【ミイラレ!第十二話:古椿の小槌のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。正念場を乗り越えられるか? こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/861908
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

見ると、零冶や名雲たちが『がらんどう』のトンカラトンたちを少しずつ押し始めている。「……だったら、ちょっと抜けても大丈夫かな?花子さんが危ないらしいんだ」「花子さんが?」怜が眉をひそめる。事情を説明しようとしたそのときだ。四季は背後に新たな気配を感じる。25 #4215tk

2015-08-19 19:48:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『あぶねェッ!』体が勝手に沈みこむ。その頭上を何かが過ぎ去っていった。怜が目を見開く。その顔に『それ』が迫る。何者かの左手、ただそれだけが。怜が反射的に腕を割り込ませてこれを防ぐ。激突。彼女の腕が軋む音を、四季は確かに聞いた。退魔師が吹き飛ばされる。26 #4215tk

2015-08-19 19:51:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

何が起こったのか。それを理解するより早く、後方で呻き声。慌てて振り向くと、何者かの右手から先が良子の首を絞めつけている。新手の怪異?『良子!』青い鬼神が彼女の方へ振り向く。その隙を突き、忍が走り出した。四季の方へ。ぎらぎらと光る目を向けながら。27 #4215tk

2015-08-19 19:54:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怪人は『中身入り』たちがもがく横を通り過ぎる。その一瞬に刀を閃かせた。分身を縛っていた反物が切り裂かれ、地に堕ちる。怪人が迫る。迫る。『……なんともまあ、情けないことだ』四季の脳裏に響いたのは巡の声。『仕方ないですかねえ……!若旦那、小槌を!』28 #4215tk

2015-08-19 19:57:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

弾かれるようにして、四季は手許に小槌を呼び出す。古びた小槌は、僅かに脈打っているように思えた。『こ、これをどうするの!?』『投げてください。そこのトンカラトンに』『ええ!?』『おそらくもう霊気の供給は充分なはず。ならあとはそいつに任せてください』29 #4215tk

2015-08-19 20:00:01
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そいつ?四季は彼女の言葉をすべて理解できなかった。が、それでも体は動いた。小槌を思い切りトンカラトンへと投げつける!眉をひそめた怪人が、刀を構える。弾き落とす算段なのだろう。その目が見開かれた。なぜか?目の前で小槌が膨れ上がったからだ。30 #4215tk

2015-08-19 20:03:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

小槌は、もはや小槌の形を捨てていた。くるくると高速回転する人型が、思わず立ち止まった忍の胴体に拳を叩き込む!「ガ、フッ!?」怪人の体がくの字に折れ曲がった。そして吹き飛び、後続の分身たちを巻き込む!「ふー……」着地した小さな影は息をつき、ぶるりと震える。31 #4215tk

2015-08-19 20:06:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は見た。それが肩に羽織った法被を。その背に染め抜きされた『山ン本』の文字を。「それ」が振り返る。「お初にお目にかかります、若!」まだ小さな少女のようなその怪異は、勢いよくお辞儀した。「あたいは古木 春(ふるき はる)と申します。以後、お見知り置きを!」32 #4215tk

2015-08-19 20:09:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「よ……よろしく」思わず頭を下げた四季の姿は、傍から見れば間が抜けているように見えたに違いない。事実、事態の推移に追いつくのに必死なのだ。「ええと……春、さん?あなたは」「そう硬くならずとも結構ですよ、若」春は快活に笑う。「あたいは若の道具でありますので」33 #4215tk

2015-08-21 19:24:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

言ったあとに、彼女は少し顔をしかめた。「にしても、ここまでお目通りができなんだのは申し訳ございませんでした。先の戦で力を使いすぎまして、変化もできぬ体たらくで」春が不意に言葉を止めた。四季の視線から気づいたのだろう。後方から駆けてくるトンカラトンの分身たちに。34 #4215tk

2015-08-21 19:27:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

春の表情が険しくなる。彼女は足を振り上げ「しゃらくさいッ!」地に叩きつけた。地鳴りに衝撃。四季は目を丸くした。飛びかからんとしていた『中身入り』たちが、全て吹き飛ばされたように宙を舞ったからだ!「あたいは今、若と話をしてるんだッ!静かにしてろ青二才どもが!」35 #4215tk

2015-08-21 19:30:26
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

小柄な体躯に似合わぬ大音声を張り上げ、改めて春が四季に背を向ける。彼女が見据えたのは、態勢を立て直した包帯の怪人だ。「若。確認させていただきます」「な、なに?」「中身の入った奴は殺さずにおく。そこまでは小槌のときに把握しております。では奴は?」36 #4215tk

