[改稿版]『当たって砕けて不連年』#5~9

前回投稿分より挿絵追加・大幅改稿版のオリジナル小説『当たって砕けて不連年』まとめその②
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天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

ふと疑問に思ったが、地口は思うだけでわかってくれることを知れたのでじっと見つめて今の答えを待ってみた。しかし地口は俺に漫画に出てくるようなかわいいヒロインみたいに首をちょん、と傾げて微笑んだ。 殴った。 「痛い」 「ごめんきもちわるくてつい」 「ひらがな・・・」 「で、何で?」④

2015-05-09 09:52:46
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「え?ごめん聞こえなかった・・・もっかい」 聞こえなかった? 心を読むのに聞こえないなんてあんの? そういやダンプの事故の前にも俺が地口に文句を言ったとき地口は頭から落ちて「聞こえなかった。もっかい」と言ってた。 まあ物の喩えかもな。何か別のことを考えてて心を読み損ねたのかも。⑤

2015-05-09 09:54:00
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

自分で腑に落ちる理由を考えている俺をよそに地口は「あっそういえば」と手を叩いた。 「横様くんは目を覚ましたら退院だって。あと生理食塩水は飲んじゃだめだよ」 「飲まねーよ」 「友達はもう帰った。君のこと心配してたけどお腹空いてるみたいだったから帰したよ。」 と、地口は言い終える。⑥

2015-05-09 09:55:43
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

伝えるべき情報がまだあるはずなのに。 俺は聞かねばならない。 すべてを知ってるこの男に。 「地口、明治さんはどうなった?」 地口は目を剥いた。 というか、しまった、みたいな顔をした。 やはりコイツは知ってる。 知った上でこのまま俺を何事もなかったように日常に帰そうとしてるのだ。⑦

2015-05-09 09:57:19
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

思えば地口が気持ち悪いということしか俺は知らない。俺は瞬間記憶能力という気持ち悪いスキルがあるので普通に過ごしてても多少は学校の人のことを知る機会があるのだが、全くだ。 恐らくコイツ自身かなり秘密主義なのだろう。しかし…恩人の安否だ。俺は知らなければいけないし、知る権利がある。⑧

2015-05-09 09:58:52
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺はしばらく地口の小刻みに動く黒瞳を見つめていたが、やがて地口の方が、諦めたように目を閉じた。 「明治さん、って言ったかな」 俺はどんな返答でも受け入れる準備はできていた。だから次の地口の返答に、俺は絶句せざるを得なくなる。 地口は言葉を選びに選び慎重に言葉を紡ぎながら告げた。⑨

2015-05-09 09:59:59
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「彼は、自動車を持って、そのまま死んだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」 そんな俺の様子を見て、もう一度地口は言った。 「だから・・・・彼ならあの後、自動車を持ち上げてそのまま亡くなったんだって」⑩

2015-05-09 10:01:36
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

地口の言っている意味がわからなかった。 明治さんが?自動車を?持ち上げて? それともコイツ起き抜けでまだ頭が働いていないのだろうか…。 考えて気づいた。起き抜けは俺だ。 「え…それどういう?」 「さあ…」 「お前、嘘ついてないよな」 「ぎく」 ぎくって言った。 なんだぎくって。⑪

2015-05-09 10:02:54
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

しかしぎくに返す台詞が思いつかない。本当に起き抜けで頭が働いていないようだ。 俺には我慢大会に付き合っていられるほど体力も無いと、面倒臭そうに起き上がり退室しようとした。目を覚ましたら退院らしいので、これ以上ここにいる意味はない。 「横様くん」 と、地口が気の毒そうな顔をした。⑫

2015-05-09 10:04:08
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

なんだよ。 今更本当のこと言われたって聞かないぞ。 とか考えつつ地口を横目で睨んでやると、地口は物憂げな眼で俺を見据えた。俺にとって気の乗らない話を始めるような、そんな雰囲気だった。 促してやった方が話し易かろうと「俺の話だよな」、と地口に尋ねた。 「うん」⑬

2015-05-09 10:05:25
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「ついさっき、横様くんのおうちに、キャリアカーが突っ込んだから、今横様くんの家には入れない・・・・・・・・・・・・・・・・・です」   一瞬俺は理解に遅れをとった。 そして、その内容を把握し、自宅が地獄の様相を呈している画を想像して、   「えっ」   と間抜けな声をあげた。⑭

2015-05-09 10:08:31
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』 #6-1

2015-05-16 09:03:21
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「横様くんのおうちにキャリアカーが突っ込んだ」そうだ。故に俺の家には今入れず、キャリアカーでキャリアカーを運び出さない限り俺は家無しということになる。少しふざけたがキャリアカーに車を乗せるには車を自走させる必要があるので本当はレッカー車で運ばれるのか?興味なくて車は詳しくない。①

