鈴谷ちゃんが「可愛い子、来てるみたいよ」という理由。

三月ひらり🍆 @mitsukihirari

コンコンコンッ。小気味よく聞こえるのは、耳に優しいノックの音。今ではすっかり誰のものか判断できるようになった彼が、一番聞き慣れた音。 「どうぞ」 短く返すと、楽園に広がる遠浅の海の色を髪に落としたような少女が顔を覗かせる。航空巡洋艦・鈴谷。それが彼女の名前であり、艦の名前だ。

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コンコンコンッ。小気味よく聞こえるのは、耳に優しいノックの音。今ではすっかり誰のものか判断できるようになった彼が、一番聞き慣れた音。 「どうぞ」 短く返すと、楽園に広がる遠浅の海の色を髪に落としたような少女が顔を覗かせる。航空巡洋艦・鈴谷。それが彼女の名前であり、艦の名前だ。

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悪戯な笑みを浮かべ、ちょっぴり舌先を見せる。どこか挑発的で、どこか意地悪にも見えるが、嫌味は感じられない。むしろ愛らしいと思えるのは、彼女の愛嬌ゆえか。 「可愛い子、来てるみたいよ？」 鈴谷は新しい艦娘が建造されるたびに、そう報告してくる。なにかを誘うように、なにかを待つように。

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悪戯な笑みを浮かべ、ちょっぴり舌先を見せる。どこか挑発的で、どこか意地悪にも見えるが、嫌味は感じられない。むしろ愛らしいと思えるのは、彼女の愛嬌ゆえか。 「可愛い子、来てるみたいよ？」 鈴谷は新しい艦娘が建造されるたびに、そう報告してくる。なにかを誘うように、なにかを待つように。

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その度に彼は、なにを言おうか迷うのだ。目の前の妻に、なにを返せばいいのかと。単純に『鈴谷も可愛いぞ』と言ってみたことがないわけではないが、それではなんとなく、負けた気がしてしまう。ここはひとつ、彼女を真っ赤にしてやろうと考えた。 初々しい夫婦ならではの発想に、玉露が恋しくなる。

三月ひらり🍆 @mitsukihirari

その度に彼は、なにを言おうか迷うのだ。目の前の妻に、なにを返せばいいのかと。単純に『鈴谷も可愛いぞ』と言ってみたことがないわけではないが、それではなんとなく、負けた気がしてしまう。ここはひとつ、彼女を真っ赤にしてやろうと考えた。 初々しい夫婦ならではの発想に、玉露が恋しくなる。

三月ひらり🍆 @mitsukihirari

くるりくるりと、日頃から甘ったるい言葉を吐き出す口を動かす頭で考える。あれもだめ、これもだめ。瞬時に導き出される答えはおおよそだめ。 「提督？ どしたの？」 そう言って室内に入ってくる新妻に気がつかないほどに悩んだ頃。目の前にいる彼女へと、流れるように言ってしまった一言。

三月ひらり🍆 @mitsukihirari

くるりくるりと、日頃から甘ったるい言葉を吐き出す口を動かす頭で考える。あれもだめ、これもだめ。瞬時に導き出される答えはおおよそだめ。 「提督？ どしたの？」 そう言って室内に入ってくる新妻に気がつかないほどに悩んだ頃。目の前にいる彼女へと、流れるように言ってしまった一言。

三月ひらり🍆 @mitsukihirari

わざとらしく、指輪が見えるように頬を掻きながら。 「ええと、その子と鈴谷、どっちが可愛い？」 普通ならおどけてみせるところだが、彼女の眼に映る指輪がそれをさせない。自分を落とせば、それだけ価値を落とすことになる。 なにを言おうか悩む彼女の頬に手を伸ばし、そっと撫でてやる。

三月ひらり🍆 @mitsukihirari

わざとらしく、指輪が見えるように頬を掻きながら。 「ええと、その子と鈴谷、どっちが可愛い？」 普通ならおどけてみせるところだが、彼女の眼に映る指輪がそれをさせない。自分を落とせば、それだけ価値を落とすことになる。 なにを言おうか悩む彼女の頬に手を伸ばし、そっと撫でてやる。

三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「ん？ どっち？」 みるみるうちに熱せられた鉄のようになってしまう。 眼を伏せ、ええとだの、あうだのしか言えなくなった鈴谷が、ようやく口火を切る。 「す、鈴谷のほうが、可愛いし。提督の一番は、鈴谷なの！」 手を払いのけて、背を向けてしまう。そんなむくれた背中も愛おしい。

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「ん？ どっち？」 みるみるうちに熱せられた鉄のようになってしまう。 眼を伏せ、ええとだの、あうだのしか言えなくなった鈴谷が、ようやく口火を切る。 「す、鈴谷のほうが、可愛いし。提督の一番は、鈴谷なの！」 手を払いのけて、背を向けてしまう。そんなむくれた背中も愛おしい。

三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「ごめんごめん。鈴谷が一番だな」 慰めるように肩を抱いてやると、そっと手を伸ばしてきた。 「最初から、そう言ってよ。どんな可愛い子が来ても、鈴谷が一番だって」 ちらちらと彼の顔を見ながら、そう零す。 ぎゅうと心を締め付けるような言葉に、彼は我を忘れて、小さな桜色を奪った。 終