【邪悪の樹――三ツ牙】第一戦闘フェイズ――第五の樹

星の教会
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【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

【拒絶】の禍罪、「失墜」のもうひとつの側面が発動する。相手にかかる重力を、六分の一にまで一気に下げる。他者を浮き上がらせ救うことも出来るのだろう力を、敵の感覚を狂わせ同じ地に立っていると思わせないためだけに、迷いなく振るう。

2015-08-08 13:40:35
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

徐々に持ち上がる、手。 だが、そのとき体が軽くなった。 手はそのままの過剰な重さなのに、だ。 笑うしかない。これはまさに、拷問だ。

2015-08-08 15:47:27
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

否、そう嘆くのは三流だ。 コインを後方に三枚放つ。 そのコインを瞬時に収穫する。

2015-08-08 15:47:31
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

棍棒にのめり込むコイン。その助力と方向性を得て、普段に近い感覚で、棍棒は正しく振るわれた。同時に腹にめり込む拒絶(緋眼)の手。 その腕を、肩ごとへし折るべく、正しく振るわれた棍棒。

2015-08-08 15:47:35
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

だが!棍棒は凄まじい火事場の力(りき)みを伴ってなお、六分の一しか威力は出ていない。貪欲はそれを自覚できなかった。 また、平常の重力を伴った拒絶の腕が与える威力は凄まじく、咳き込む吐息に、多量の血が吹き出た。

2015-08-08 15:47:39
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

向こう三ヶ月は何も食べれないであろう胃の痛みに見合う利益を、貪欲は得たかった。だから、棍棒にめり込むコインをさらに貪欲の胃へと収穫(ブースト)する。拒絶と貪欲の動きが、等速であるならば、腹にめり込んだばかりの腕は、逃げ切れまい。 棍棒は、一度の攻撃の癖に貪欲にも、肩・肘・手首。

2015-08-08 15:47:43
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

それらすべてを破砕すべく、禍罪を利用したのだ。 「逃さない――――!」 血の霧と共に放たれる、威嚇のような声。

2015-08-08 15:47:49
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

例えば、仮に相手が禍罪を全く使わずに反撃を試みたとしても、確実に攻撃を当てることにのみ集中していた青年に、それを避ける術はなかっただろう。つい先刻呪縛に抗った力を、強い意志の限りに、粉砕のために乗せた攻撃であれば、何をは言わんや、である。

2015-08-08 22:30:37
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

獲物を捕食する獣のような唸りは聞こえていた。しかし、青年の目は、腕は、脳は、その対処に特化してはいなかった。筋が切れたことを感じるより早く、人体の硬い部分が砕ける時特有のあまり心地良くはない音が鳴る。処理しきれない負の情報は、堪え切れない熱さを青年に知覚させた。

2015-08-08 22:31:07
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

「っ……!!」 最早悲鳴をあげる余裕すらない。くずおれる。冷汗が額を伝う。漸く追いついた痛覚は、片腕が最早使い物にならなくなったことを知らせる。 それだけではない。視界が白む。流れる血と痛み、熱が意識を削ぐ。

2015-08-08 22:31:23
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

そんな中であっても、青年は【拒絶】だった。両膝をついた状態で、歯をくいしばり腕を回し、杖を後方へ放り投げた。杖と自身を同時に破壊されることを拒んだ。次は自分が殺されるか、杖が壊されるか。杖を質に降伏を強いられることは、無いだろうと思考する。

2015-08-08 22:31:57
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

相手が自分を殺そうとするにしろ杖を壊そうとするにしろ、ひとつずつ、策は残っている。ひとつは我が身諸共相手を死へ巻き込むための策で、ひとつは自分の矜持と邪悪としての生を犠牲に相手の命を押し潰すための策だ。どちらも相手次第、そしてどちらも、逃せば、次は無い。

2015-08-08 22:32:39
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

――ごめんな、【無神論】。多分僕は、大怪我をする……相手の選択によってはただの無駄死にになる……無茶をするよ。 痛苦による涙を払うように、青年は瞼を閉じた。最早まともに戦うことも、己が身を守ることも難しいことは、誰の目から見ても明らかだろう。それでも、諦めることは、まだしない。

