八尺ヒヅメ決着篇

―― @tometis_story

――この曲はふさわしい者へ、全霊をもって捧ぐ。

―― @tometis_story

男が弾く月光ソナタと、雨音だけが空間を支配していた。

―― @tometis_story

出迎える準備は、できている。

―― @tometis_story

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八尺ワダチ @kankyoizon2

nanos.jp/higustis/novel…

白城@五月病 @goga_tis

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八尺ワダチ @kankyoizon2

ヒヅメ】希望は、絶たれた。冷たい雨を浴びながら、ヒヅメはただ呆然と、その場にくずおれていた。

―― @tometis_story

影で作りこまれたグランドピアノから、音が流れる。

八尺ワダチ @kankyoizon2

ヒヅメ】(何も、出来なかった) 悪意に呑まれ殺されることも。悪意に呑まれ殺すことも。 彼が、否定してしまった。自分の中の善意を、再び呼び起こしてしまった。

―― @tometis_story

男は音を生み出しながら、その光景を見届けた。

―― @tometis_story

@kankyoizon2 チョーク】「――呆気無いな」

白城@五月病 @goga_tis

世界】「――♪―――♪」 鼻歌を歌いながらたんたんと階段を上がる。酷い雨の中開いていた傘がびっちょりと濡れていたせいで道をつくる。それが鬱陶しくなって適当に放り投げた。

八尺ワダチ @kankyoizon2

ヒヅメ】ピアノの音も耳に入らず、ただそこに居る。柵の向こうの闇を見るように。光を失った空間で、彼女はただ、嗚咽のような声をあげていた。

白城@五月病 @goga_tis

世界】指をパチリとならして使った異能を解く。あの彼は、生き残っただろうか。しかしそれを確認することはせず、今度は踵を返して舞台へと向かった。

八尺ワダチ @kankyoizon2

@tometis_story ヒヅメ】「……」 声に、心臓を掴まれる。振り返ることすら出来ず、嗚咽した。

―― @tometis_story

@kankyoizon2 チョーク】「結果になるとは思わなかったよ」ピアノを弾き続ける。

八尺ワダチ @kankyoizon2

@tometis_story ヒヅメ】「なにもっ……、なにもできな、かっ……」 しゃくりあげながら言う。 「悪、にも、善、にも、なれずに、……」

―― @tometis_story

@kankyoizon2 @goga_tis チョーク】「それらに――！」男が奥歯を一度噛む。その後、がくり、と首がうなだれた後、ゆっくり顔を上げる。ピアノは引いたままだ。曲題は、ベートベンピアノソナタ第一楽章。

―― @tometis_story

@kankyoizon2 @goga_tis 白磁】「善か悪、どちらかになりたかったのですか、貴女は」

白城@五月病 @goga_tis

@tometis_story @kankyoizon2 世界】ぽたり、水がぼとぼとと音をたてて落ちた。舞台に立つ二人を見る為に、最も良い観客席に移動しよう。

八尺ワダチ @kankyoizon2

@tometis_story @goga_tis ヒヅメ】「どちらか、でないと、どちらにもっ……受け入れてもらえない、そうでは、ないかっ……」 切り替わりには気づかない。声はか細くなっていく。 「いや、……受け入れてもらえた、としても、吾は、自分が許せない……」

八尺ワダチ @kankyoizon2

ヒヅメ】「吾は吾が許せない、」 もう一度、反芻するように。声は闇空へと吸い込まれていく。

―― @tometis_story

@kankyoizon2 @goga_tis チョーク】「私や桐生に受け入れてもらえるという事、善悪の偏り、ですか」ピアノの手を止めて、立ち上がる。

―― @tometis_story

@kankyoizon2 @goga_tis 「女――御前は、己を許せないという」

八尺ワダチ @kankyoizon2

@tometis_story @goga_tis ヒヅメ】「許せない、……悪として、桐生さんに、殺されることも、……善として、チョークに、殺されることも、……出来ず、……善を愛しきれず、悪に染まりきれず、」