【完結】 #詩の君 掌編小説 in Twitter

Twitter で連載していた掌編小説『詩の君』のまとめです。完結済み。1話から最終13話まで公開しています。天才少年詩人とその友人のワンシーン。
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結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君:「これ、この前の学祭の件でしょう」私は雑誌『詩人の森』の巻頭詩を開いて葵に見せた。昼休み。校舎の屋上には私――翠 楓(みどり かえで)と、彼――葵 透(あおい とおる)だけだ。葵が世間で「天才少年詩人」と評される<紫苑>の正体と知るのは、この学校内では私だけだ。 #小説

2015-09-09 01:43:03
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君: 「さあね」葵はしらを切った。が、私は確信している。状況描写が学祭時に起こった「事件」と符合する。例えば『天へ立ち昇る炎の柱』は後夜祭のキャンプファイヤーのこととしか思えないし、『カイトを漕ぐ少年』はちゃちなハンググライダーで屋上から飛び降りた馬鹿な男子だろう。 #小説

2015-09-10 00:22:19
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.3:「翠がそう思うのなら、そうだろう」葵ははぐらかすように言った。彼は手摺りに腕を掛け、グラウンドを眺め始めた。「とぼけないでよ」私は少し声を大きくした。「……」葵は押し黙り、私は悟った。これ以上詰め寄っても、葵は決して答えてくれないだろう。「……なんでよ」 #小説

2015-09-10 22:31:17
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.4: 「私にぐらい、教えてくれたっていいでしょう」 ついつい、拗ねるような言い方になっていたことに気づき、私は慌てて誤魔化そうとしたが、その前に葵が口を開いた。「詩が壊れるんだ」「は?」私は間抜けにもぽかんと大口を開けていた。葵の答えは、想像の範疇を越えていた。 #小説

2015-09-11 23:50:56
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.5: 「詩の解釈は自由だ。俺が意味を強制したら、読み手のなかの詩を壊してしまうだろう」淡々と、言葉を宙に放り投げるように、葵は語った。?? 私は初め、葵の言っていることが全く理解できなかった。「読み手の詩が壊れる?」私はおうむ返しに訊き返すのが精一杯だった。 #小説

2015-09-12 23:32:33
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.6: 葵は言った。「啄木の歌に『はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざり』とある。家族を養うために、体に鞭を打って働いたとされている」「ああ、そうだったかしらね」私は近代文学の記憶を頭の中でたどりながら、返事をした。「でも、確か――実際は遊び人だったのよね」 #小説

2015-09-13 20:03:06
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.7: 葵は頷いた。「事実を知っているか否かで、歌のイメージが違ってこないか?」「それはそうね」葵にしては明快な説明だった。私はやっと、彼が言いたいことがわかってきた気がした。「つまり、あなたが詩に込めた意味を明かすと、読み手の中の詩のイメージが変わってしまう」 #小説

2015-09-14 19:49:19
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.8: 「そういうことなの?」葵はまた頷いた。なるほど。やっと意味が通った。が、私はまだ納得できなかった。「それでいいの? 的外れな解釈をされたら、腹が立ったりしない?」葵はゆっくりこちらを振り返って微笑んだ。私はどきっとした。葵は女子が嫉妬するほどの美形なのだ。 #小説

2015-09-15 21:21:34
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.9: 「いいんだよ。詩は読んだ人のものなんだ」葵がまた妙なことを言う。「詩は読んだ人のもの?」私はまた、おうむ返しに訊いてしまった。疑問符が再び、頭の中を駆け回っていた。残念ながら、葵はもう説明する気はなさそうだ。私はなんとか言葉をひねり出す。「……えーと、」 #小説

2015-09-16 12:55:00
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.10 「その人がイメージした詩は、その人のもの、ってことなのかな……?」「そう!」葵が声を高くした。次の瞬間、私は心の中で悲鳴を上げた。なぜかテンションが上がったらしい葵が、私の手首を掴んでいた。「だから俺が、俺自身の詩の意味を語ることはないよ」葵は言った。 #小説

2015-09-17 17:18:36
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.11 馬鹿だな、こいつ。私は動揺しながらも、どうにか冷静さを取り戻して、そう思った。「えっと、私は別に私のイメージが壊れてもいいんだけど」葵は目を丸くした。「っていうか、むしろ本当はどんな意味なのか知りたい」葵は掴んでいた私の手首を放し、思案する素振りを見せた。 #小説

2015-09-18 15:44:06
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.12 「じゃあ、秘密ってことにしとくよ」葵が悪戯っぽい笑顔で言うので、私は呆れた。それを教えろと言うのに。結局、話が振り出しに戻っただけじゃないか。葵は私の内心の思いなどお構いなしに、屋内へ通じるドアに歩きだした。「あ、こら。葵、待ってよ」葵の背に言葉を投げる。 #小説

2015-09-20 13:12:49
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#詩の君.13 しかし、葵は待たなかった。予鈴に後押しされるように、ドアを開けて、すたすたと階段を降りていく。私は慌てて後を追った。午後の授業が始まろうとしていた。私は今日も、この不思議な少年を観察しながら、高校生活を楽しんでいる。(終) #小説

2015-09-21 15:42:33

あとがき

結城 希@低浮上 @YukiNozomu

ブログに『詩の君』のあとがきのようなものを書きました。 #小説 #詩の君 掌編連載を終えて - 言葉の種を植える場所 yuki-nozomu.hatenablog.com/entry/2015/09/…

2015-09-22 16:03:24