黄昏町(柊)三十六日目

ちんどん屋。 初日/一日目→http://togetter.com/li/849906 前日/三十五日目→http://togetter.com/li/867677 翌日/三十七日目→http://togetter.com/li/869048
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@hiiragi_r_t_d

【三十六日目】 【残り百圓】 【魂15/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) #hollytk

2015-09-01 16:39:54
@hiiragi_r_t_d

「先程の店主、いったい何者だったのでしょう」 「もしかしたらこの神社の神様かも知れねえぜ」 「そういえば、ここの本殿はどこにあるのでしょうか。見当たりませんね」 そもそも何を祀っている神社なのか。 「狛犬の類も置かれていませんし」 01 #hollytk

2015-09-01 16:41:24
@hiiragi_r_t_d

「この神社には境内と末社しかないよ」 すれ違った誰かが教えてくれる。 「この縁日自体が本殿だ」 縁日。ハレの空間。それ自体を祀る為の神社………? 首を傾げる私の耳に、賑やかな祭囃子が飛び込んでくる。 02 #hollytk

2015-09-01 16:43:04
@hiiragi_r_t_d

ピーヒョロ ピーヒョロ ヒョロロロ ドンドン ドコドコ ドドン ドドン チャンチャカ チャカチャカ 「ちんどん屋じゃねえか!珍しいなあ、久しぶりに見たぜ!」 「ああ、ちんどん屋。」 そういえば、ああいうのをちんどん屋というのでした。 03 #hollytk

2015-09-01 16:45:07
@hiiragi_r_t_d

この縁日の住民なのだから、当然ただのちんどん屋ではない。 焦げ茶色の体毛。 恰幅の良い体。 突き出したお腹に、大きな出ベソ。 長く伸びた鼻に、丸い耳。 信楽焼などでおなじみの、化け狸だ。 04 #hollytk

2015-09-01 16:47:02
@hiiragi_r_t_d

笛を吹くもの、鉦を鳴らすもの、自分のお腹をバチで叩くものもいる。 「あはは、おっもしれえなあ!」 祭囃子の調子に合わせて、ポンとカスカが手を叩く。 周りのお客や、果ては店主までもが店をほっぽりだし、今やちんどん屋の周りには盆踊りの大集団が出来上がっていた。 05 #hollytk

2015-09-01 16:49:23
@hiiragi_r_t_d

「やれやれ……」 私は溜息を一つ吐き出す。 踊る阿呆に見る阿呆。 「同じ阿呆なら踊らにゃ損損、ですかね」 「えっ?」 「行きましょう、カスカ。金のかからない娯楽ですよ」 06 #hollytk

2015-09-01 16:51:21
@hiiragi_r_t_d

私とカスカも人の群れに飛び込み、見様見真似で踊り始める。 周りも大半が適当に踊っているだけなので、さして目立つ事もない。 「あ、よーいよいっ」 カカッ、とカスカがおどけて下駄を鳴らす。 07 #hollytk

2015-09-01 16:53:23
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私もゆらゆらと両手を上げて踊り出す。 私達は人の波に揉まれて近付いたり離れたりしながら、この突発的な乱舞を楽しんでいた。 08 #hollytk

2015-09-01 16:56:15
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祭囃子の調子も上がり、場の狂乱が最高潮に達している中、私は出店の陰に立つ男に気が付く。 男は棘と鱗で覆われた歪な腕をぶら下げて、踊っている集団を虚ろな目で見る。 その目が狸のちんどん屋に留まった瞬間、虚ろな瞳に鈍い光が宿る。 09 #hollytk

2015-09-01 16:57:09
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私はカスカの肩を叩くと、手を取って集団から距離を置く。不服そうにこちらを見るカスカに、私は男を指差す。 「カスカ、あれを」 「…何がしてえんだ?」 「さあ、それは分かりません。ですが」 私はニヤリと笑う。 「面白い事になりそうです」 次の瞬間、男が動いた。 10 #hollytk

2015-09-01 16:59:07
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男は助走をつけ、踊る群衆を一歩で飛び越えた。そのままの勢いで、集団の中央に陣取るちんどん屋に飛びかかる。 自らの腹を叩いていた狸が、声を上げかけた喉笛を咬みちぎられる。 「ひっ、人殺しっ」 悲鳴を上げた狸達はしかし逃げることはなく、男を遠巻きにしている。 11 #hollytk

