黄昏町(柊)三十日目

柊 @hiiragi_r_t_d

【三十日目】 【魂10/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) #hollytk

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「んあ……」 私の背に揺られながら目覚めた幽さんは、しばらくボーッとしていた。朝は弱いタイプらしい。朝ではないが。 「おはようございます幽さん、今日も夕焼けが綺麗ですよ」 「知らねえよ…………おはよ」 挨拶する相手がいる、というのは悪い気分ではない。 01 #hollytk

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「さて、今日はどんな異形に出会えるでしょうか」 出会えなければ今日が幽さんの命日だ。 「幽さんも新しい異形に出会えるように祈ってくださいよ」 「やだね。今日生き残ってもどうせ明日解剖されるんだろ？」 「まあ、否定はしませんが」 02 #hollytk

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私と幽さんは町の中心部、閑静な住宅街へと戻ってきていた。まあこの町はどこでも閑静だが。 「ここら辺には自警団がいるので気をつけましょうね」 「自警団がいるのに気をつけなきゃいけねえのか？」 03 #hollytk

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「幽さん、面白いこと言いますねえ。この町の自警団はバケモノ、つまり我々を狩る組織ですよ」 「……………アタシはバケモノじゃねえ」 「ええ、私も貴方もバケモノではありません。ですが自警団から見れば同じなのですよ」 「いや、アンタはバケモノかもしれねえけどよ」 04 #hollytk

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「どうしてですか？」 「だってアンタ、迷いなく人殺しそうだし、アタシより断然強いし」 「失敬ですね。私は人間ですよ。」 戦いはできるだけ避けている。私は戦いが好きなのではない。 「ただ私は知りたいだけなんですよ。好奇心旺盛なのはいいことでしょう？」 05 #hollytk

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「いや、アンタねえ……」 はて、何がおかしいのだろうか。 「まあ、価値観の違いという事で」 「アンタ、この町に来る前は何してたんだよ……生物学者？」 「…黙秘権を行使させてもらいます」 「ぜってぇ犯罪者だ！」 「法に触れる事はしていませんよ」 06 #hollytk

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「だいたいアタシさあ、まだアンタの名前も聞いてねえんだけど」 「忘れてましたね。私の名前は……あ、あそこ見てください幽さん」 私は右に伸びる曲がり角の先を指差し、背の幽さんを促す。 「オイコラ、話を逸らすな……って…」 私は右に向き直る。 07 #hollytk

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そこには女が立っていた。 白いワンピースに白いサンダル。白皙の美貌を際立たせる艶やかな黒髪が、ざわざわとうねっている。 「おお、綺麗な人だな！」 「呑気ですねえ、幽さん」 私は背負っていた幽さんをその場に下ろし、ゆっくりと女に近付く。 08 #hollytk

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(アタシの事は気にすんな、いないもんと思って勇気出せ！アンタ顔は悪くないんだからまともなフリすればイケるって！) (いや、別にナンパするつもりはないですよ？あとまともなフリってどういう意味ですか) (まだるっこしいなアンタ！アタシが手助けしてやるよ！) 09 #hollytk

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何を勘違いしたのか、幽さんが女に向けて駆け出す。 「おーい、そこのきれーなお姉さん！今ヒマー？」 「幽さんは元気がいいですねえ」 でもそろそろ止めてあげないと、危ないかもしれない。 10 #hollytk

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「…てやる」 「え？今なんて？ごめんお姉さん、もーいっかい言ってく」 「ころしてやる」 「え…………？」 幽さんの表情が凍りつく。 「あ………あ……」 腰を抜かしてしまったようだ。その場にへたりと座り込んだ幽さんが、女を指差しながら後ずさる。 11 #hollytk

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「やれやれ……手のかかる人だ」 私は溜息を一つ吐き出すと、幽さんと女の間に立つ。 女は俯いたまま、しかし赤い双眸が私を見据える。 女の髪は無数の蛇に変化していた。 チロチロ、と黒い蛇が赤い舌を出す。 女がゆっくりと口を開く。 12 #hollytk

