黄昏町(柊)三十三日目

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@hiiragi_r_t_d

【三十三日目】 【残り三百圓】 【魂13/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) #hollytk

2015-08-29 00:33:45
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「カスカ」 「……なんだよ」 「先程は、ついキツい言い方をしてしまいました」 「……気にしてねえよ」 「お詫び、というのもおかしな話ですが、一つ勝負をしませんか?」 「どういうことだ?」 01 #hollytk

2015-08-29 00:33:59
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私は「圓百回一 いくす魚金」と書かれた出店を指差す。 「もしカスカが私よりも多くすくえたら、私のことを下の名前で呼んでもいいですよ」 「……いいのかよ」 「先程はああ言いましたが、そこまで気にしている訳ではないのですよ」 02 #hollytk

2015-08-29 00:35:13
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嘘だ。考えた事も無かったが、ユキ以外に名前で呼ばれる、という想像はあまり気分の良いものではない。 「…いいぜ。その勝負、乗ってやるよ」 もし負けたとしても、勝負の結果なら受け入れられるだろう。 勿論、手を抜くつもりは毛頭ないが。 03 #hollytk

2015-08-29 00:37:19
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私とカスカは金魚すくいの出店に飛び込んだ。コインを二つ、店主に弾いて寄越す。店主もポイと木桶を二つ投げて寄越す。 「活きが良いだろ?君達にすくえるかな」 氷のような透き通った鱗をキラキラと輝かせながら、男の長い指が私とカスカを指し示す。 「「勝負!」」 04 #hollytk

2015-08-29 00:39:26
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「くっそー!負けたー!」 結果から言えば、私が勝った。が、厳しい勝負だった。 単純に手先の器用さで勝負する私に対して、カスカは腕を伸ばすことができるからだ。 05 #hollytk

2015-08-29 00:41:06
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縦横無尽にすくいやすそうな姿勢の金魚を取っていくカスカに対抗するために、私はやや厳しい姿勢の金魚に手を出さざるを得なかった。 しかし左手の長い指はポイを自由に操り、金魚を木桶に送り込む。 まさか私の長い指に、このような使い方があったとは、思いもしなかった。 06 #hollytk

2015-08-29 00:43:27
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私とカスカが金魚を水槽に戻すと、店主はコインを一枚渡してくれた。 「金魚を返す客は、半額だ」 「あんがとな、鱗のお兄さん!」 「気にするな。……二人とも、筋がいい。うちで働く気はないか」 寡黙な店主の提案に、カスカは少し心惹かれている様子だった。 07 #hollytk

2015-08-29 00:47:50
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「私は遠慮しておきます」 「じゃあ、アタシもパスで」 「む…そうか。気が向いたらいつでも言ってくれ」 そう言うと彼は、金魚の世話を始めた。 08 #hollytk

2015-08-29 00:48:37
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私は金魚の世話をする彼の横顔を眺める。 全身を透明に煌めく鱗が覆い、首の後ろからは数対の棘が背びれのように生えている。 額には一筋の皺。おそらくそこには閉じた眼があるのだろう。しかしその目は、糸できつく縫い合わせられていた。 09 #hollytk

2015-08-29 00:49:49
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私とカスカは、金魚すくいを後にして石畳を歩いていた。 「カスカ」 「なにさ」 「なぜ、彼の申し出を断ったのですか?」 きっと金魚屋の生活には、命の危険はないだろう。ゆくゆくは彼と家庭を持つ事もできるかもしれない。 10 #hollytk

2015-08-29 00:50:08
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カスカはしばらく悩んだ後、言葉を選びながら話し始めた。 「さっきのお兄さん、額に縫い目があっただろ?その奥から少しだけ、光が漏れてたんだ」 「ほほう。私には見えませんでしたが」 11 #hollytk

2015-08-29 00:51:18
@hiiragi_r_t_d

「ほほう。私には見えませんでしたが」 「多分、アタシにしか…女にしか見えねえんだ。その光を見た時、頭がボーッとしちまって……断るつもりなのに、思わず頷いちまいそうになった」 12 #hollytk

