『フライング・ブルーシート・イン・ザ・スカイ』#3

このエピソードはこれで完結です。
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不幸鳥 @hukurou_nayuta

『フライング・ブルーシート・イン・ザ・スカイ』#3

2015-08-02 15:06:56
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」 先手を打ってアイサツをしたのは赤黒の死神だ。デリーターは焦燥しながらもアイサツを返す。「…ドーモ。グッドラックデリーターです。…ニンジャスレイヤー=サンだと…?」両者は構えた。「こいつの援軍か何かかよ」「関係ない。ニンジャは殺す」1

2015-08-02 15:10:30
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「だってよ…じゃあ先にその青い奴から殺しゃあいいじゃねえか」デリーターはブルーシートを見やった。ニンジャスレイヤーも青いニンジャを見る。至るところにクナイが刺さり、息も絶え絶えに崩れかかったビルを支えている。これが崩れてしまえば、何の罪もない人々をも巻き込む。「貴様が優先だ」2

2015-08-02 15:16:15
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「イヤーッ!」言い終えると同時に、ニンジャスレイヤーはスリケンを投擲!デリーターは辛うじてこれを避ける!「イヤーッ!」そこに畳み掛けるようにヤリめいたケリ・キックだ!「グワーッ!」デリーターの腹部にめり込んだ。実際デリーターは脅威足り得ない弱敵であった。「き、聞いてねえ…」3

2015-08-02 15:20:21
不幸鳥 @hukurou_nayuta

その上、先のブルーシートとのイクサにより消耗していた。「こんなの聞いてねーぞ…ニンジャスレイヤー=サンだなんて…アバッ」だがそんなことは知ったことではない。ニンジャスレイヤーの拳が繰り出される!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」4

2015-08-02 15:25:19
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「アババーッ…畜生…」デリーターはふらふらと後退する。そして、クナイ・ダートを投げた。その軌道が捉えたのはニンジャスレイヤーではない。「グワーッ!」声はブルーシートのものだ。「さ、先に、こいつさえ…アバッ…ぶっ殺しちま…えば……」デリーターがクナイ・ダートを再び投げようとする!5

2015-08-02 15:30:28
不幸鳥 @hukurou_nayuta

しかしそれが放たれることはなかった。何が起きたか?デリーターの左腕、そこにはブルーシートにより巻き付けられた青い布が伸びていた。それをニンジャスレイヤーは手綱めいて握っていたのだった!「忘れたか。オヌシの相手は私だ」「グワーッ!」デリーターは引き寄せられる!6

2015-08-02 15:35:28
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの手刀が、デリーターの首を捉え、そして両断した。「サヨナラ!」グッドラックデリーターは爆発四散した。悪趣味な装飾が辺りに散らばった。ニンジャスレイヤーはブルーシートを振り返る。「おい、俺を殺す前にこの瓦礫の下にいる人たちを助けてやれや…」7

2015-08-02 15:42:27
不幸鳥 @hukurou_nayuta

膝が震え、全身からは血が吹き出し、見るに耐えないほどの重傷だ。この状態でではどのみち助かりはしないだろう。「何故そうまでする」瓦礫の中から人を救出しつつニンジャスレイヤーは訊いた。「俺が正義の味方だからだ」「そんなものに拘る理由は」「…父親だからさ」8

2015-08-02 15:49:23
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「父親…」「そう。ガキってそういうのに憧れるものだろ。うちのもそうだったんだ。今はどうだかな」両者の間に沈黙が訪れる。父親と父親の視線が交錯する。「ハ。そろそろだ、わりいが独り言聞いてくれ」「……」ニンジャスレイヤーは何も答えない。そのメンポの下の表情は図りがたい。9

2015-08-02 15:55:07
不幸鳥 @hukurou_nayuta

ブルーシートは徐に口を開く。「父親らしいことひとつもしてやれなくて済まなかった…ってね」「それはハイクと取っていいのだな」「バカ言え。あんた構える気無しじゃねーか…」乾いた笑いを残し…「サヨナラ…!」ブルーシートは爆発四散した。ヤマミダ・ガイジは…死んだのだ。10

2015-08-02 16:00:47
不幸鳥 @hukurou_nayuta

ビルが崩壊する。ニンジャスレイヤーはそこに立ち尽くし崩れ行くビルと…ブルーシートの居た筈の場所を見ていた。青い布が宙に舞う。「……」ニンジャスレイヤーは立ち去ろうとした。その背に、「待ってください」声が投げ掛けられた。若い、男の声だった。11

