ストレイトロード:ルート140(14周目)
- Rista_Bakeya
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140文字で描く練習、662。商人。 どんなものだって金になる。 どんな場合でも、というわけではないだけ。
2015-07-14 23:08:23今日のハイウェイ上空は雲一つない天候だ。車は炎天下の平野を順調に走っていたが、藍が軽い頭痛を訴えたために状況は変わった。「確か薬が後部座席に」「分かったから車停めて」指示通り車を路肩に停めた直後から、本人は自分の口走った言葉を否定し始めた。「全然何ともないから。あなた大げさ過ぎ」
2015-07-15 19:12:19「世界征服とか狙ってるの」少年が問うと、藍は首を傾げた。「どうすれば征服したことになるの?」少年の物騒な提案が否定的な意見に次々と吹き飛ばされる。二人が座るベンチの隣で私も密かに考えた。世界の頂点に立つとは最大勢力になることではない。多様過ぎる世界の全てを惹きつける何かが必要だ。
2015-07-16 19:20:03140文字で描く練習、664。征服。 今のところ、分かりやすい目標を掲げる野心家は、物語の表舞台には出ていない。 でもポテンシャルの持ち主はいる。
2015-07-16 19:20:11「でも学校には友達とかいるよな?」「一応いたけど、向こうは今どう思ってるかしら」投げやりな証言は報告文に何と書かれるだろう。研究員の困った顔に心中で同情しながら、私は藍に続きを促した。「端末での連絡は」「最初は多かったけど、TVとかに出てからは誰も」こうして人は疎遠になっていく。
2015-07-17 19:51:54140文字で描く練習、665。疎遠。 遠い存在が突然近くなると知り合いは増える。 隣の人が急に遠くなると…
2015-07-17 19:51:59フロントガラスに投げつけられた端末は、不規則な軌道でダッシュボードを跳ね、藍の手元に戻ってきた。受け止めた直後に何かの操作をしていたのは一度我に返って故障を心配したからか。私はガラスに傷がないことを確かめてから、事情を尋ねた。だが藍は私を無視してどこかに電話をかけ、口論を始めた。
2015-07-18 19:57:06140文字で描く練習、666。端末。 着信するのは良い情報ばかりではない。 だからというわけではないが、きっと彼女のものは頑丈にできている。
2015-07-18 19:57:46「なんで起こしてくれないの!」今朝の藍は慌ただしい。結わない髪を振り乱しながら階段を駆け降り、私の前を素通りして外へ飛び出した。「遅刻よ遅刻!早く車出して!」追いついた時には、駐車場で車のドアにしがみついていた。「今日はどちらへ」「…あっ」藍は何故か目を覚ました顔でドアを殴った。
2015-07-19 22:23:57140文字で描く練習、667。遅刻。 最近よく見るテンプレネタのルーツはどこなんだろう、とぼんやり考えつつ。
2015-07-19 22:24:02籠に山盛りの果物は次の街に持参する土産という。だが藍はそれを車の後部座席に置こうとして足を踏み外し、背後に控えていた私を巻き込んで倒れた。赤色が宙を舞う。しばらくして顔を上げた藍は、地面に投げ出され潰れている果物に気づき、本気で嘆いた。私の腹に乗ったままであることには気づかない。
2015-07-20 23:02:58情報を掴み損ねた藍を宥めながら宿に戻る途中、軍の車両を見かけた。隣の街から群れで飛来する怪物をこれから迎え撃つらしい。「次に行く前にちょっと手を貸すのもいいわね」作戦への介入を気晴らしのように言うので、さすがに止めたが、魔女は意に介さない。「手柄だけ譲れば文句は出ないから大丈夫」
2015-07-21 19:31:09逃げた少年は袋小路に消えた。藍が抜け道を探す間に、私は壁に記された文章に気づいた。塗装ごと剥がれた箇所が多く全文は読めない。「震えてる字ね」追跡を諦めた藍が壁の下で塗料の破片を拾った。文字の形が残っている。「ただの落書きじゃないかも」誰かの叫びの痕跡は一部しか復元できそうにない。
2015-07-22 19:41:39夏らしい日差しの下で海水浴場は賑わっている。私が車の修理代の為に海岸沿いの店で働く間、藍は地元の女性の指導を受けてサーフィンに挑んでいた。基礎が身につくまでは余計なことを考える暇などなく、風だけで波は操れない。彼女はしばらく純粋に波乗りを楽しむだろう。はしゃぐ声が遠くに聞こえる。
2015-07-23 19:12:45「追って!」聞き返す間にも藍の端末を盗った男は逃げていく。私は走るしかなかった。距離が縮まってきた頃、急に風向きが変わった。向かい風で相手の動きを鈍らせる作戦か。だが私の動きも鈍ることを忘れていないか。「鍛え方が足りないのよ」警察と共に先回りした藍に後で指摘したら文句を返された。
2015-07-24 19:22:47強い日差しを避けて夜間に移動する。計画は良かったが、怪物の乱入で余分に時間を使い、目的地に着く前に夜が明けた。どこかの駐車場で車の完全停止を確認するとすぐ意識が遠のいた。「脱け殻みたい」藍がそんなことを言ったような気がする。「いつものことか」突然シートを倒された衝撃で目が醒めた。
2015-07-25 20:33:57140文字で描く練習、673。脱け殻。 限界を感じる前に休憩を。 とは言え限界が忍び寄っていること自体に気づかないこともある。
2015-07-25 20:34:03怪物を呑み込んだ巨大な檻は震えながら最後の出口を閉ざしていく。が、不気味な振動が突然扉を止めた。「これ以上動きません!」「装置のネジ締めたの誰だ!」隊長の怒号が檻を叩いた。「そろそろ暴れ出すわ」見下ろすと、藍が混乱の足音の中から一本のネジを拾っていた。「あの檻壊れるから。逃げて」
2015-07-26 21:21:35