2015-05-16 09:03:59
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

さて諸君。 君達は恐らく俺の家がどんな家だったかなんて忘れてしまったと思うので改めて確認を。 俺の家は陽のよくあたる一五階立てマンションの八階、セレブ階だ。昇降には言わずもがなエレベーターを用いる。 そう、八階にある我が城に、キャリアカーが突っ込んだというのだ。 わけわけらん。②

2015-05-16 09:06:47
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

何でこーなんの。 現場を見に行くと確かに八階に外側からキャリアカーが刺さってた。キャリアカーというか、正確にはカートランスポーターというべきか。トランポという俗称で呼ばれたり呼ばれなかったりする、複数台の車両を運搬するための車両だ。③ pic.twitter.com/xLngGPKd4D

2015-05-16 09:09:49
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天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

さて一体どうやって俺の家にトランポが突っ込むというド派手演出が行われる次第になったのか、地口案。 「どこか高いところからスロープみたいなものを設置して仮面ライダーみたいにこう、ぴょーんって飛んだんじゃない?ぴょーんって」 地口、お前のそういうとこ結構好きだ。 だが不可能だろう。④

2015-05-16 09:12:20
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

仮面ライダーが跳躍力あるダイブをキメられるのは、ウィリーというバイクテクのおかげだ。自転車でもできるらしい。 これは前輪を地面から浮かせた状態で走るという技だ。俺にはこれの魅力がわからない。仮面ライダーは跳躍直前にウィリーを行い予め巧いこと用意された坂を駆け上がり跳躍するのだ。⑤

2015-05-16 09:14:04
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

普通に走行したまま跳ぶと前のめりのまま地面に突っ込む。しかしウィリーすることで仮面ライダーは美しく後輪から着地し敵に向かって突っ込めるのだ。だが今回はウィリーができない上に重たいトランポが突っ込んでいる。地口案で八階目がけダァイすれば、マンション前の道路に落ちてダァイする筈だ。⑥

2015-05-16 09:16:27
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

馬鹿でもそんなことしない。 いや、 こんなことする奴こそ、真の馬鹿か。 俺ならもっと現実的な策を講じるとみた。 「というと?」 俺は地口の肩をぽんと叩いた。 「では謹聴頂こうかな。俺はこの説結構自信があるぞ。お前が仮面ライダー説なら、俺はガンダム説を提唱するぞ」 「がんだむ?」⑦

2015-05-16 09:18:30
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

地口がアホみたいな顔でこっちを見てきた。俺は構わず続けた。 「俺はダブルオーが好きだからそれに拠った話になるけど聞いてくれ。時は化石燃料が尽きた未来。新エネを巡り三国闘争を繰り広げガンダム狩りが行われてて、主人公たちガンダムマイスターの組織が」 「それ最後まで聞かなきゃだめ?」⑧

2015-05-16 09:20:31
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

地口から発せられた冷え切った声が俺の心をぶっ刺した。確かに概要まで話す必要はない。地口同様要約して述べた方が親切だろうと猛省した。 「ヘリかあるいは飛空挺からキャリアカーを発射して俺の家にブチ込んだんだ。これはコードギアスでも機体を発射する描写があったからサンライズ説としよう」⑨

2015-05-16 09:21:54
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

どうやら地口はあまりピンと来なかったようだ。こうして議論を戦わせてても虚しいだけなので俺は今夜の寝床を探す旅に出るとした。自宅はあんなだしひょっとするとあそこを見に行った瞬間、罠か何かが仕掛けられていて嵌ってしまう可能性もありそうだし。 すると、 「じゃあ、行こうか。横様くん」⑩

2015-05-16 09:23:17
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

と地口が言った。 行く?どこへ? 俺が何も言えずにいると地口は疑いの目を向けてきた。 「まさかあそこで寝るつもりじゃないよね?金もないのにどこかの宿に泊まるつもり?」 「あ」 言われて気づいた。 俺はあの時生き残るのに必死で財布を車の中に置いてきたのだった。つまり今俺は無一文。⑪

2015-05-16 09:25:40
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

そして携帯もないので友達に家に泊めてもらうようにお願いすることもできない。 今更自分が危機的状況にあるのが飲み込めてきた。地口は俺の心中を察して微笑む。 「ウチに来なよ。少なくとも野宿よりは危険が少ないことを保証するから」 ぐいっと、俺の返答を待たずに腕を引っ張って歩き始める。⑫

2015-05-16 09:27:46
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺は地口の言っている意味がやはりわからなかったが、家に泊めていただけるならご厚意に甘えようと思った。俺はだいぶ疲れてたし、精神的にも磨耗するような色んなことがあって、そろそろ腰を落ち着けたくなったのだろう。 あんなに嫌だった地口でも、寝床を頂けるのなら、どうでもよく感じていた。⑬

2015-05-16 09:29:06
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