岸本元さんによる、黒﨑真『アメリカ黒人とキリスト教―葛藤の歴史とスピリチュアリティの諸相』レポ

岸本元さんによるレポをまとめました。
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岸本元 @bowwowolf
多人種・多民族国家にして人口3億2千万人のアメリカにおいて黒人はおよそ4千万人を数える。その精神的な支柱になったのは奴隷時代からキリスト教であった。しかし一方でキリスト教は黒人を抑圧する宗教なのではないかという疑問も長く黒人自身によって持たれ続けている。
岸本元 @bowwowolf
このアンヴィバレンツな思いを分析し、黒人とキリスト教の社会を米国を舞台に紐解いたのが黒﨑真『アメリカ黒人とキリスト教―葛藤の歴史とスピリチュアリティの諸相』(神田外国語大学出版局)である。そして現代のアメリカ教会が抱える問題もありのままに示される。
岸本元 @bowwowolf
アフリカ大陸から連れてこられた黒人奴隷たちは、表では「魂の救済を得るためには奴隷主に従う義務がある」という白人中心のキリスト教を受け入れながら、実は「見えざる教会」という、深夜の奴隷宿舎や森の中で秘密裏に開かれる会合で、特に「出エジプト記」を心の支えに自由と救済を渇望した。
岸本元 @bowwowolf
そこで中心になったのは黒人霊歌であり祈りであり説教であった。「見えざる教会」は奴隷にとって唯一の社会組織だった。また北部の自由黒人による教会は南部の奴隷黒人を地下鉄道ルートで脱出させてもいた。南北戦争後には南部でも黒人教会が増えたが、当初は黒人牧師の資質に問題も少なからずあった。
岸本元 @bowwowolf
しかしそれは徐々に向上していき、ご存じのように公民権運動でキング牧師が活躍することになる。そしてキリスト教を抑圧の宗教と捉えるネーション・オブ・イスラム、さらにマルコムXの登場。米国の上下両院において、黒人牧師が議員となる例が少なからずあったという指摘は興味深い。
岸本元 @bowwowolf
南部再建期には黒人議員のうち10%程度が牧師で、1920年代から40年代には25%程度、さらに70年代から80年代に初当選した黒人連邦下院議員で5人の牧師がいる。現在でもジョン・ルイス、エメニュエル・クリーバーが黒人牧師議員として現役だ。
岸本元 @bowwowolf
《一九九〇年ごろをおおよその転換点として、黒人牧師は主流政治システムのなかからは徐々に撤退し、代わって黒人政治は、もっぱら豊富な実務経験を背景とする「プロ」の政治家が担うようになりはじめた》しかし黒人牧師の政治家の指導力が不要になったわけではない。
岸本元 @bowwowolf
今、黒人教会はインナーシティのゲットーにおける若者の苦悩を救えるかという苦難に直面している。インナーシティの黒人の若者は、キリスト教を中産階級のもの、女性のものとみなし、自分たちの解放の源泉にならないとみなす傾向がある。
岸本元 @bowwowolf
黒人教会はインナーシティに踏みとどまり徹底して貧困層の中に身を沈めていかなければならないがそれは時として命を賭す戦いになる。また女性牧師が増加することは教会内での性差別を克服することになるが、一方でヨリ「女性的」とみなされ黒人男性が遠ざかるというジレンマにもつながる。
岸本元 @bowwowolf
本書のユニークなところはゲットーの黒人の若者のキリスト教観をラップ音楽から見出したところで(「ストリートの神学」と著者は名付ける)、2パック、ナズ、KRS-ONE、コモンなどのリリックに見える神への複雑な心境は、HIP-HOPに疎い私には大いに刺激されるところであった。
岸本元 @bowwowolf
「俺たちが心から信頼出来て、俺たちを助けてくれる救世主が必要なのさ。それはブラックのキリスト」(2パック「Black Jesuz」)「イエスのような生き方を送れ」(KRS-ONE「Take It to God」)「教会はファッション・ショーにすぎない」(アイス・キューブ「天国」)
岸本元 @bowwowolf
バラク・オバマ大統領は黒人として初の大統領である。オバマはJ・ライト牧師と深い交流があり、かつ、キング牧師の演説を巧みに利用して政治主張を行ってきた。オバマの当選はキングの夢の成就だとも報道された。しかし晩年のキングが抱いていた「米国の三重の悪」の克服は叶っていないと著者は見る。
