【邪悪の樹――三ツ牙】第一戦闘フェイズ――第三の樹

雨の街
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【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

【第一の戦闘フェイズ——第三の樹】 『引き裂く者』より『醜悪(@laidugly)』 『断ち切る者』より『色欲(@lagneia_toe)』 雨が降っている。弱い雨が降り続けている。並び立つビルの隙間から、灰色の空が見える。……手は届きそうにない。 #邪悪の樹

2015-08-06 20:10:25
マリア・ガルシア @ro_akiyui

遠く、遠く、空に手は届かない。 遠く、遠く、遠く、手を伸ばしても、空は遠く。 遠く、遠く、遠く。 灰色の空へ向けて伸ばした手は、力無く垂れる。 遠く、遠く、遠く、遠く。 微かに降り続ける雨に全身を濡らしながら、高く聳えるビルの狭間、彼は空を見上げていた。

2015-08-07 18:55:22
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

灰色のビルの森の間から灰色の空が覗いている。そしてそれらの隙間を縫うように浅い雨が地面を濡らしている。 ごちゃごちゃした場所なのに、何もないように感じるのは何故なのだろうか。それが扉を抜けてこの場所に降り立った彼女の最初の感想であった。 「雨は、嫌ねえ私のように陰湿だもの」

2015-08-07 21:05:28
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

そっと自らの包帯を指で弄る。濡れた包帯が肌に吸い付き煩わしく感じるようだ。 「あぁ、ここに閉じ籠っていたい。誰にも逢いたくないもの。ああ、でもあの娘達には逢いたいわ」 屋敷にいる皆の顔を思い浮かべ、それから首元の約束に触れてほうと溜息を吐く。 「誰か……いらっしゃる?」

2015-08-07 21:05:44
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

何とか身体を奮い立たせ、灰色の中をズルズルと駆けずり回る。 すると、威圧するようなビルの隙間。そこに人のような影が見えた気がして、「あのぉ」と呼び掛ける。 「誰かいらっしゃるのかしらぁ」 自分に言い聞かせるように、決して大きくない声で問い掛ける。

2015-08-07 21:06:19
マリア・ガルシア @ro_akiyui

——遠く、遠く、遠く、遠く。 初めて見る本物の空は遠く、雨粒は手の中で形を保たない。揺らぎ、滑り落ち、形を無くす。灰色の重たい雲は、触れることも叶わない。 ——遠く、遠く、遥か彼方、それはあまりにも幽かな。 かけられた声に、彼はゆうるりと振り返る。

2015-08-07 22:11:57
マリア・ガルシア @ro_akiyui

その瞳はアメジスト。金を散らしたかのように、雨の中でも鮮やかに輝く。 その髪は黄金。本物の金を糸にしたかのような繊細なその髪は、美しくも儚げに雨に濡れている。 生成りのブラウス。白のスカート。剥き出しの足が、アスファルトを踏む。ゆらりと揺れた足元は、しかし一瞬の出来事で。

2015-08-07 22:12:21
マリア・ガルシア @ro_akiyui

「君は——」 低く涼やかな声が、雨の隙間を縫って通る。言葉、視線、意識。彼の全てが、声をかけてきた者へと定まる。 柔らかく弧を描く唇が、開く。 「——だれかな」

2015-08-07 22:12:30
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

醜悪には、宗教という頼れる崇拝物は存在しないのだが、もし今この光景を的確に表すのならばそれはまさしく神が天から舞い降りたものなのだと、そう愕然とした。 自分とこれだけ違うものがこの世には存在していたのかと畏敬の念を抱くと同時、頭はチクリと針でも刺されたように痛みに襲われる。

2015-08-08 00:06:13
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

そして同時、胸に靄りとした暗い感情が巻き起こるのが分かった。もしや空っぽの記憶の中にこの人は存在しているのでは、と疑いが頭を駆ける。 視界の中、薄い雨のベールの向こうに聳え立つ相手。そこからの問いに「私は、醜悪の名を持つ者。イアシィーミア」と答え、「貴方こそ誰」と問いを返した。

2015-08-08 00:06:44
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

「貴方を見ると、少々イラつくの」 ふ、と漏らす。それと同時自分がこの相手に抱いていた感情の名前を自覚した。 「貴方が、私たちとは違う生物なのね」 確かに醜い外見の自分とは違う生物。しかし、形においては館の皆と其処までの違いはないように思えた。

2015-08-08 00:06:49
マリア・ガルシア @ro_akiyui

「……『醜悪』。そっか、君が、『醜悪』なんだね。それじゃあ、これは、神様の慈悲かな」 ふらりと体を揺らし、足を動かし始める。ひたり、ひたり、ひたり。妙にゆっくりとした足取りで彼——『色欲』は歩いていく。『醜悪』だと名乗った醜い生き物の元へと、ロングスカートの裾を引きずりながら、

