タイトル未定のリレー小説 第三章

ゐつき @itukikashima

@tccakk 「所長！」保のただならぬ声に我に返る。慌ててリビングを出るとそこには……隣の八百屋夫妻。何時も人の良い二人だが今は何か違う。何処か困惑している様だ。「無心さん…」「私達人間じゃないんですって…」沖縄で保が言っていた。隣の八百屋夫妻は機械人形だと。「敵か?!」

ゐつき @itukikashima

@tccakk 咄嗟に身構えるが、八百屋夫妻は困惑したまま、お互い顔を見あわせている。「無心さんから、マイクロチップを受け取って来いと言われたんですけど…」旦那さんが申し訳なさそうに口を開く。「私達、このまま八百屋してたらいけないのかしら…」おかみさんが寂しそうに呟いた。

ゐつき @itukikashima

@tccakk あのマイクロチップに何が書き込まれてるのか知らない。先代が親友から何を託されたのか解らない。神がそこまで欲しがるのだ、さぞ大事な事が書かれているのだろう。「これです」カバンからロケットを取り出すと、夫妻に渡した。「八百屋続けて貰わないと困ります。スーパー遠いし」

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 既にロケットの中にあった写真については、沖縄にいた時に蓮に説明してある。マイクロチップのこともだ。蓮は写真だけ抜き取り「あとは捨てといてや」と言った。 マイクロチップについては、滝に確認をしてもらった。チップの分析を終えた滝は、私にだけこう言った。

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 「アレは必要ない。あんなことは許されない。処分したほうがいい」と、変態滝ではなく、東博士の口調で。 だから、もうこのロケットとマイクロチップに用はない。 それよりも、おっちゃんとおかみさんのほうが大事だ。 この人たちは機械人形かもしれない。けれども、

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 私の知ってる二人は、紛れもなく人間だ。 「ありがとうね。今度いっぱいオマケするから、また来てね」 おっちゃんもおかみさんも、そんなに頭を振ったら貧血起こすぞと言いたくなるぐらい、何度も繰り返しお辞儀をしてから帰って行った。

ゐつき @itukikashima

@tccakk これでもう一切関係無い。本当に平和な日々だ。依頼が無い日はゴロゴロして、依頼が来たら猫探しでも浮気調査でも何でもする。それが良い。先代は…。多分まだ母船でゲリラをしているのだろう。大量の機械人形と戦いながら…。ゲリラを…？ん？ちょっと待て。

ゐつき @itukikashima

@tccakk 先代は何故こんなに戦線を維持出来てるんだ？あの墜落騒ぎから結構な時間が過ぎた。今更奴らの動きがあったと言う事は、向こうで何かしらの決着なり、変化があったと言う事だ。先代がゲリラ戦を仕掛けたとして、そんなに戦力は無いハズだ。それでもこれだけ保ったと言う事は…

ゐつき @itukikashima

@tccakk 先代は奴らとの戦い方を知っている、と言う事に他ならない。そしてあのタイミングで自分を探す様に仕向けたのは、ゲリラ戦に私を加える為に呼び寄せたかったのだろうか…？ならば私にもわかる様に、奴らとの戦い方を教えているハズだ。何だ？ヒントはどれだ？「所長どうしたんス？」

ゐつき @itukikashima

@tccakk 保は小岩井コーヒーを飲みきり、今度は賞味期限が完全に切れてるパンを食べていた。「お前本当によく食うな」保は最初に出逢った時からよく食う奴だ。機械人形も飯を食うのかと、当時は感心したものだが…。そう言えば奴らは、何をエネルギーとして動いてるんだ…？

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 保はおそらく食事からエネルギーを得ていると考えて間違いない。八百屋の二人や、まだ見ぬ潜入型もそうなのだろう。人間と変わらず生きていくためには、食事でエネルギーを得ていると考えるのが至極自然だ。 だが、方舟の連中は違う。

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 衛生軌道上で食事によるエネルギー摂取など、無駄以外の何物でもないだろう。 衛生軌道上にあって、あれだけの数の人形が活動できるだけのエネルギー。 「なぁ、保。お前、食べ物無かったらどうやってエネルギー摂取する？」 ダメ元で保に聞いてみる。

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 「うーん、食べ物無かったら困るっすねー。多分、動けなくなりますよ」 だよなー……。 保を縛り付けて2週間ぐらいエサを与えず様子をみたいところだが、万が一何かあったらめんどくさい。私には保は修理出来ないし……いないとこんなアホでも困るから、な。

