[改稿版]『当たって砕けて不連年』#5~9

前回投稿分より挿絵追加・大幅改稿版のオリジナル小説『当たって砕けて不連年』まとめその②
0
前へ 1 2 3 ・・ 9 次へ
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

疲れ切った俺の頭は、まだ半分ほど平和な日常に浸かったままのようで。 自宅にカートランスポーターが突っ込まれたり、明治さんが突然車を暴走させたりした辺りで、なんとなく察することができなかったものだろうか。   地口が何のことを「危険」と言っていたのかを…。    ⑭

2015-05-16 09:30:24
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』 #6-2

2015-05-16 09:32:00
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

地口の家は、こじんまりとしたアパートだった。 ということは地口は俺と同じマンションに住んでいたのではなく、コイツが葉っぱを数えていて学校を休んだあの日、やはり単純に俺をマンションの入口で待っていたことになる。 中は8畳ほどのやや広めの家で、どうやら地口は自活しているようだった。①

2015-05-16 09:33:58
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

部屋の真ん中に卓袱台。部屋の隅に教科書が積み上げられておりテレビは無かった。てか電化製品の類が全くなかった。新聞はとっているようだ。 「テレビは無いんだな」 と俺は見ればわかることをあからさまに地口に向けて言った。地口は言いづらそうに首をぽりぽり掻きながら「うん」とだけ言った。②

2015-05-16 09:35:58
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

何もない部屋だ。暇するだろと尋ねると首を振られる。 「最近は暇してるほど暇じゃないんだ」 「トートロジーかよ」 「トートロジー?」 「定義の中にその言葉が入ってるってこと。「興味津々とは興味が尽きない様を指す」的な」 「へぇ博識だね横様くん」 だるそうに拍手し眼を輝かせる地口。③

2015-05-16 09:37:42
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

どうやら手に力が入らない程度には疲れているようだ。ふと地口がうとうとし始めたので、寝る前に聞いておきたいことを聞こうとするが、色々ありすぎてまとまらない。 風呂に入りたいのだがどうすれば? 風呂に入った後寝間着に着替えたいのだがどうすれば? それ以前に下着の着替えはどうすれば?④

2015-05-16 09:40:04
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

というか両親はどうしているんだ? そもそもお前はどうして俺にこんなに献身的なんだ? お前、本当に心読めんだろ? といった風に、何かを考え始めると次々に聞きたいことが浮かんできて、何から聞いたらいいかと一人静かにパニックしていた。 俺の発想力がすごいんだと前向きに捉えよう。 ね。⑤

2015-05-16 09:42:38
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

すると地口はその色々ある聞きたいことを読心したらしく、卓袱台に突っ伏しこちらを見た。 「ちょっと一眠りすんね。お風呂は沸いてるから、先に横様くんが入ってくら。目が覚めたら地口も入るので」 「おい待てそれって俺が入ってる途中にお前も入ってくるってことか?安心して風呂など入れるか」⑥

2015-05-16 09:44:50
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「うーでも我慢してほしいなん…光熱費とかガス代とか結構カツカツなぞぇ」 語尾がよれよれだ。 でも確かに一人ずつ入って風呂を温め続けるよりそのほうが経済的だと思った。宿を借りてる身なので渋々承諾した。 「着替えはさっきこんび、にでフリーサイズのぱん漬かってきたから、それ履いてよ」⑦

2015-05-16 09:47:57
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「パン漬かってきた?あ、パンツ買ってきたって言ったのか?おい地口しっかりしろ寝間着は何着ればいい」 「ん────────・・・・・・・」 徐々に声が力なくデクレッシェンドしていく。俺は根気強く地口の答えを待った。 が。 それきり、地口は動かなくなった。 眠りに落ちたようだ。⑧

2015-05-16 09:50:22
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

最悪今着てる服でいいかとあれこれ思考してると、突然地口が襖をびしっと指した。 「ジャージが」 「ジャージが」 「入ってます……………ぇん」 「入ってないのか?」 「それ着てください」 ぱたんと畳の上に腕を下ろすと地口は俺のことを眠そうな半眼で見つめた。 「あとで全部話すから」⑨

2015-05-16 09:53:07
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「え?」 ずっと横を向いていた地口は俺の方に顔を向けた。 「昨日予言した事故で横様くんがしたことと挙げ句を把握していたことも、今日起きた明治さんの事故もその挙げ句のことも、地口の脳力のことも君の家があんなことになった経緯も、全部。全部話すから。包み隠さず、ちゃんと話すから」⑩

2015-05-16 09:55:38
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「地口?」 「地口のこと、見捨てないでください」 地口は今度は額を卓袱台に乗せそのまま寝息を立て始めた。 …包み隠さず、ちゃんと話すから。 見捨てないでください、だと? 俺は地口を見捨てていたのか? 実際の俺の行動の中で地口を意識したことはただの一度もなかったのは事実だが…⑪