2015-09-01 17:01:07
@hiiragi_r_t_d

「あいつら、ショックで動けねえんじゃ……」 「いや、そうでしょうか」 男を遠巻きに見るのは狸達だけではない。 店主達やただの客、通りかかった通行人までもが男に敵意の眼差しを向ける。 12 #hollytk

2015-09-01 17:03:11
@hiiragi_r_t_d

男はガツガツと狸の死骸を喰らっていたが、じきに周囲からの視線に気付いて立ち上がった。 「な…なんだよ。お前達だって外ではこうしてるだろ」 どうやらこの縁日の掟「殺してはならない」を彼は知らなかったらしい。 しかし知らなかったで済ませる程、この町は甘くない。 13 #hollytk

2015-09-01 17:05:34
@hiiragi_r_t_d

「ダメならちゃんと先に……ッグ!?」 男が前触れもなく、喉を押さえて苦しみ始めた。それだけではない。 「グッ、ガッ、ゴフッ、ゲホゲホッ」 「オイ、なんだよアレ……」 男は口から絶え間なく液体を吐き出しながら、同時にその体もゆっくりと溶け始めていた。 14 #hollytk

2015-09-01 17:07:17
@hiiragi_r_t_d

異変が始まってから五分ほどで、男は完全に溶け落ちた。 男だった液体の塊はブルリと震え、狸の亡骸に吸い込まれていった。 亡骸に液体がまとわりつき、元の形を取り戻していく。 15 #hollytk

2015-09-01 17:09:16
@hiiragi_r_t_d

「む…酷い目にあった……」 そして死んだはずの狸がむくりと起き上がると、ちんどん屋の行列は何事もなかったかのように祭囃子を鳴らし始めた。 「な……んだよ、コレ……こんなの…」 「カスカっ!?」 また踊り出した群衆を後に、私は走り出したカスカを追いかける。 16 #hollytk

2015-09-01 17:11:19
@hiiragi_r_t_d

慣れない下駄でそれほど速く走れるわけもなく、私はすぐカスカに追いつくことが出来た。 「カスカ」 「見るな」 「カスカ、泣いて」 「見るなよ」 俯いたカスカの目には、提灯の光を受けて輝く小さな雫。 それは大きくなって目尻からこぼれ落ち、肌を覆う粘液に溶けた。 17 #hollytk

2015-09-01 17:13:24
@hiiragi_r_t_d

私は竜の尾でカスカを巻き取り、いつものように背負う。 しばらく私の背に揺られながら嗚咽を漏らしていたカスカが、ぽつりぽつりと話し始めた。 「ごめん、アタシ……調子に乗ってた」 18 #hollytk

2015-09-01 17:15:18
@hiiragi_r_t_d

「この縁日に来て……もう殺したり殺されたりしなくていいと思った……この縁日も、町の一部だって、そんな簡単な事も忘れて…」 「きっと、それはこの縁日に来ている全員の願いですよ」 殺し合いと不条理な死が横行する日常から、少しの間だけでも抜け出して安らぎを得る。 19 #hollytk

2015-09-01 17:17:10
@hiiragi_r_t_d

「カスカは、この縁日から出たいですか?」 「え?」 「この縁日から出なければ、この町を抜け出す事はできませんよ」 「……」 「すぐに答えを出す必要はありません。ですが」 私は懐の硬貨を握り締める。 「私がお金を使い切るまでには、決めた方がいいと思いますよ」 20 #hollytk

2015-09-01 17:20:48
@hiiragi_r_t_d

「どうしてだよ」 「それはもう、分かり切った事ですよ」 私は笑いながら続ける。 「金が無くなったら縁日を出て、カスカを解剖しないと。暇で暇で死んでしまいますから」 21 #hollytk

2015-09-01 17:22:39
@hiiragi_r_t_d

──────── 【三十六日目】 【残り百圓】 【食べない。特に無し】 【魂15/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) 22 #hollytk

2015-09-01 17:22:57
@hiiragi_r_t_d

[縁日]祭囃子も賑やかに、丸々と太った狸たちのちんどん屋が君の前を通る。《君は狸たちを喰うことができる。喰うなら【魂+11】その場で死亡【魂-1/アイテム消失】また[縁日]には二度と来る事ができない》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/553567 #hollytk

2015-09-01 17:23:34