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima その時、探偵事務所のドアがコンコンと鳴った。 「保」 指示を出そうとした時にはもう動いている。これだから保は便利だ。 ドアが開けられると、そこには思いもしないヤツがいた。 下半身と左肘から先が無くなっている、あの機械人形の長。神だった。

ゐつき @itukikashima

@tccakk 「あ、すみません間に合ってます」保は反射的にドアを閉めた。コンコン。コンコン…規則的なリズムでノックが続く。「うっせーな！間に合ってるってば！」保がドアを開くと、微動だにしない姿のまま、やはり神がいた。「保、良いから通せ。」「え？でも…」「仕方ないだろ」

ゐつき @itukikashima

@tccakk 通せと言ったが足は無い。だが手を貸す気は無い。すると神は右腕一本で這いずる様に事務所に入って来た。夏の夜に見かけたら猛ダッシュで逃げる姿だが、蛍光灯の下では妙にコミカルにすら見える。「急にスまなイな。55代目無心大志。邪魔ヲすル」口調にダメージは感じられない。

ゐつき @itukikashima

@tccakk 「どの面下げてと言いたい所だが、その様はどうした神」「単刀直入に言おウ。54代目無心大志。アレを倒す為に力を借りタい」………は？今こいつは何と言った？「55代目無心大志。54代目を倒す為に力を貸シてくレ」私に先代を倒す力添えをしろと？機械人形側につけと言ったのか？

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 正直、何を言っているのかわからん。が、 「保。コーヒーをお入れしろ」 こいつは無心探偵事務所のドアをノックし、私に「力を貸してくれ」と言った。 ならばこいつは敵じゃない。 依頼人だ。 「詳しくお話しをお聞きしましょう。どうぞ中へ」 私は神に一礼した。

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 「スまなイ」 神はそういうと右腕一本の力で起き上がると、一足飛び、いや、一腕飛びというべきか。とにかく、ジャンプ一回で3mほど先のソファへと着地した。 なるほど。こうやってここまで移動してきたのか。ホラーとしか思えない移動方法だ。よく通報されなかったな

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 「要件を詳しくお聞きしましょう」 神の向かいにある私専用のソファに腰掛け、話しかける。 「どうぞ」 保がコーヒーを依頼人の前のテーブルに置く。 いつもの風景だ。依頼人の姿以外は。 「どウも」 神は上半身のみでソファに座り、右手でカップを取り、口へ運ぶ。

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 「ナかナかうマいコーヒーだ」 「それはなにより。……保。雑巾を」 神の飲んだコーヒーは、神の身体を素通りし、ソファが茶色く染まる。 そりゃ身体に穴空いてりゃそうなるわな。 「あア！こレはスまなイ！」 慌てて右手でコーヒーを拭く神。 シミが広がる。

無心大志withTC @TCCAKK

@itukikashima 「ああア！重ね重ねスまなイ！」 狼狽する神。 雑巾を持ってきた保に、何度も頭を下げている。 ソファと神についたコーヒーをあらかた拭き終わると、神が語り出した。 「54代目無心大志ハ、地獄の釜の蓋を開けよウとシてイる」 「地獄の釜の蓋……？」

ゐつき @itukikashima

@tccakk 「アのマイクロチップの中身は確認したカね？」神はコーヒーを諦め、カップを置いた。マイクロチップの中身は滝しか知らない。私は聞く必要も無いと聞かなかった。「いや、見ていない」「そうか」神は惰性的に茶菓子に手を伸ばし、口に放り込んだ。「あ…」噛み砕き、飲み込む。

ゐつき @itukikashima

@tccakk 当然飲み込まれたせんべいは胃を通過してソファーに落ちる。「物が食えないって可哀想だけど腹立つなぁ」保が再び掃除にかかる。「あぁァぁぁツい…」再び平謝りする神。何だろコイツ。段々憎めなくなって来た。いやいや、信用には早い。「で、マイクロチップがどうしたと？」

ゐつき @itukikashima

@tccakk 「アレにハ君たチが使った生体ワープ方法を更に発展さセた、生体星間ワープ方法が記さレていル」「生体星間ワープ？」「うム。つマり、宇宙船を使わズ生身で宇宙に行く発想ダ」何て壮大に馬鹿馬鹿しい話だ。何故人はそんなに宇宙を目指すんだ。「発想ハ馬鹿馬鹿しイが方法ガ問題ダ」