2015-08-29 00:52:06
@hiiragi_r_t_d

「なるほど、それで様子がおかしかったのですね」 催眠の光…異性にしか効果がないとはいえ、強力な異形だ。 「おそらくその異形は常に発動しているのでしょうね」 だが彼は、それを嫌って縫い合わせた。 「あの眼が開いてたら、アタシはひとたまりも無かったと思うぜ」 13 #hollytk

2015-08-29 00:52:56
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「おや、それは困りますね」 「解剖対象を取られると困るから、だろ?」 「ええ、まあそれは勿論ありますが」 私はカスカを見ながら語る。 「カスカには、私に解剖された後も自由に笑っていて欲しいですから」 「なっ、なっ、な…」 カスカが口をパクパクさせる。 14 #hollytk

2015-08-29 00:54:04
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「私が今までこの町で出会った中で、人間らしさを残した人はあまり多くはないです」 長指の少女。命の恩人である名も知らぬ彼女。探偵のサイガさんと、助手?のミナセさん。そしてカスカ、巳穂。 「その中でもカスカ、貴方が一番人間らしい」 笑い、泣き、喜び、怒る。 15 #hollytk

2015-08-29 00:55:02
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「その人間らしさは、この町で良い方向に働く事は少ないでしょう」 私は縁日に来る前に殺した蛇女の事を思い返す。カスカや巳穂も、一歩間違えればああなっていたのだろう。 「強くなりなさい、カスカ。人間らしさを保てるように」 そう言って私はカスカの頭を撫でる。 16 #hollytk

2015-08-29 00:56:01
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「……アンタはどうなんだよ」 「はい?」 「アンタは人間らしいのか?」 「さあ……どうでしょうか」 私は自分の行いを省みる。 「それを決めるのは私ではありません。カスカ、貴方から見て私はどうですか?人間らしいと思えますか?」 17 #hollytk

2015-08-29 00:57:06
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カスカは面食らっていたが、腕を組んで答える。 「ま、微妙だな!解剖しなかったらいいんじゃねえの?」 「はっはっは、検討しておきましょう」 18 #hollytk

2015-08-29 00:58:03
@hiiragi_r_t_d

カスカに手を引かれながら、私は小さく呟く。 「ああ、解剖したい」 識りたい。この縁日には珍しい異形が溢れている。それを片っ端から解剖して、その全てを知ることができれば…… 「私は何を言っているのでしょうか?」 それは、巳穂も解剖するという事だ。 19 #hollytk

2015-08-29 00:59:15
@hiiragi_r_t_d

私はカスカに追い付くと、宣言した。 「カスカ、私は巳穂を解剖しない事にしました」 「えっ、どうしたのさいきなり。っていうかまだ諦めてなかったのかよ」 「ですがカスカ、貴方は縁日を出たらいつか解剖しますから、覚悟しておいてください」 20 #hollytk

2015-08-29 01:00:07
@hiiragi_r_t_d

カスカは笑って返した。 「分かってるっての。それまではよろしくな、アイズミ」 21 #hollytk

2015-08-29 01:01:05
@hiiragi_r_t_d

──────── 【三十三日目】 【残り二百圓】 【魂+1】 【魂14/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) 21 #hollytk

2015-08-29 01:01:28
@hiiragi_r_t_d

[縁日]水槽では、赤や黒の金魚が忙しなく泳いでいる。「活きが良いだろ?君にすくえるかな」《異形『鱗/氷鱗』『長指』のどれかがあれば成功、なければ「賽子」を使い奇数が出れば成功【魂+1】/-100圓》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/553567 #hollytk

2015-08-29 01:01:41
@hiiragi_r_t_d

金魚すくいの店主 寡黙な優男。昔はおしゃべりだったが、自分の三眼に催眠効果があることに気づいてからはあまり話さなくなった。 異形/氷鱗、長指、棘、三眼 【魂?/力7/探索3】 #hollytk

2015-08-29 01:01:57