【ミイラレ!第九話:学校の魔女のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。噂をすれば、影。 こちらは原文のみとなります。実況はこちら→ http://togetter.com/li/853142
1
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

身の半ばを斬り裂かれた小蜘蛛たちが地に落ちる。その裂けた体から、白い何かが噴き出した。「なに?」巡は眉をひそめる。彼女はその正体を早々に看破した。包帯だ。傷口から噴き出した包帯が小蜘蛛たちを包み込み、覆い隠し、大きくなり……大元と寸分違わぬ姿へと変貌させる。25 #4215tk

2015-07-29 22:36:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「利用できるものは、する」蜘蛛の巣から無理矢理に身を引き剥がした忍が道路に着地した。体のあちこちから覗く濃緑色の素肌を、新たな包帯が覆い尽くす。「今度こそ斬る。覚悟しろ」「斬る?あんたが?あたしを?」眉を跳ね上げた巡は、にやりと笑った。「そりゃ無理だね」27 #4215tk

2015-07-29 22:39:32
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

包帯の怪異が目を細めた。同時に、分身たちが一斉に斬りかかる!巡は落ち着いて両手を前へ差し伸べた。指から噴出した細い糸が、分身たちに巻きつく。それを確認し、彼女は低く構えた。そして「だってあんた、遅すぎるもの」一瞬にして本体の前に到達。忍の目が驚愕に広がった。28 #4215tk

2015-07-29 22:42:38
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……「んー?あれ、今なにしたの」不思議そうに魔女が首を傾げる。「虫けらが虫けららしい本性を見せただけだ」不機嫌にトリルが答えた。悪魔の目は捉えている。あの一瞬の出来事を。鬼女が背中から巨大な蜘蛛の脚を伸ばし、分身どもの只中を突っ切って忍の前に到達したことを。29 #4215tk

2015-07-29 22:45:01
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

分身たちがその身を切断され、崩れ落ちる。巡の速度で引っ張られた糸によって。トリルは鼻を鳴らす。「なんにせよ、忍のやつじゃ相手にならない」そう言う間にも、鬼女の猛攻が始まっている。悪魔は魔女を振り返った。「そろそろ遊びは終わりにしておくんだね」30 #4215tk

2015-07-29 22:48:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あららら」トリルの言葉に、魔女は多少慌てたようだった。下では鬼女が忍を糸で縛りつけ、容赦なく拳を叩きつけている最中。「うーん、これはしょうがないね。彼のとこには強い怪異が多いんだなあ」魔女は虚空に手を伸ばす。すると手品のようにその手の中に杖が現れた。31 #4215tk

2015-07-30 21:01:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

最低限の装飾しか施されていない鉄の杖。魔女はそれを無造作に鬼女へ向け、垂直に跳ね上げる。杖が向けられた地面から赤い火柱が上がった。「あ、避けられた。まあいっか」のほほんと魔女が呟く。忍に接近したときと同様、鬼女が目にも留まらぬ速度で後方に退避したのだ。32 #4215tk

2015-07-30 21:03:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……自らの立っていた場所を焼き尽くす火柱を見て、巡は眉間にしわを寄せた。見上げると、ふわりと魔女が降りてくるところ。巡は容赦なくそこへ糸を浴びせかける。殺到した糸はしかし、魔女をすり抜けた。思わず顔をしかめる。糸に貫かれた魔女の姿が煙のように掻き消えた。33 #4215tk

2015-07-30 21:06:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あーびっくりした。晒野ちゃん、大丈夫ー?」横手から魔女の声。振り返ると、当人が包帯の怪異を助け起こしているところだった。幻術の類か。巡はこの胡乱な存在に対する脅威度を改める。「ゲホッ、ゲホッ……不覚」「うんうん。上には上がいるってことだねえ」34 #4215tk

2015-07-30 21:09:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

魔女が怪異へ杖を持たぬ手を差し出す。その甲に亀裂が入り、真っ赤な血が流れ出した。包帯の怪異はそれに口をつけ、啜る。傍から見れば、それは高貴な相手に口づけする騎士のように見えた。「晒野ちゃんも結構強い方だと思ってたんだけど……えーと、巡さん?あなた強いんだねえ」35 #4215tk

2015-07-30 21:12:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

魔女が顔だけを向け、笑いかける。「そりゃあね。年季が違います、年季が」巡は己の袖に手を突っ込み、むすりと答えた。彼女は警戒を怠らない。目の前に降りてきた魔女に対してだけでなく、空中でこちらに睨みを効かせる悪魔に対しても。巡は空気が張り詰めていく錯覚を覚えた。36 #4215tk

2015-07-30 21:15:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そっか!うんうん、これはいいね。すごくいい」魔女が楽しげに笑う。血を啜り終えたか、包帯の怪異が立ち上がった。巡の眉間にしわが寄る。霊気を分け与えて回復されたか。三対一。しかもそのうち一人は確実に自分が太刀打ちできぬ霊格の怪異。さて、どうするか?37 #4215tk

2015-07-30 21:18:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

包帯の怪異が再び刀を構えんとする。が、魔女が鉄杖でそれを制した。「学校がとても楽しくなりそう。そう思わない、トリル?」「ボクには関係のない話だ」「アハ、冷たいんだ」不機嫌に言う悪魔に、魔女が肩を竦めてみせる。「じゃあ、今日はこのへんで終わりにしよっか」38 #4215tk

2015-07-30 21:21:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

唖然とした巡は、慌てて頭上を仰ぐ。あの悪魔の姿もすでにない。一人残された彼女は低く唸った。狐につままれた気分だ。自分ともあろう者が、相手の目的すら探り出せないとは?……なんにせよ、もう異界に用はなくなった。近くの曲がり角へ向かって歩き出す。40 #4215tk

2015-07-30 21:24:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

角を曲がると、そこはもう現世。こちらももう黄昏時。異界と繋がりやすい時間帯なのだ。一息ついた彼女は己の頭を撫でる。角が消える。上から下へ顔を撫でる。薄青い肌が人間らしい色へと変貌する。隅々まで『化粧』が行き渡ったことを確認した彼女は、こほんと咳払い。41 #4215tk

2015-07-30 21:27:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

それと同時に、羽織と着物が一瞬にして青を基調とした洋装へと変化する。……人間へと化けた怪異はぶらぶらと歩き出した。買い出しに行くという名目で外出した以上、実際に買い物をしてこなければ怪しまれるだろう。「さて、どうするかねえ」巡は思わず独りごちた。42 #4215tk

2015-07-30 21:30:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第九話:学校の魔女のこと】終わり #4215tk

2015-07-30 21:31:06