岸本元 @bowwowolf
保守とリベラルの軋轢の中で妥協を強いられ結果的に中産階級志向となるオバマ、それは政治の外に身を置いたキングと比較すればやむを得ない面もあろう。しかしその「三重の悪」の克服をオバマに常に想起させ警告させる存在は必要なのではないかと結論付ける。
岸本元 @bowwowolf
ソウルフードがいかに黒人のたましいとなったかの分析や、メガチャーチ化する黒人教会でも「繁栄の神学」を説く牧師が増えている(!)ことなど、非常に重要な指摘をほかにも多数含む。本邦の宗教と政治、宗教と社会を考える上でも重要な示唆が多数ある一冊であろう。
岸本元 @bowwowolf
以下読書感想文から少しずれる。晩年のキング牧師は周囲の反対、世間からの批判の嵐に晒されながらも敢えてベトナム反戦運動にコミットした。理由は《第一に、ベトナム戦争の拡大が国内の貧困との戦いの対策を困難にしていること。第二に、ベトナム戦争において黒人兵が高い割合で犠牲となる一方、
岸本元 @bowwowolf
国内において黒人は平等に扱われないという形で、この戦争が貧しい人々を残酷に操っているということ。第三に、政府がこの戦争で行っている暴力に対し声を上げることなしに、黒人ゲットーの若者の暴力を非難することはできないということ。第四に、自分は一九六四年のノーベル平和賞受賞を、
岸本元 @bowwowolf
人類の同朋愛のためにいっそう努力するようにとの委任状であると考えていること。第五に、最も根本的なことは、自分は公民権運動の指導者である前に牧師であり、牧師として国内の人種差別と国際平和という道徳的関心を分離させておくことはできないこと。》(145頁)
岸本元 @bowwowolf
つまりノーベル賞受賞後の後期キングにとって、反戦・反貧困・反差別はセットのものであった。これを同時に主張し、解決していくことがいかに困難であるかは理解できよう。私もまた、反戦・反貧困・反差別の政治主張を時と場合に応じてシングルイシューで唱えることに、戦術的に異を申すわけではない。
岸本元 @bowwowolf
しかし、理念として思想として、その3点が不可分のものであると心に刻んでおくことは決して悪ではないのだ。それは凶弾に倒れたキング牧師の未完の夢でもある。
岸本元 @bowwowolf
さぁ久々に読書感想文20連投やったぞ、わはは。しかし本当に面白い本でした。巻末の注でカトリックにおいて聖人を「崇拝」としたり、「準多神教的な性格」と書いているのだけが少し残念だ(尤も本書はほぼプロテスタント黒人教会・牧師を中心に論じているので趣旨に瑕疵ができるわけではない)

感想いろいろ

デー @dorolesc
@bowwowolf そのあたりこれお勧めです。黒人神学者の大御所の書いた渾身の一冊。 黒人霊歌とブルース―アメリカ黒人の信仰と神学 (新教セミナーブック―20世紀の遺産) ジェイムズ・H.コーン amazon.co.jp/dp/4400423204/… @amazonJPさんから
デー @dorolesc
そいえば栗林先生ったら、「オバマの精神的師匠の黒人牧師のJ・ライトの師匠のキングに教えたのは、うちの卒業生の中根中だったから、オバマは内の神学部の孫弟子なんですよ!といってて、思わず教室中「な、なんだってー!!」(MMR AA略)とかあって、あれは面白かったw
デー @dorolesc
黒人解放運動に身を捧げた中根中についてはこれが唯一関連書籍。栗林先生いわく、いまいちなので、ちゃんと調べて自分で書きたいとも仰ってたなあ・・・。 黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人 (講談社+α文庫) 出井 康博 amazon.co.jp/dp/4062812363/…
デー @dorolesc
あーでもキング牧師を描いた公開中の映画「グローリー」にも中根中でてくるっぽいな。ちょっと観にいくか。heavenese.jp/discography/gr…
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コメント

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