黄昏町(柊)四十二日目

柊 @hiiragi_r_t_d

【四十二日目】 【魂17/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) #hollytk

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「カスカ、鳥居の話を聞いた事はありますか？」 「鳥居？縁日の入口にあった、あれか？」 「まあ、おそらくそれに近いものではあるのでしょうけれど………その鳥居が繋がる先は、外ですよ」 「外って、町の外？」 「ええ。力のあるものしか通れないようですが」 01 #hollytk

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「出口はあるんだな」 「ええ。既に私の知人が二人、そこから町を出たようです」 「マジかよ!?ならアタシ達も」 「私、あまり出て行く気は無いんですよね」 「なんでだ？外が恋しくねえのかよ」 「マトモな料理や柔らかい寝床が、恋しくないと言えば嘘になります」 02 #hollytk

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「ですが私はそれ以上に、まだこの町を楽しみ切れていないと思うんですよ」 「はぁ？」 「この町に来たのも何かの縁。どうせなら楽しみたいじゃないですか」 「よく分かんねえな。でもアイズミがそういうなら、アタシはそれに付き合うよ」 03 #hollytk

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「ですから、カスカは勝手に出口を探しに行っていいのですよ？」 「どうせアタシ一人じゃ出られねえしな」 「ですからカスカも強くなって…」 いつもの水掛け論が始まりそうになった時、私の聴覚が辛うじて誰かの足音を聞き取った。 「カスカ、静かに。誰かいます」 04 #hollytk

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「……異形持ちか？」 「足音からみるに、バケモノではありませんね」 靴を履いた足音、複数。隠す気もなく近づいてくる。 「これは………」 間違いなく、「普通の」人間だ。 05 #hollytk

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「逃げますよ、カスカ」 これだけ堂々と姿を現すということは、何かしらの勝算が向こうにはあるのだ。 私はきょろきょろと周りを見回すカスカを抱え上げる。 「三十六計逃げるにしかず。捕まっていてください、カスカ」 「おっ、おう！」 06 #hollytk

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カスカが私の首に腕を巻き付けた事を確認し、私は竜の尾を伸ばす。 「いきますよ」 尾の先端が電柱を掴んだ次の瞬間、私の体は宙を舞った。 「カスカを抱えたままでも、なんとかいけそうですね」 尾を使い、民家や電柱を跳び渡る。 07 #hollytk

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「こんな事もできるのかよ！」 「あまり頻繁に使うとバテますけどね」 熱中症になることもある。かなり過酷な運動なのだ。 「それに、まだ逃げ切れたわけではないようですよ」 足元の路上から突き刺さる、複数の鋭い視線。 次の瞬間、鋭い破裂音が響く。 08 #hollytk

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私の頬を何かが掠め、水晶の頬にヒビを入れる。 彼らが懐から取り出したそれは… 「け、拳銃!?マジかよ!!ズルくねえか!?」 「これだけ異形を活用しておいてその言い分も、ちょっとどうかと思いますよ…」 それに、この距離ではそうそう当たらない。はずだ。 09 #hollytk

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私はジグザグに、道の両脇に立ち並ぶ家々を跳び渡る。私の後を鋭い銃声が追いかけ、あちこちで電線が千切れ飛ぶ。 「頼むから落とさないでくれよな！今落ちたらロクでもない目に遭いそうだし！」 「私を追いかけてカスカは見逃して貰えると思いますよ。どうしますか？」 10 #hollytk

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私の腕の中で、カスカがニヤリと笑う。 「何度も言ってんだろ。どこまでもついて行ってやるって」 「全く……カスカはこんな時でも、いつも通りですね」 カスカの笑顔を見て気が緩んだのかもしれない。 右前方、火の見櫓で鈍く光る銃口に私は気付くことができなかった。 11 #hollytk

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今までのものとは比べ物にならない、重く臓腑に響く銃声。 いや、臓腑に響いたのは銃声だけではないらしい。衝撃を受け、カスカをその場に残したまま私は後ろへ吹き飛ばされる。 「…………ガ、ハッ…」 民家の壁に打ち付けられた私は、赤い血の跡を残しながらずり落ちる。 12 #hollytk