2015-05-16 09:57:42
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺は地口がずっとどんな気持ちでいたのか知らない。もしかしたら俺の素っ気ない態度が、無意識のうちにコイツのなにかを無神経に殺いでいたのだろうか? というか。 今回初めて俺の中にうずまくものを、地口寸志は初めて読み外した。本当に心が読めているなら、こんなことは言わないのではないか?⑫

2015-05-16 10:00:13
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

そこまで考えて、思い出した。 地口には心を読めないときもあるのだ。別のことを考えていて心を読み損ねた時だ。なら地口は何か考えていて、あるいは悩んでいて読心できなかった? そこでやっと俺は気づいた。 これが初めて地口が俺にぶつけた感情だと、気づいたのだ。 なぜだか胸が痛くなった。⑬

2015-05-16 10:01:45
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

見捨てないでください。 いきなり顔をのぞき込んできたり、馴れ馴れしく頭を撫でたり、手を握ったり。気持ち悪い行動の一つ一つに含まれた感情についてやっと理解できた。 きっと地口寸志は、寂しかったのだ。 だから苦手なコミュニケーションをとって、寂しさを紛らわそうとしていたのだと。⑭

2015-05-16 10:03:06
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

寂しさを感じる生活の中で俺は両親だけが頼りだった。地口にとってそんな存在となったのは、多分俺なのだ。 だから見捨てないでください、なんて言ったのかもしれない。 地口の両親と呼べる存在は、恐らく。 もうこの世にいないのかもしれない。 そんなことを地口の無造作なつむじを見て思った。⑮

2015-05-16 10:04:26
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』 #6-3

2015-05-23 10:02:48
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

俺は友達の家に泊めてもらう経験をよくしてきた方だと思ってるが未だに、他人の家の風呂を使うことには慣れない。余所の家の風呂は勝手を知らないから少し怖いと瞬間記憶でどこにシャンプーや石鹸が置いてあるか把握できる俺でも思う。どこにあるかわかってもどこまで許容範囲かはわからないからだ。a

2015-05-23 10:03:28
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

控えめに1押しシャンプーを頂戴した。俺はシャンプーとボディソープを同時に使い同時に洗い流すバブルメェンな烏の行水を行う。厳密には烏の行水はちゃんと体は洗ってないのだがまぁ要は体をさっと洗い、残りの時間は半身浴だ。 地口が入ってきたのは俺が完全にバブルメェンになった頃合いだった。b

2015-05-23 10:05:09
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

…ナイスタイミング。しばらく地口は泡に包まれた俺を白い目で凝視して何も口言わなかったので俺の方からバブルメェン!と言ってみた。だが 「そうですか」 真顔で流された。地口はたまに会話に敬語が入るがこの時の敬語にはすごい距離を感じた。 一気に切なくなったので俺は地口に洗い場を譲る。c

2015-05-23 10:07:01
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

冒頭から痩身痩躯と表現している通り、地口は肉付きがよくなく寒々しい体型をしていた。色素も薄い。風に吹かれたら倒れそうな頼りなさを感じた。 こんなことを考えていると地口はそれを目敏く読みとり 「風に吹かれても倒れないよ」 と言った。 「でも台風の日とか、飛ばされそうになんだろ?」d

2015-05-23 10:10:59
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

と俺が茶々を入れると地口は急に言葉に詰まった。 どうやら図星なようだ。 ん・・・え?図星なの? 「うるさいよ」 地口は恥ずかしそうに猫っ毛をわしゃわしゃ洗い始めた。 俺は普通に、冗談のつもりで言ったのだが本当に飛ばされそうになっているなんて。 痩せ形体型の人は生きづらそうだな。e

2015-05-23 10:12:14
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

痩せてる人に、痩せてていいな、は皮肉かもな。 ちなみに俺はこんなことを色々と考えながら半身浴に興じていた。体が温まっていくのを感じる。ビバ半身浴。 この血行がよくなる感じがたまんねえ。 とかどこかの健康オタクみたいなことを心中でぼやきながら、ふと地口の体に、妙なものを見つけた。f

2015-05-23 10:13:47
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

左の二の腕辺りから肘の関節までと。 左足の大腿部から膝頭の下辺りまでの部分だけ妙に赤黒くなっていた。他にも右の肋骨の浮いた脇腹や左の肩口にも転々とピンセットの先端で啄いたような奇妙な傷があった。 俺は真っ先に、虐待を疑った。 しかし地口はそれもちゃんと読心して、ゆるく否定した。g

2015-05-23 10:15:44
前へ 1 2 3 ・・ 9 次へ