2015-08-21 19:33:37
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は思わずトンカラトンの本体を見やり、そして小さな怪異の背中を見た。「え、と……なるべくなら、こう、捕まえておきたいというか」「生け捕りにする。成る程」春がことも無げに頷いた。「ではそのように」そして悠々とした足取りでトンカラトンに近づいていく。37 #4215tk

2015-08-21 19:36:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「甘く見るなッ!」トンカラトンが吼え、駆ける。そして春を唐竹割りにしようと刀を閃かせる!四季にはその太刀捌きが見えない。が、春は違うようだった。彼女は不意に踏み込み、トンカラトンの懐へ。「甘く見るな、だ?」その目がぎらりと光る。「こっちの台詞だ、餓鬼」38 #4215tk

2015-08-21 19:39:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

春の姿が一瞬消えた。ように、四季に錯覚する。ともかく彼に見えたのは、ボールのように空中に蹴り出させれるトンカラトンの頭だ。体と包帯一つで繋がったそれは、驚愕の表情を浮かべている。倒れこむその体を、春は蹴倒し、跳んだ。あっという間に包帯まみれの首を飛び越す。39 #4215tk

2015-08-21 19:42:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「てりゃあッ!」裂帛の気合いとともに、春が縦に回転。その勢いでトンカラトンの首に痛烈なかかと落としを叩き込む!打ち上げられたとき以上の速度で、首は墜落した。倒れこんだ体の腹の上にしたたかに叩きつけられる。ぐりん、と首が白眼を剥いた。体が弱々しく痙攣する。40 #4215tk

2015-08-21 19:45:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

それと時を同じくして、地に落ちるところだった『中身入り』の包帯がひとりでにほどけた。眠るように目を閉じている退魔師たちが姿を現わす。そして、『がらんどう』の分身たちもまた力を失い、地に崩れた。応戦していた名雲たちが、怪訝そうに周囲を見渡す。41 #4215tk

2015-08-21 19:48:01
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

着地した春は、悶絶しているトンカラトンを軽々と担ぎ上げた。そして四季の元へ。「お待たせして申し訳ありません、若。たしかに生け捕りにいたしました」そして、にかりと笑う。「あ……ありがとう」四季は呆然と言葉を返す。「どういたしまして」春が笑みとともに返す。42 #4215tk

2015-08-21 19:51:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そのときだ。わだかまっていた霧の中から誰かが飛び出して……否、吹き飛ばされてくる!「うわっ!?」四季は反射的にそれを受け止め、そして硬直した。それはながれだった。片翼が無残にへし折れ、あちこちが黒く焼けただれている。霧が晴れる。春が四季をかばうように立つ。43 #4215tk

2015-08-21 19:54:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ずしん、という地響き。小雨が倒れる音だ。この体の右半分は、奇妙なことに石のごとく灰色になっているように見えた。「ハァー……手間をかけさせてくれる」宙に浮いた赤髪の悪魔が、気怠げに呟いた。無論、無傷ではない。が、その損傷はどう見てもながれや小雨より軽い。44 #4215tk

2015-08-21 19:57:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

悪魔はまっすぐに四季へと視線を向け……その前に立ちはだかる小さな怪異と、それが持つトンカラトンへと目を留めた。「なんだ、失敗したのか?使えない奴だ」その目が苛立たしげに細められた。「小虫も一匹増えてやがる。次から次へと……!話の邪魔だ、お前ら」45 #4215tk

2015-08-21 20:00:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

話?四季はそれを聞き質そうとした。が、それよりも早く春が動く。彼女はおもむろに足元の地面を殴りつけた。拳を中心に、ぽっかりと黒い穴が開く。「御免!」「え?うわっ!?」次いで四季を片手で持ち上げた彼女は、躊躇なくその穴へ四季を落としたのだ。46 #4215tk

2015-08-21 20:03:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……貴様ッ!」意図に気づいたか、トリルが春を睨みつける。その瞳が妖しく金色に輝き始めた。が、春は構うことなく自らもその穴の中へ身を投じる。彼女が落ちていったあと、穴は収縮し、最終的に元の大地へと戻った。「Arrrrrrgh!」トリルが怒りに咆哮した。47 #4215tk

2015-08-21 20:06:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ああああああーっ!?」暗い闇の中、四季は叫び続けた。あの怪異は何をした?自分は今、どこへ落ちている?……心の中の問いかけに答えるように、遠くに光の点が見えた。点はだんだんと大きくなり、彼はその中へと落下していく。思わず目を瞑る彼を、柔らかい何かが受け止めた。49 #4215tk

2015-08-21 20:09:22