2015-08-02 16:08:35
不幸鳥 @hukurou_nayuta

学生服を着た、おそらく高校生であろう少年だった。片脚を引き摺りながら、注意深くニンジャスレイヤーのもとに向かってくる。ニンジャスレイヤーは背を向けたまま立ち止まった。「…青いニンジャが…いたんですか」「もういない」低く言い放つ。「あんたが殺したんですか」少年の声は震えている。12

2015-08-02 16:13:55
不幸鳥 @hukurou_nayuta

その問いにニンジャスレイヤーは答えることはなかった。代わりに、「父親らしいこと、ひとつもしてやれなくて済まなかった」「はい?」少年は一瞬困惑し、そのあと理解した。「…不器用な人だったんだ。ニンジャと正義の味方と父親をやろうだなんて、本気で考えてたのかよ」13

2015-08-02 16:22:11
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「父親らしいことひとつもしてこなかった?それがまずおかしかったんだ。ただ居てくれさえすればよかった」ヒジロの独白は、誰に向けたものでもない。敢えて言うなら己と、もういない父親にだ。それからか細く告げた。「ありがとう」誰にか。それはきっと目の前のニンジャと……だろう。14

2015-08-02 16:28:55
不幸鳥 @hukurou_nayuta

ニンジャスレイヤーはヒジロを見、静かに言った。「私に礼を言う必要はない」ヒジロはその目を見返し、恐怖しながらも絞り出した。「きっとあんたは父を殺さなかった。なら、あの人は最期まで父親だった。ニンジャじゃなくて…」ヒジロは泣いていた。途中から何を言いたいのかわからなくなった。15

2015-08-02 16:37:15
不幸鳥 @hukurou_nayuta

ただ、ありがとうと繰り返した。うわ言のように、感謝の言葉を呟いていた。気づけばそこに赤黒のニンジャはもういなかった。しばらくして救急車が来た。あのニンジャが呼んだのだろうか。わからない。そのうち、ヒジロの意識は霞み、遠ざかっていった。16

2015-08-02 16:45:19
不幸鳥 @hukurou_nayuta

ある病院の一室。狭く薄暗い病室のベッドにヤマミダ・ヒジロは横たわっていた。もし自分がカチグミともなれば、こんな小さい部屋になど入れられることはなかっただろう。ふと、扉をノックする音が聞こえた。そいつは返事を待たずにずかずかと部屋に入る。「ドーモ、ヒジロ=サン!生きてるか!」18

2015-08-02 16:56:20
不幸鳥 @hukurou_nayuta

想像はついていたが、やはり入ってきたのはサトウだった。「ドーモ。サトウ=サン。怪我人相手に大声出すなって」 「ビルの下敷きになったって聞いたからよ…おれは心配で心配で…」 サトウはベッドをばしばしと叩く。そのあと、急に真顔になった。「…その、親父さんのこと…残念だったな」19

2015-08-02 17:00:51
不幸鳥 @hukurou_nayuta

彼の父、ヤマミダ・ガイジはビルの崩壊に巻き込まれ死亡した。そういうことになっている。「ああ。色々落ちついたらセンコでもあげにこいよ。父さん、お前気に入ってたみたいだし」「エエ!?そうだったのか!いつも鬼瓦みたいな顔しておれのこと睨んでたぞ?」ヒジロは笑った。「あれがデフォさ」20

2015-08-02 17:07:32
不幸鳥 @hukurou_nayuta

そうやってしばし父の思い出話に花を咲かせた。やがて、唐突にサトウは切り出した。「そうだ、知ってるかよ、ヒジロ=サン!あの時のビル倒壊事故。あれはニンジャの仕業だったとか!」「ほう…じゃあこれは知ってるか、ビルを壊したニンジャを倒した正義の青いニンジャと赤黒のニンジャって話」21

2015-08-02 17:12:48
不幸鳥 @hukurou_nayuta

サトウは目を丸くした。この返しが意外だったのだろう。そう、ニンジャなど存在しないハズだからだ。「エート、ヒジロ=サン。何か悪いものでも食った?」「食ったよ。病院食な」「病院食な?なら仕方ないな」ヒジロは小さな窓から外を見た。「なんかいたか?」サトウも窓を覗き込む。22

2015-08-02 17:16:14
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「なにもねーじゃん…驚かせんなよな」サトウは窓からゆっくり離れた。確かに何もいないし、ネオサイタマの町並みが見えるだけだ。「ああ。でもほら、あれさ」ヒジロは指差す。そこには、看板に引っ掛かった真っ青な布があった。「見ようによればあれニンジャじゃないか?」「バカ言うなって」23

2015-08-02 17:20:26
不幸鳥 @hukurou_nayuta

『フライング・ブルーシート・イン・ザ・スカイ』 おわり

2015-08-02 17:24:22