【ミイラレ!第十話:隠し神のこと】(原文のみ)
- RiverInWestern
- 1182
- 0
- 0
- 0
(え?)怜が不思議に思うときには、すでに彼女はグラウンドへ降ろされている。何度も大地へ打ちつけられながら、小雨が吹き飛んでいく。「ええい、まったく!こちらが心配しておった通りに騒ぎを起こしおって!」苛立たしげなその声に、怜は聞き覚えがあった。72 #4215tk
2015-08-07 20:39:07雨はもはや嘘のように消えている。事情を把握できない退魔師たちが戸惑ったように周囲を見渡していた。その中で良子と名雲はいち早く気づく。飛び込んできた怪異の存在に。「……天狗!?」名雲が驚いたように声を上げた。「如何にも!」黒羽を羽ばたかせ、天狗が胸を張る。73 #4215tk
2015-08-07 20:42:10「我こそは僧正坊ながれ!鞍馬山に名を轟かせし、僧正坊一族の一人!大天狗である!」大音声を張り上げたその小柄な天狗は、不意に声量を落とした。「今回は故あって助太刀に参った。おぬしらと争うつもりはない。安心するがよい」「そ、それはどういたしまして……?」74 #4215tk
2015-08-07 20:45:21況を飲み込めないのか、良子が間の抜けた返事をする。怜は目を丸くしてながれを見上げた。「あ……ありがとうございます。助かりました」まず一礼してから、彼女は尋ねる。「でも、どうしてここに?」「なに、呼ばれたのでな」そう言って、ながれは昇降口を指差した。75 #4215tk
2015-08-07 20:48:08そこにいたのは「ぜぇ……ぜぇ……ごめん、遅れた……」「四季!」怜の驚きの声に、退魔師たちの視線が集まる。そこにいたのは肩で息をし、膝に手をついた四季。その片手には古びた小槌。「儂一人でも気づけたであろうが、ここまで早く駆けつけられたは四季坊のおかげよ」76 #4215tk
2015-08-07 20:51:53ながれが腕組みをする。「故におぬしらは儂と同程度には四季坊に感謝する必要がある」「そ、そういうのはいい……」ようやく息を整えたか、四季が身を起こす。そして彼はおもむろに頭を下げた。「すいません、加茂先輩。友達が迷惑をかけました」良子と名雲が顔を見合わせる。77 #4215tk
2015-08-07 20:54:08「ええと、つまりあなたは」良子が何か問いただそうとしたそのときである。大の字になって伸びていた小雨が動いた。文字通り飛び起きた彼女は、退魔師たちを飛び越えて四季の前に着地する。目を丸くして見上げる彼は、瞬く間に怪異に抱き上げられていた。声も上げさせない早業。78 #4215tk
2015-08-07 20:57:18「四季ぃぃぃぃっ!会いたかったよぉぉぉぉっ!」「ちょ、ちょっと小雨……」燃え上がらんばかりに頬ずりされ、四季が辟易する。周囲の退魔師は呆然とその様子を見上げるのみ。「心配したんだよう!?学校に変な怪異がいるって聞いたから!大丈夫?まだなにもされてない!?」79 #4215tk
2015-08-07 21:00:14「だ、大丈夫だから!離してよ!人前でこれは恥ずかしムグッ!?」四季の言葉が途切れる。小雨にきつく抱きしめられたからだ。その顔が彼女の胸に埋まる。「むーっ!むーっ!?」「でももう大丈夫だよ!あたしがついてるからね!」「むーっ!」四季がもがく。が、小雨は離さない。80 #4215tk
2015-08-07 21:04:16どう対応すればよいかわからずに、怜は立ち尽くす。ハァ、と溜息。ながれだ。「まったく……」彼女は片手を前へ突き出すと「いい加減にせい!」何かを弾くように指を動かす。そこから空を切って飛んだ不可視の指弾が「あいたぁっ!?」小雨の後頭部を打ち据えたのだった。81 #4215tk
2015-08-07 21:06:40