短歌研究新人賞についていろいろ考えたまとめ【2015年版】

2015年の短歌研究新人賞についての雑感。と、興味深いやり取りがありました。
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久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

遠野真「さなぎの議題」について。まずこの作品を読んでいる間、主人公の性別が気になって仕方なかった。正確には性自認と、性に対する価値観。特に中盤以降のスカート、キャミソール、ネイルが出てきてから。あとおかあさん。女性を指し示すキーワードは出てくるのに、逆の男性を示すワードはない。

2015-08-26 20:52:21
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

まあ男性をほのめかすキーワードを入れるって難しいんだけど。ともかくこの主人公の視点には、たまに女性は現れても、男性はモブ。地学教師もどっちでもいい感じ。ここまで偏った視点を持つ主人公は、どちらの立場に自分を置いているんだろう、ということは気になる。

2015-08-26 20:55:34
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

しかし主人公の性別を決められる情報はないので、そこはどちらの可能性も踏まえて読むしかないわけです。これが穂村さんのいうところの多義性。

2015-08-26 20:58:46
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

まあ多義なまんまでもいいっちゃいいんですけど、せっかくだから一番妥当そうな読みを考えています。まず主人公が単に男性という線は考えにくい。なぜなら、どちらかといえば女性っぽい印象を与える要素が配置されているから。月(二首目)や長袖(8首目)とかね。選考委員もそっちに引っ張られた。

2015-08-26 21:03:18
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

じゃあ主人公=女性と決めてかかって読んでしまうと、これが面白くない。リスカと自殺願望、いたぶられる身体、それも性的に、という具合で。私は漫画が好きなんですけど、精神的に病んだ女子高生が主人公の作品で、こういう要素いっぱい見たことあります。しかも十年以上は前。

2015-08-26 21:09:58
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

じゃあどっちなんだよ、ということで、一つ思いつきました。主人公は男子高校生だけど、クラスにいるある女子に感情移入(恋とかではない)し過ぎていて、自分がまるでその子になったと想像しているのではないか。

2015-08-26 21:14:56
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

つまり一連は、主人公(男子)の視点と、彼が見ている女子の視点(彼が成り代わっている)が混在している。彼はもしかするとその女の子になりたいのかもしれない。この説、そんなに根拠はないですが、ただの男性と決めて読むよりは妥当だし、女性とするよりは多義性の効果を説明できると思う。

2015-08-26 21:20:56
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

基本的には通学や教室の風景描写は男子視点。「わたし」という一人称が使われたり、口語の終助詞(よ、かな)が使われているのは成り代わり女の子視点。もちろんこの二つの視点は、はっきり分かれるものではなく、混ぜこぜに存在していると思われる。以上、私なりの解釈です。

2015-08-26 21:25:17
歌集『母の愛、僕のラブ』柴田 @hellothisissbt

土地柄9月号を手に入れるのが遅かったので、受賞作の「さなぎの議題」がどれほど重いものかと思っていたんだけれど、そんなに重さを感じなかった。多分作中の視点の問題なのかもしれない。

2015-08-27 01:24:24
歌集『母の愛、僕のラブ』柴田 @hellothisissbt

家庭内暴力や性的被害を受けているらしい女子学生がいて、誰かがその視点になり代わって、部分的に想像して書いている感じがした。そして、その視点はその女子学生の存在や危うさに惹かれている印象を受けた。だから、被害者本人的な重さを感じないし、全体に美しく描かれている。

2015-08-27 01:41:37
歌集『母の愛、僕のラブ』柴田 @hellothisissbt

一例だけれど、この女子学生は「わたし」は虚数だとか「所有物になる」等、自己否定をする一方で「わたしはきれいに座る」「わたしから湧く水はきれい」と自分の美しさ・価値を存分に知っている。「お腹」って表現にも価値を見ている感じがしたけれど、これは言いがかりかもごめんなさい。

