黄昏町(柊)五十三日目

柊 @hiiragi_r_t_d

【五十三日目】 【魂13/力13/探索4】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、火玉(火耐性、探索+1) #hollytk

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[ハンドアウト]誰かに呼ばれて目を覚ますが、路上に停まったバスの中には君一人しかいない。《開始地点[町]shindanmaker.com/541547》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541552 #hollytk

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「…いさん…………兄さん……」 「ッ、ユキ!?」 がばりと勢いよく体を起こした私は、古びたバスの中に眠っていた。 床と座席に厚く積もった埃に、一人分の足跡。 そして、私以外には誰一人としてバスの中にはいなかった。 01 #hollytk

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私は先程まで寝ていた席に座り直し、周囲を見回す。 と、不意にバスが大きく揺れる。ぼふん、と軽い音と共に後ろに黒いすすを吐き出す。 ぼふん、どっどっ、ぼっぼっ、がふん。 一度大きく揺れたきり、バスは動かなくなった。 02 #hollytk

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突然、ギシギシと音を立ててドアが開く。 「だーっ、クソッ！ポンコツめ！」 悪態をつきながらどかどかと乗り込んできたのは……猪の頭をした、女性だった。 「仕方ねえ、お客さん担いで……あ」 彼女が、こちらに気付く。 「……どうも」 私はとりあえず、会釈した。 03 #hollytk

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「アタシはヨタカ。情報屋をやってんだ」 私を先導しながら名乗った女性曰く、この先に彼女の自宅兼仕事場があるらしい。 「で、日課の散歩中にバスの中で寝てるお客さんを見つけたってワケ。」 私は指先で火の玉を弄びながら、彼女の後をついていく。 04 #hollytk

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目が覚めた私の胸ポケットに、いつの間にか灯っていた火の玉。触るとほのかに暖かく、ふわふわと私のまわりを飛び回る様はどことなく愛らしい。 「で、寝ていた私を放置してバスを動かそうとしていたのですね」 「いやぁ、そろそろ移動手段が欲しくってね」 05 #hollytk

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「ヨタカさんはここに来てどれくらいになりますか？」 「んー、けっこう経つよ？詳しい数字はお代を頂かないと教えられないけどね」 ヨタカさん(おそらく偽名だろう)は商魂たくましい。既に数度、こうしてはぐらかされている。 06 #hollytk

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ヨタカさんは肩に引っ掛けた灰色のスーツをごそごそと探ると、すすに汚れたスーツのポケットから一冊の分厚い手帳を取り出した。 「さて、そろそろビジネスの話をしようか。えーと、藍住君？」 「違います、四十住です」 「よく間違えたって分かったね？」 07 #hollytk

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「話は簡単だ。アンタのこれまでの話を聞かせてほしい。お代にマトモな飯、食わせてやるからさ」 「マトモな食事、ですか」 「一応言っとくけど、人間基準だよ？」 「分かってますよ」 まあ、別に断る理由も無い。 私は頷き、彼女についていくことにした。 08 #hollytk

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ヨタカさんの家は、私の目覚めたバスから十五分ほど歩いた町中にあった。 「ここですか？」 ごく普通の民家。分厚い壁も高い塀もない家は、この町の住処として適切とは到底思えない。 「お客さんには分かんないだろうなあ、この家の強さは」 「この家の強さ、ですか？」 09 #hollytk

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普通の人間でも飛び越えられそうな門扉を開け、適度に整えられた庭を通って玄関へ。 「そ。アタシと一緒で、この家は弱い。でもだからこそ強いのさ」 「ほほう」 「確かに立派な壁を作れば、安心して暮らせるだろうさ。だけどいずれは壊される。立派な壁は目立つからね」 10 #hollytk

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ヨタカさんは鍵を開け、私を家の中へ招きながら続ける。 「アタシもこの家も、この町ではいてもいなくても同じ物だ。だから誰も気付かない。気付いてない物ってのは、意外と壊れずに残るもんなのさ」 「気付いていない物は壊れにくい、ですか」 11 #hollytk

