【邪悪の樹――三ツ牙】第一戦闘フェイズ――第一の樹

【不安定】アスタージア @toe_asta

わたしが彼女たちの約束を守らずに、目の前の無神論を優先すること、これは裏切りだろうか。裏切りなのだろう。きっと叱られてしまう。見放されてしまう。 話を聞かせてと、そういったのに。 しかし不安定は不安定を見捨てる。陰っていたのは不安ではなく罪悪だ。罪悪を感じるなら、いまこの舞台で。

【不安定】アスタージア @toe_asta

「これで、決まり。わたしは敗者。あなたは勝者」 不安定は笑う。 勝手で我儘。それでもいい、と。 首元にきつく縛ったリボンをほどき、差し出す。 「これを、誰かに、出来れば物質主義に、返してほしいの」 わたしは帰れないだろうから、と。身勝手に。

【無神論】アシーズモス @toe_atheis

小さな子が、『無神論』の勝ちだと言った。帰るのは『無神論』だと、約束を守るのは『無神論』だと言った。出された二つの手を見比べて、『無神論』は少しだけ呆然とした。 多分、分かっていた、ことなのに。 「……君が、」 思わず口を開いた。 「君が、俺と来るなら……」

【無神論】アシーズモス @toe_atheis

——もう一度、君の『同胞』に会うことは出来るかもしれない。 「……いや」 そう言葉にしようとして、首を横に振った。 「これは、酷な選択かな」 『同胞』を裏切って、もう一度会えなど、どうして言えるだろう。それは優しさではない。

【無神論】アシーズモス @toe_atheis

逃げを打とうとする『無神論』の弱さで、見たくないものに蓋をする甘さだった。 罪悪感から逃げようとする、幼さだった。 『不安定』を見下ろし、力無く微笑んだ。この結果を受け入れよう。差し出されたリボンを受け取って、頷いた。 「きっと届けるよ」

【不安定】アスタージア @toe_asta

大きな手に渡ったリボンを見て、安堵したように微笑んだ不安定は、ミルクティー色の髪が、紺色のワンピースが風に大きく攫われ始める事に気が付いた。 ――嵐が近い。 「……ありがとう、でも、あなたが気を負う必要はないの」 無神論を見上げ、その背後を指さした。 「嵐が来るまえに、行って」

【無神論】アシーズモス @toe_atheis

風が吹いた。これは嵐が来る前兆だと、『無神論』も知っていた。 ……残していけば、きっと『不安定』は生きてはいられない。何処か隠れる場所があると、何処か此処と繋がっている場所があると、思えるほど楽観的では無かった。 風が吹いた。髪が揺れた。 「……ありがとう」

【無神論】アシーズモス @toe_atheis

その青い目に『不安定』を映して、『無神論』は笑った。腕を上げ、ほんの一瞬の躊躇いを払い、『不安定』の小さな頭を撫で、立ち上がった。 其処から先、歩き出した『無神論』が振り返ることはなかった。彼にはあの子を見て立ち止まらない自信が無かったし、あの子を見る勇気も無かった。

【無神論】アシーズモス @toe_atheis

言葉も無いままに開こうとする唇を噛んで、元来た道を歩いた。 ……扉は、思ったよりも近くにあった。ドアノブに手をかけ、扉を開けた。足を踏み出したその一瞬、自然と涙が出た。

【無神論】アシーズモス @toe_atheis

. ——さあ、約束を果たそう。 .

【不安定】アスタージア @toe_asta

大きな掌が頭を滑る。感触に、胸の奥と目元が熱を持った。 そして、歩き出す背中が見えなくなるまでひたすら見つめ、これが見送るということだと知って、唇だけでさようならと形をたどる。

【不安定】アスタージア @toe_asta

深い森は光が連れてくる重低音、そこに強い風が吹き込んで葉を散らすだけで、そこに『何か』を見出すことは、きっともう二度とない。 初めて一人ぼっちを身をもって知った不安定は、ベンチに腰かけたまま見回した。……猫と花の氷は溶けてしまったのか見当たらない。

【不安定】アスタージア @toe_asta

ごめんなさい、帰れなくて。 ごめんなさい、帰らなくて。 話を聞かせてと言ったのはわたしなのに。パンケーキを食べたいと言ったのはわたしなのに。全部捨ててしまう。 悲しませてしまう。怒るかもしれない。叱ってくれてもいい。嫌われたても仕方ない。だが、それを選んだのは不安定自身だ。

【不安定】アスタージア @toe_asta

「ああ……でも、」 物質主義も、残酷も、醜悪も、貪欲も無事であればいい。 無神論も、彼の約束も無事であればいい。 でも――それが叶わないことを、不安定は何処かで理解していた。 みなが、不安定と同じ選択はしない。――当たり前だ。 だからこの選択は不安定たる少女の我儘なのだ。

【不安定】アスタージア @toe_asta

空っぽになった手を見つめ、かちゃりと鳴ったブレスレッドを思い出し――ああ、独りじゃなかったと、指で優しくなぞり、控えめについた青い石を撫で、胸に抱きこむように抱えこんだ。

【不安定】アスタージア @toe_asta

わたしはこの、忘れがちなブレスレッドだけ、いまは、あればいい―― でも、もしも……もしもこの手を、誰かが繋いでくれていたのなら―― 眼を閉じて、体を小さく丸めた小さな少女――彼女には、嵐の恐ろしい足音も、もう、何一つ、聞こえてはないなかった。

【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

一つ目の樹が枯れる もう二度と戻れない日々を道連れに 嵐がすべてを攫って去った #邪悪の樹