2015-08-08 00:31:37
マリア・ガルシア @ro_akiyui

ゆっくりと、ゆっくりと。 「私は『色欲』。貴方と私は、違う生き物だね。だって、私——」 『醜悪』に手を伸ばす。ゆっくりと、ゆっくりと。その頬に触れようとする手は、弾くこともできるだろう。 「あなたみたいなひと、うらやましい」

2015-08-08 00:32:05
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

ひらりひらりと蝶のようにスカートを瞬かせ此方に歩み寄る。 羨ましい。そう相手は言った。醜悪が相手ーー色欲に対して抱く感情を、まるで我が物のように振りかざした。 触れる手を弾くことも無く握る。強く、握る。そうしてそれを此方に引き寄せんと強く引っ張ろうと力を入れる。

2015-08-08 01:41:07
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

「それは此方のセリフよ、ふざけないでくれる?」 いつもよりもはっきりと、そして感情が篭った声で告げる。包帯の下から覗く琥珀には憤怒の色が混じる。

2015-08-08 01:41:15
マリア・ガルシア @ro_akiyui

引っ張られるままに、身体を動かす。差し出された憤怒に、『色欲』はまるで飴細工を溶かしたかのような柔らかな視線で応えた。 「あなたのせりふ?そう。なら、うばってわるかったね」 くすくすと、控えめに笑う。もう片方の手を、『醜悪』のその醜い顔に這わせて、撫でる。——嗚呼。 「いとしい」

2015-08-08 06:20:07
マリア・ガルシア @ro_akiyui

君は、君のその顔は、君のその身体は、とても愛しい。 心の根から生まれる言の葉は、まるで睦言のような甘い囁きとして、微かに開いた唇から、花を咲かせた。

2015-08-08 06:24:56
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

【色欲】の動作一つ一つに見惚れるモノがある。何処と無く眼を惹きつけられるような、つい観ているだけで過ごしてしまう何かがある。 しかしそれがまた、醜い【醜悪】にとっての苛つきなのである。 実力差が違うモノに対しては最早嫉妬心も湧かないとは聴くが、差が開きすぎて怒りが湧き上がるとは

2015-08-08 10:51:51
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

果たしてあるものなのだろうか。 自分の中に渦巻く感情を理解も出来ぬまま、【醜悪】は【色欲】の言動に胸の内を滾らせていた。 自分がされているように、また【色欲】の頬に【醜悪】も手を伸ばす。 「貴方こそ、愛しいわ」 怒りが湧き上がるが。それ以上に美しい物を愛でる感情もある。

2015-08-08 10:52:12
マリア・ガルシア @ro_akiyui

——そう。 音には出さず、呟いた。自身の頬に触れる手に手を重ね合わせ、ゆっくりと離す。するりと両手でその手を撫でて、握って、『色欲』は笑った。 「君も、愛しいと思うんだね」 力の込め方を知らない両手で、『醜悪』の手を握る。どんなに力を入れたつもりでも、それは弱々しいだろう。

2015-08-08 11:45:30
マリア・ガルシア @ro_akiyui

「ありがとう」 囁き。祈りにも似た音が、雨の街に消えて行く。ふわりと手を離し、『醜悪』の肩に手をかける。 「それじゃあ」 人目を惹く笑みは、それでも儚く、其処から消えてしまいそうなほどに弱々しく。 『色欲』は、『醜悪』の肩を、押した。 「さようなら」

2015-08-08 11:45:38
マリア・ガルシア @ro_akiyui

足下が揺らぐ。あるはずの地面が、薄れて行く。其処に『色欲』が立るのは、きっと『色欲』も同じだからだ。同じように『幽か』で、『遠い』から。 二人の下に口を開いたその穴は、何処に落ちるかも分からない、底無しだ。

2015-08-08 11:45:47
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

「えっ……?」 肩に、手が触れる。それが何の行為なのかと認識するよりも速くーー身体はその穴を認識し、そこに突っ込んでいく。 さっきまで穴は無かったハズと頭は認識しているがバランスを失い今にも墜落しそうな自分は確かに存在する。 「嫌よ」 このまま自分は落ちて死ぬのか。

2015-08-08 12:27:14
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

そんな疑問が頭を掠める。きっと何時もの自分ならばこの状況から何とかしたのだろうが、どうしてだか恐怖ばかりが身体を支配し、強張らせる。 「あぁ……でも」 そっと、首元のリボンに触れる。これがある限りは、まだ死んではいけないのだ。 「禍罪、【醜異】」 呟くと同時、彼女の手が伸びる。

2015-08-08 12:27:29
【醜悪】イアシィーミア @laidugly

まさしく異形の者だとばかりに、向かいの縁まで細い手を伸ばし、掴む。するとまた腕を収縮して、身体をそこまで運んでいく。 ひび割れたアスファルトへへたりと座り込むと「悪い冗談だわぁ」と呟く。

2015-08-08 12:28:37