2015-08-08 22:33:03
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

小さく口を結ぶ褐色の女。 敵の手の内が分かっているのに、次の行動がわずかとて予想できない。 「手負いの獅子は暴れるな」 赤い霧を吹きながら、そう言わざるをえなかった。

2015-08-08 23:57:52
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

貪欲は、一種異常な行動に出た。 過剰な重量のかかる手を、今まで持ち上げていたコインを強引に『収穫』し、切り離した。手が、あらぬ方向へと吹き飛ぶ。

2015-08-08 23:57:58
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

「生と死は紙一重。教会(かみ)に祈ろうと、月(めがみ)が見放そうと、それは変わりえぬ真実」 吐き捨てるように、しかしそれを絶対のものだと信じる抑揚。

2015-08-08 23:58:03
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

「巻き上げてください。……夢のある死を、与えます」 禍罪へ強く命じる、女の声。 貪欲が服の隙間の近くの裏地に縫い付けた、全ての硬貨を、『収穫』する。……その収穫先は貪欲自身でないといけない。 だから、先ほど切り捨て地面に転がった、貪欲の手に、全て引き寄せられた。

2015-08-08 23:58:09
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

肩当て、ベルト、片膝から三枚。肘、足裾、襟首から六枚。 計九枚のコインが、その射線に拒絶(白金)を捉えている。 同時。痛みが許容量を超えて、片膝をつく貪欲。 それと同時、棍棒にめり込んだ計三枚のコインが、『収穫』された。――棍棒が下方、拒絶の丹田へと、容赦なく突き出されたのだ。

2015-08-08 23:58:16
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

異常なほどに強く絶対的な相手の意志の、結果。青年から零れた声を、果たして声だと認識する者が何人いるのだろうか。 喉から無理に吐かれた音は、血と苦痛、煩悶に塗れていた。最早座り込むことも儘ならない。熱い。痛い。苦しい。間違っても美しくはない赤で染まった吐瀉物が、青年の口元を汚す。

2015-08-09 01:14:46
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

墜ちろと命じた自身こそが地に伏せる様を、誰かが嗤うだろうか。嗤うとして、それは今ここにいる敵ではないな、と青年は必死で意識を繋ぎ止めた。あちらには、容赦も油断もない。嬲ることも出来る自分に、それをしない。ならば、矜恃は捨てない、命を賭けよう。

2015-08-09 01:15:06
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

嗄れた声が紡ぐ、声なき相棒への最後の命令。 「――同胞に仇なす全てを、墜とし尽くせ」

2015-08-09 01:15:48
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

地面が鳴る。小石が震える。地割れの前兆だと、一度経験した者や知識のある者ならば分かるだろう。 杖は青年の手から離れている。今杖は地に落ちている。杖は、地面を、指している。 片膝をつく相手と、倒れ伏した自分に、繋がる、……【拒絶】が【貪欲】に狩られることを黙して見守るこの地全てを。

2015-08-09 01:16:13
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

――ただし、誤算は二つあった。 一つ目は、対象を広げたことによる弊害。重ねて禍罪の対象となった相手への手と身体への呪縛がこれで解かれた。 二つ目は、青年が情けをかけた為の影響。地響きの中、教会は鐘すら鳴らすことなく静かに灯りをともし続けている。 それらに、青年が気付くことはない。

2015-08-09 01:16:40
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

大地のいななき。 「……存外、悪くないやつだった」 そう、じんわりと云い、棍棒を投擲した。 棍棒の向かう先は、杖。

2015-08-09 10:38:23
『貪欲』アプリストス @Ja3_donyoku

また、杖が壊せるかどうかと別に、拒絶の背に腕を回す。 「……勝ったまま、帰れると思わないでね」 地割れが起きれば、杖が壊れれば、背に腕をしっかり回して抱き留められれば、拒絶と共に星の光届かぬ奈落へ落ちて共に死ぬ心算だった。ただ、体を浮かせたりして逃げられるのだけは、避けたい。

2015-08-09 10:38:40