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「ころしてやる。ころしてやる。ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる」 「これは………気の毒に」 心を病んでいる。異形の影響か、町の生活に適応できなかったのか。 女は虚ろな目でブツブツと呟き続ける。 13 #hollytk

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「ころしてやる。ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる」 「何故殺すのですか…等と聞いても、答えられないのでしょうね」 「お、おい、どうすんのさアレ！」 「仕方ないですね。殺してバラして観察しましょうか」 「うわ、どことなく嬉しそう」 14 #hollytk

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「そりゃあ嬉しいですとも。だってワクワクしませんか？あの数の蛇を彼女はどう動かしているのか？蛇が食べた物はどこへ行くのか？蛇の脳は？どのような死に方をすれば」「あーもう分かった！分かったから！早くなんとかしてよアレ！」 幽さんに促され、私は蛇女に向き直る。 15 #hollytk

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蛇女は動かない。しかし無数の蛇が私に向けて殺到する。 「うわっと、っと」 私は半身になって躱しつつ、蛇の一匹を千切り取る。 私は一度距離を取って安全を確認すると、手の中の蛇を観察する。 16 #hollytk

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口の中には二本の長い毒牙。透明な毒液が先端から迸る。 「ふむふむ……」 私は蛇の上顎から牙を引き抜くと、根本の部分を観察する。 毒牙の中は空洞になっていて、毒液が中を通る仕組みだ。 「これは……危ないですね」 17 #hollytk

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毒蛇の毒牙には溝があるものと中空のものがある。後者の方が進化の進んだ毒蛇で、毒の致死性も高い。 しかし、それはタンパク質で構成される生物に対して、だ。 結晶に変化した私の身体に通用するかどうかは運次第。 私は背後の幽さんにお願いをする事にした。 18 #hollytk

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「幽さん」 「なっ、なんだよ改まって…逃げるか？」 「いいえ、逃げません。これからあのバケモノを殺しに行きます」 「アグレッシブだなアンタ……」 「ちなみにこの蛇には毒があります」 「ヒィッ!?」 「で、ここで一つ頼まれてくれませんか？」 19 #hollytk

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「え、何？」 「私に蛇の毒が通じるかどうかは分かりませんが、私は相討ってでもあの蛇女を殺します。もし私に毒が通じなければ重畳、もし通じて相討ちになった時は…」 「もしかしてアンタ、アタシだけでも逃げろって………」 幽さんの顔が緩む。このお人好しめ。 20 #hollytk

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「私と蛇女の死体を解剖して、その構造を私に事細かに伝えてください」 「な、ん、で、そーなるんだよ！アタシは蛇が苦手！解剖もシュミじゃねーってのに！」 「それで腰を抜かしたんですね」 「ああ、そうだよ！…だから、あのバケモノぶっ飛ばして来い！」 21 #hollytk

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私は幽さんの目を覗き込む。 幼い体型に見合った顔付きに、涙を溜めた双眸。異形の宿った人間の、異形ではない目。 なのに、どうしてだろうか？ 彼女の目を見ていると、知りたくなる。 その目が何を見てきたのか。 「まあ、それは後にしましょう」 22 #hollytk

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「何がだよ」 「なんでもないですよ」 「ふうん、って後ろ後ろ！」 後ろを振り向くと、蛇女が近付いていた。 「ころしてやるころしてやるころしてやる」 ふらふらと幽鬼のような足取りで近付く蛇女に対して、私は一歩を踏み出す。 「殺すのは、私です」 23 #hollytk

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蛇女がビクリと体を震わせる。 私の声に反応したのか、あるいは私の異形を感じ取ったのか。 「ころ……される。ころされる。ころされるころされるころしてやるころしてやるころされるころしてやるころしてやるころされるころされる」 無数の蛇が私を襲う。 24 #hollytk