2015-08-27 01:57:08
歌集『母の愛、僕のラブ』柴田 @hellothisissbt

「肉親の殴打」も随分第三者的な表現だし具体性がない。また女子学生とは反対に他の登場人物が随分短絡的描かれている。海に行きたいなーと思うネイルのきれいな若い担任とか、ありきたりのことを言う地学教師とか。相対的に女子高生の複雑で繊細な美が際立っている。

2015-08-27 02:08:32
歌集『母の愛、僕のラブ』柴田 @hellothisissbt

他にもこまこまあるけれど、こうした例から、とある複雑な事情があるらしい美しい女子学生のことを、誰かが大部分想像して編んだ物語なんだろうなとわたしは読んだ。仮に「ちがいます、わたしのリアルです!」って女子学生に言われても、そう読めてしまったんだもんごめんとしか言いようがない。

2015-08-27 02:17:15
歌集『母の愛、僕のラブ』柴田 @hellothisissbt

作者の狙いなんだろうか。が、一読者としては「リアリティを感じなかったけれど、それでも敢えて女子学生視点を試みるメリットはなんだったのかな」と思ってしまった。ただ昨日ツイートした通り、個人的には連作最後の歌の凄みに心を奪われた。今も頭から離れない。おわりー!

2015-08-27 02:23:48
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

>RT この方の見解は私と近い。別角度からせめてる。狙い、メリットはよくわからなくて昨日のTweetでは言及しなかったんだよなあ。

2015-08-27 09:13:10
歌集『母の愛、僕のラブ』柴田 @hellothisissbt

@okirakunakuma はじめまして。RT、ありがとうございます。TL追えておらず先程拝読しましたが、そうそう!と久真さんのツイートに首をぶんぶん振ってしまいました。狙いだとすれば…と自分なりに考えることもあるのですが纏まらず。「鯖を買う/妻が好き」30首大好きです。

2015-08-27 09:40:51
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

@hellothisisaoi いえ、こちらこそ作品に感じたものが言葉にされていたので納得して読みました。自己肯定と自己否定の矛盾は、一人の人間の葛藤によるものというより、視点の分裂と捉えた方がなじむ気がします。何故かはわかりませんが。ありがとうございました。

2015-08-27 20:37:23
歌集『母の愛、僕のラブ』柴田 @hellothisissbt

@okirakunakuma そうですね、確かに一個体の葛藤ではなく視点の分裂に感じるのは、矛盾同士がぶつかりあう様子を(柴田としては)作中に見出せなかったからかもしれません。受賞も含め、色々な面で興味深い作品だと思いました。これからもよろしくお願いします。

2015-08-28 00:04:25

ぶつかりあい、というキーワードになるほどと思いました。ぶつかりあいが見出せる作品の例はどんなのがあるだろうか、『さなぎの議題』はそれらとどう違うだろうか、ということを現在考え中です。


久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

夏雲のあわいをユー・エフ・オーは行くきらめいて行く母離婚せり/北山あさひ「風家族」(短歌研究新人賞候補作) 選評ではあまり触れられてないけど、この歌とか北山あさひさん以外に作れるのか?と思ってしまう。自分の世界がある作者だなあ。

2015-08-25 23:20:23
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

夏雲のあわいを行くものなんて鳥でも飛行機でもいいし、それでも抒情的な型に全然はまる歌である。しかしUFO。しかもあえてカタカナ書きにすることで、テレビのバラエティ番組のようなうさんくささを醸し出してる。このUFOは実際に作品内で目撃されたものではなさそうだ。

2015-08-25 23:25:56
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

まずUFOの登場は母の離婚の事実をおぼろげにしてしまう。次にカタカナのうさんくささは、主体の感傷までも曖昧にしてしまう(これは抒情的な型を利用することのギャップを通してより確かになる)。

2015-08-25 23:35:15
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

結局それは、母の離婚をそう表現する主体の心情に関心を向けさせる。例えば、 離婚の事実を信じられない・信じたくないのかとか、離婚が事実だとしてもそれに感傷を抱きたくないのだろうかとか、裏腹にすごいショックなのかとか、複雑そうなのは確か。

2015-08-25 23:37:08