15/8/14~23 #赤風車奇譚 まとめ

主に 空想の街 で展開している物語『赤風車』の登場人物が語る、真夏のちょっとひんやり特番です。ひんやりというよりもんやり。全二夜、完結。 本編など一覧はこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。 (尚、この二作は『赤風車』の公式二次創作のようなものであり、番外でも外伝でもありません。本編とは一切関わりのない、最も遠い物語です。)
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不可村 @nowhere_7

そのあと学校で櫻子たちに自由に会えるようになって、それから私はやっとそのことを、それとなくぼかして訊く勇気ができた。 でもおかしくてね。 手紙が届いて、蔵が、と言いかけると、ふたり目を見合わせてくすくす笑うだけなんだ。 #赤風車奇譚

2015-08-15 00:37:19
不可村 @nowhere_7

話が進まなくて二進も三進もいかなかった。姉さんに話しても指をさされて大笑いされるだけだろうし、弟に話して無暗に心配させるものでもない。忙しくてすぐに忘れていたよ。怪談だの、君が言い出さなければ思い出さなかったろうな。 #赤風車奇譚

2015-08-15 00:39:39
不可村 @nowhere_7

さ、もういい時間だよ。姉さんはまたバーにでも行っているかな、義兄さんが困ってないといいんだけど。事務所は大丈夫かな。藪入りなんてないから、皆いてくれる筈なんだけど。 ああ、そうだ、最後に大事なことを言わなきゃいけない。 #赤風車奇譚

2015-08-15 00:41:25
不可村 @nowhere_7

君、あの時、空腹だったのに助けてくれたんだな。改めて礼を言うよ。ありがとう、きっとあれは暑さのせいだったんだ。そのまま放置されていたら医者騒ぎだったろうね。君があの場所を通って―― ……ちょっと待ってくれ。 #赤風車奇譚

2015-08-15 00:43:36
不可村 @nowhere_7

私が女学生だった当時仲良くしていたのは、同級生の櫻子と、ひとつ上の先輩だけだった。 だけだったんだ。 君はまだこの町に来てさえいなかったんじゃないか。そんな―― なら、私を助けてくれたあの時の君は一体、誰だったんだ? #赤風車奇譚

2015-08-15 00:48:18

第二夜「ひともし巷路」

不可村 @nowhere_7

火群さへ寂しからむよ自余なにも焼きあぐる身といふ定めより 第二夜「ひともし巷路」 #赤風車奇譚 pic.twitter.com/hawDZxa7KM

2015-08-22 21:13:18
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不可村 @nowhere_7

さてこうして夜も更けようというのに、お主は一体ぜんたい如何してここにいるのかね。 あの娘ならば帰ったぞ。娘と言い表すのが適当かどうかは悩みどころだが、何だ。あの娘が目当てで来たのではないのか。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:16:08
不可村 @nowhere_7

何が目的なのやら、察しの悪い俺には見当もつかぬがな、悪いことは言わない。この空気の様子では、じき一雨くるのではないかね。その前に帰りたまえ。よもや俺が目当てというわけでもなかろう? 冗談だ。そうおかしな顔をするなよ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:19:26
不可村 @nowhere_7

ふむ併しまあ――立ち聞きとは感心できんがな、度胸だけは認めてやろう。 礼と言ってはなんだが、今度は俺が話をしてやろうか。先ほどの娘が鬱々と話していたような類の、そうだ、巷では怪談というような話だよ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:22:34
不可村 @nowhere_7

礼に怪談とは俺も中々趣味がいいとは言えぬな。 それはそれとして、お主、何をそう怯むことがある。夏の宵にやられたか? はたまた話の内容に今から戦々兢々なのか。なに、勝手にそう敷居を高くされても困る。ただの与太話さ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:25:46
不可村 @nowhere_7

お主と俺の会話など、一夜の夢よりはかないものだ。話してしまえば、消える、と俺は断言できるね。 そう、四方山話、間に受けるほどのこともない取り止めのない話だ――そう構えるなよ。 折角今は晴れているのだ。外にでも出ようか。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:27:45
不可村 @nowhere_7

ほら、外は涼しいだろう。こういう気温の後には決まって雨がくると相場だ。お主は俺の後ろをのんびりついて来るがいい。俺は勝手に話す。 ああ、お主を送りがてら、でもいいな。時折振り返ることにしよう。帰る方向を教えてくれよ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:30:11
不可村 @nowhere_7

履物は平気か? 間違えて他人のものを身に付けてはいないだろうな。あの部屋は俺が借りている長屋なのだぞ。他の部屋には他の住人がいるのだ。 ――平気のようだね。ならばそろそろ、夜道を行こう。そして俺も、話し始めよう。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:32:20
不可村 @nowhere_7

さて今俺たちが歩くこの道、直進してゆけば町の外へ出るね。まずそちらに向かうか、夜はまだ長い。道を間違っていたら言ってくれたまえ。 前置きが長いか。無関係なことなど何一つ俺は言っていないのだがね……まあいい。 道の話だ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:36:01
不可村 @nowhere_7

道、と言えば先ほどの、一面に土蔵があったとかいう話も重要な役だったな。 併しあれは比較的広い道のことだろう。俺が話題にしたいのは、路地裏のことだよ。小路だ。家と家の隙間にある、あの細いみちよりも更に存在の薄い、路だ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:39:22
不可村 @nowhere_7

何、あの話を聞かせていただいたお蔭でね、俺も普段なら思い出さぬようなことを掘り起こしてしまったのだ。みち繋がりさ。 路というものは何なのだろうね。海も山も別の世に続くとは聞くが、そういった場所にも何かがあるのやもしれぬ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:42:07
不可村 @nowhere_7

この町に来る前のことだった――人足の多い、比較的大きな村にいたことがあってね。いたと言っても通り抜けたようなものだ。文字通り、その夜も、俺はせかせか先を急いでいたよ。何しろ宿をまだ決めていなかったのだ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:46:08
不可村 @nowhere_7

野宿でもよかったが、できれば屋根のある場所がほしかった。ちょうど金もあった。余裕があるのに、夕餉にさえありつけぬまま寝るのも口惜しくてな。どこぞ、俺のような放浪人でも受け入れるようなよい宿はないかと、探していた。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:48:38
不可村 @nowhere_7

その時だね。日が落ち切ったというに往来のまだ盛んな大通り、建物の隙間からうすらあかい光が漏れていたのだよ。どうにもそれが気になり、大路をゆく者は誰も気に留めていないのが更に興味をひき、俺はその小路に入った。 #赤風車奇譚

2015-08-22 21:51:04