で話を始める地口。 挨拶も前振りもなしかこのガマグチヨタカ。 いくらつまらない朝の番組でも、「おはようございます」くらいは言うぞ。⑫

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しかし感謝状とは何のことやらだったので、昨日事故が本当にあったことを報告した。 …お前の妙な予言通りだった、と。 「ふーん、でさー感謝状って」 「ふーんて…予言が当たったのに無反応か」 「だってできることしただけだし。それに予言じゃないし。その様子じゃ貰えなかったんだね感謝状」⑬

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「感謝状をもらう理由がわからないだろ」 「守ったじゃないか君は。ランドセルの男の子と、リュックの女の子を」 「････････････････」 「さすがに今朝のニュースじゃやってなかったみたいだね、その様子じゃ」 喉の奥が、気持ち悪く張り付いた。 別に俺は何も悪くないはずだ。⑭

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けど何故、こうも責められたように口の中がすっぱくなるんだろうか？ 返事のない俺が気になったのか、地口は俺の前髪をめくった。超キモかったので顎を殴った。 「何すんの」 「…そもそも運転手の視界に物を投げ込むっていうのは危険行為だ。俺に感謝状が送られることを、道路交通法は許さない」⑮

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「そう、じゃあ」 言って、馴れ馴れしく俺の両腕をがしっと握ってくる地口。愛想のいい微笑みを浮かべ、腹の底から明るい声で言った。 「ありがとう」 と。 感謝の言葉をかけてきた。 一人の命を取りこぼした、この俺に。⑯ pic.twitter.com/IZw0nNSjaq

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何故だか、烏滸がましいことに、俺は。 心の底から、報われた。 そんな気分になった。 思わず目頭が熱くなったが恐らく錯覚だろう。眠い目をこすったようにして涙目をごまかし、地口に掴まれた腕を振り払った。 「気持ち悪いな。触るなよ」 無意識のうちに声が裏返ってしまったが、無視した。⑰

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そして地口の顔を見ないよう足を学校へ向けたのだが。 「ぷっ」 ふと後ろで地口が吹き出した。今の自分の声が裏返ったのを笑われたのだと思い振り返ると、地口は通路の植え込みの草花を見てにたにたしていた。 「見て横様くん、アリがアブラムシを運んでるよ！食べるのかな！」 「子供かよ！」⑱

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思わず突っ込んでしまった。 地口のことを無視しようと努めていたのに…こいつといると何度もペースを崩される。 実に不愉快だ。 実に実に、気持ち悪い。 「ねえ横様くん」 「何だその呼び方」 「この葉っぱ、何枚あると思う？」 言って、意味深に細い指を、植え込みの草花に向ける地口。⑲

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その意図が読めず、俺は訝しげに聞き返した。 「…何でそんなこと聞くんだよ」 「いいから」 「４４３枚だろ、葉の数が何かあるのか？」 と、地口が黒い目を丸くして俺のことを凝視していた。間抜けに口をぽかんと開けていたので、俺は何かおかしかったかと疑問を抱いたが、心当たらなかった。⑳

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俺は葉の数を答えただけなのに、何を考えてるんだろうか？ すると地口は、確かめるように１、２、３、と葉の枚数を一枚一枚指で数え始めた。さすがに相手をしていられなかったので俺は地口を放っておいてそそくさと学校に向かう。 時間的にも、いつもと同じような時間帯だったので、丁度よかった。㉑

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『当たって砕けて不連年』 ＃４－１

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結局占いで言われた人間関係のトラブルに発展することなく一日が終わる。 やはり占いは信用ならん。しかもその信用ならん物に勝手にビリにされたのだから心外だ。 そういや今日地口が学校を休んだ。ヤツは一日あそこの植え込みの葉の数を数えてたのか？ あ。 つーことは、あそこにまだ居るのか？①

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まさかな。 しかしそんな気もすると一気に帰りたくなくなった。 「家帰りたくねーな」 するとそれを聞いてたらしい丁字路が俺に話しかけてきた。 「よう家に帰りたくない横様！」 「んだよやんのかゴルァ！」 「やんねーよどうした！？」 俺のささくれた心が、全く無関係な親友に火を吹いた。②