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呼吸が苦しい。右胸が大きく陥没している。 「ヒュー、ヒュー、ゴブッ、ガフッ」 笛の音のようにか細い呼吸に混じり、透明な液体がとめどなく口から溢れる。 口から流れ落ちた液体はしばらく経つと赤い色を取り戻し、私の足元に血溜りを作っていた。 13 #hollytk

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「アイズミ！アイズミ！おい！しっかりしろ！」 カスカが私の元へ駆け寄ってくる。 「この、状態、ゲホッ、しっかりは、できな、ゲホゲホッ」 「もういい、喋んじゃねえ！」 「カスカ…貴方だけ、でも」 「うるせえ！フザけた事言ってんじゃねえ！」 14 #hollytk

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そう言うとカスカは、その小さな体で私を背負い上げようとする。 「クソッ、アイズミテメー、重いんだよ………」 やれやれ……こんな死に体の奴は放っておくか、いっそ止めを刺してほしいくらいなのだが。 私は左腕を振り上げ、撃たれた右胸に突き刺す。 15 #hollytk

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銃弾に砕かれ、無惨に肉塊と化した部分をごっそりと引きちぎる。 太い血管が数本、ブチリと音を立てて千切れたがこの際構うまい。 「……………ふう。これで、軽く、なり、ました、よ」 私はカスカの手を借りながら、ふらふらと立ち上がる。 16 #hollytk

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「大丈夫なのかよ」 「当然、大丈夫、では、ない、です。ですが、まあ、しばらく、これで」 息が苦しい。肺が片方無くなっているからか。剥き出しの右胸から飛び出した気管支が、ヒョウヒョウと妙な音を立てる。 私はカスカに肩を貸してもらい、ゆっくりと歩き始めた。 17 #hollytk

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「あいつら、まだアタシ達を探してる」 「ええ………そのようですね」 ゆっくりと裏路地を歩く。血の跡が、私の後ろに太く、長く、伸びている。 遠くから男達の怒声が聞こえる。 私達は声から逃げるように、歩き続けた。 18 #hollytk

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「カスカ………聞こえますか」 「なんだよ、アイズミ」 「遅かれ…早かれ、私は死にます。逃げろとは、もう言いません。死んだ後の、話です」 「………聞くぜ」 「カスカ………この町を、出なさい。この町を出て、私の屋敷に辿り着く事が出来たら………」 「出来たら？」 19 #hollytk

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「カスカに、ななひゃく、ごじゅう、ぽい、んと」 カスカは顔を歪める。 「遺言みたいな事、言ってんじゃねえ…アイズミ、約束しろ。アタシがこの町を出る前に、必ずアンタの屋敷に戻っとけ！1000ポイント、すぐ使ってやるからな！」 「ええ、いいですよ。あと、一つ」 20 #hollytk

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私はカスカの頬をなぞる。 「次に会うまでに、もう少し、肉を、つけて、来なさい」 「………ったく。ホント、アイズミらしいよな」 いつの間にか、目の前には高いビルがそびえ立っていた。 私とカスカは、ゆっくりと振り返る。 21 #hollytk

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ずらりと並んだのは、手に拳銃を持った男達。 左右の民家の上、背後のビルの上にもいるだろうか。 静かに、私達二人を睨みつけている。 「どう、しました？私達を、殺す、のでしょう？」 頭に赤いバンダナを巻いた男が、集団を代表して答える。 22 #hollytk

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「ああ、殺す。しかし手を下すのは私達ではない。ボスだ」 男が上を指差す。私とカスカがその先を見る。 背後のビル、その屋上に、一台のトラックが止まっていた。 軽トラックではない。長距離輸送に使われる、2tトラックだ。 23 #hollytk

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不意に、そのトラックが傾く。その傾きはすぐに限界を超え、その鉄塊は不協和音を奏でながらビルから転げ落ち…… 「あばよ、アイズミ」 私とカスカは、揃って路面の染みになった。 24 #hollytk