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それもまた、生きるための術なのだろう。数多の異形を宿した私には、もはや許されないだろうが。 「さ、上がってくれ。話はゆっくり、コーヒーでも飲みながら聞こうじゃないか」 「私はコーヒーにはうるさいですよ？」 「とっときのを出してあげよう。奮発して買った豆だ」 12 #hollytk

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「『ロイヤルグロウ』と『シパーヒー』どっちがいいかい？」 「私は『シパーヒー』の方が好きですね」 「オーケーオーケー、なら私も今日はシパーヒーの気分になろう。ブラックはお好き？」 「ブラックも良いですが、たまの贅沢には角砂糖を三つ」 「アイサー」 13 #hollytk

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ゴリゴリゴリ。コーヒーミルを回しながら、ヨタカさんは私に問う。 「お客さんはこの町に来てどれくらい？結構経ってるように見えるけど」 「ふた月に少し足りないくらいですね。正確には数えていませんが」 時間感覚があやふやな場所にも行った。正確な時間は分からない。 14 #hollytk

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「学校には行ったかい？……って、聞くまでもないね」 「二度ほど行きましたよ」 「へぇ、そうなんだ。……竜について、何か知ってるかい？」 「いくつか。まずあの竜は、角から弱い電気を発しています」 「なるほどね。他には？」 15 #hollytk

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「獲物を掴んで急上昇する習性があります」 「ほう？」 ハンドルを回す手が止まる。ヨタカさんは挽き終えたコーヒーをフィルターに移し、湯を注ぎながらペンを手に取る。 「詳しく聞かせて」 私はソファに身を沈めながら話した。竜の習性について。その威力と、対処法。 16 #hollytk

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机に二杯のコーヒーが置かれる。 黒いコーヒーに、白い角砂糖。 放り込まれた三つの白は、黒を変えることなく静かに溶けた。 私の向かいに座ったヨタカさんは、コーヒーにミルクを垂らしてかき混ぜる。 注がれた白が黒と混じり合い、その色を変えていく。 17 #hollytk

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まずは軽く一口。心地良い苦味と深いコクが舌の上でほどけ、芳醇な香りがするりと抜ける。カフェインと糖分が脳を巡り、忍び込んできた睡魔を払い除ける。 「美味しいですよ」 私の素直な感想を聞いて、無愛想な猪の顔に笑みが浮かぶ。 「奮発した甲斐があるってモンだよ」 18 #hollytk

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それからも私は話し続けた。竜のこと。獣のこと。今までに解剖した異形。自警団について。 「死んだ団長…新しい自警団…バケモノを皆殺し？」 「ヨタカさんは何か知りませんか？」 「そうだねえ。お客さんはかなり詳しく教えてくれてるし、一つおまけで教えてあげようか」 19 #hollytk

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ヨタカさんは少しだけ声を潜める。 「団長が死んだっていう自警団だけど、この前全滅したらしいよ」 「おや、そうでしたか」 「内部分裂で皆殺しだってさ。全く、人間はおっかないねえ」 「本当に。お互い、気を付けましょう」 20 #hollytk

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いつの間にかカップは空になっていた。 「おかわりいるかい？」 「いえ、そろそろお腹が空きました」 久しぶりの食事への期待に、腹の虫がギュルリと音を立てる。 「ふふふ、若いねえ。任しときな」 ヨタカさんは胸元のボタンを二つ開け、ワイシャツの袖をまくり上げる。 21 #hollytk

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「今日はパスタだよ！」 厨房に消えていくヨタカさんを見送りながら、私は『ロイヤルグロウ』を二杯淹れた。 「これはこれで…」 酸味と苦味がやや強い。が、コクもその分深く、舌の上で変幻自在に舞う。 私はコーヒーをちびちび飲みながら、パスタが出来上がるのを待つ。 22 #hollytk

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リビングダイニングに置かれた二脚のソファーとテーブル、各種の調度品。 「ここはヨタカさんの家なのでしょうか？」 手慣れている様子を見るに、かなり長い間ここで暮らしているのだろう。 クモの巣の張った暖炉の上には、古びて埃をかぶった一枚の写真立て。 23 #hollytk