凸凹兄妹〜帰還〜

時間災害が収束し、フォルモーレ領へと帰還を果たした兄妹。そこでは、より大きな戦いが二人を待っていた。
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ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

#凸凹兄妹 帰還 @IKS_gc2 “it”の猛攻を退け、魔境が消滅してから一月。 多くの友人と語らい、ときにはその国を訪ね、兄妹はついに帰ってきた。 フォルモーレ家。 二人の実家である。 魔境での二人、というより主にイクスの勇名は、フォルモーレ家にも余すところなく届いていた。

2015-06-21 20:38:56
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 侍女たちや一介の臣たちはこぞって出迎え、その功を称え、労った。 「セイア、イクス。よく戻りましたね。お父様がお待ちですよ」 イクスの母、セイアの養母は二人を抱き締め、謁見室へと見送った。

2015-06-21 20:39:09
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「よくぞ戻った。セイア、イクス」 二人の父、フォルモーレ卿は既に座して待っていた。 「修行といわず功を成し、名を上げてきたようではないか。 これでこのフォルモーレ家も安心して任せられるというものだ。 どうだった、修行の旅は」

2015-06-21 20:39:21
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 二人は顔を見合わせ、先にセイアが答えた。 「たくさんの人と、出会いました。 たくさんの気持ちや考え方に、触れました。 たくさん、たくさん、感じたことや、考えたことが、ありました」 そこでセイアは口をつぐんだ。⇒

2015-06-21 20:39:31
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko 「同感です、当主。……己の為した働き以上に、私は。己の心に、向き合うことができました」 その醜態も、弱さも。けれど、後悔はない。それがあるからこそ、今の自分でいられている。多くの人に、そして妹に支えられて、今の自分がいる。➡️

2015-06-21 20:42:36
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「修行とは、そういうものだ。何も剣や弓の腕の話ではない。人として学ぶべきことを余すことなく得るよう私は求めた。お前たちが全力であたったのは聞かずともわかる」 満足げにフォルモーレ卿は笑んだ。(続)

2015-06-21 20:55:03
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「セイア。 来週から私の従者に任ずる。 軍指揮や内政の実際を身を以て学ぶがいい。 イクスは引き続き、セイアの侍従としてよく勤めるように」 セイアはびくりと震えた。 言葉は、出なかった。⇒

2015-06-21 20:59:00
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko 「畏れながら、当主。その件につきまして、ご相談したいことが」 妹の様子を見、口を開く。 「よろしければ、その件、私たち二人にお預け頂けませんでしょうか」 それはおそらく、この家に生まれた長子の、初めての口答え。 「納得のできる道を、二人で探したく存じます」➡

2015-06-21 21:04:53
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「預ける?」 当主は怪訝な顔をした。 「納得のできる道とは、どういうことだ。 ――先の命に納得できない、ということか?」 セイアは震えていた。⇒

2015-06-21 21:20:52
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko ぐ、と息を飲む。 「そうでは、ありません。セイアは、私の不肖が故に君主を務めて参りました。そして、その期待に懸命に応えて来た。此度の大戦においても。それは、最も傍で見守っていた私が存じております」(続)

2015-06-21 22:05:26
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko 足が震える、長子とはいえ、廃嫡となった身。今の自分は侍従、この家に仕える身なのだ。さりながら、執政に口を挟むその不遜、この場でお払い箱となるか、最悪斬り捨てられても文句は言えない。 「故に、セイアには、休息を与えて頂けないか、と」➡️

2015-06-21 22:07:28
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「私が悪かったんです」 フォルモーレ卿が口を開く前に、セイアが絞り出すように言った。 「私は、納得できてませんでした。 ずっとこの家を継ぐために頑張ってきた兄上が、聖印を継承できなかった、ただそれだけで侍従という身に甘んじなければならないことに」(続)

2015-06-21 22:23:01
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「なぜですか。なぜ兄上はこんなに苦しまなければならなかったんですか」 興奮で頭に血が上っている。悲しくなどないのに涙が零れそうになる。 「私はいいロードを演じてきました。 そうしなければならないと思ってきたからです。 でも、もういやです」(続)

2015-06-21 22:27:08
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「私は兄上を苦しめたままロードで居続けることはできません。 兄上に然るべき地位をお与えください。 そうでなければ私は家なんか継ぎません」 掲げた手から星の聖印が浮かび上がる。 「この聖印もお返しします。 ただの町娘に戻ります。(続)

2015-06-21 22:33:10
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 どうか、後生です、ご検討ください。 もう一度言います。 兄上に此度の功に相応しき地位を、お与えください。 ……そして私に、頭を冷やす時間をください」⇒

2015-06-21 22:36:42
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko 「……全く身勝手な兄妹だ。己の務めを何と心得るか」 押し殺した、だが呆れも多分に含んだ、当主の声。 「外の世界で、悪しき風習に浸かった者たちに中てられたか」 己が名を連ねる家よりも、個人を重んじるなどと。 「この場で共に、勘当する事も可能なのだぞ」 (続)

2015-06-21 22:46:17
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko 「当主、その辺りで……」 不穏な様子を見かね、女性の声が割って入る。 「二人とも激しい戦いを生き延び、一段と大きくなって、こうして帰って来てくれました。今は、それでよろしいではありませんか」 二人の『母』にあたる女性。(続)

2015-06-21 22:53:52
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko 「二人とも平静を装っておりますが、内心は疲れきっているはず。今日は、ゆっくり休ませてあげましょう。……それに」 言葉を続ける。 「誰よりも心配なさっていたのは、貴方でしょう? お父さん?」 母の顔になって、父を嗜めた。今度は当主が、ぐ、と息を飲む。(続)

2015-06-21 23:01:52
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko 「……わかった。しばらくは、ゆっくり休むがいい。……好きにしろ、とは言わん。その間に、どうあるのが正しいか、気付くことを期待している」 恐らく、この二人が折れる事はないだろうと予感し、ため息を吐く。 「……湯浴みを済ませたら、晩餐とする。下がってよい」➡️

2015-06-21 23:05:57
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「ありがとうございます。……失礼します」 養母と兄に支えられ、逃げるように部屋を出たセイアはひどい顔だった。涙が既に幾条も伝い、目は赤く、顔はもっと真っ赤だった。 「わあああああぁっ」 部屋を出た途端に嗚咽が漏れた。養母の胸にすがり付いて少女は泣いた。⇒

2015-06-21 23:10:47
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko 「よく、がんばったわね、二人とも」 その頭を、優しく撫でる。 気付いていた。家の呪縛に囚われる二人が抱える、言葉にできない苦しみを。救ってあげたいと思いつつ、自分にはどうにもできなかった。(続)

2015-06-21 23:16:10
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko けれど、帰って来た二人は、自分が何をするまでもなく、父に、家の呪縛に向き合い、心の内を吐露した。 戦いだけでなく、多くの出会いを経験したのだろう。良い事ばかりでなく、辛い事も多かったはずだ。それが二人を、ここまで成長させた。それが、母として誇らしい。➡️

2015-06-21 23:19:41
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「お養母様………、お義母様」 顔をぐしゃぐしゃにしてセイアは泣いた。 養母が否定しないでくれたのは嬉しかった。だが実際は父の言う通りだ。二人して勘当されてもしかたがない。自分のわがままで。 「(……どうなるん、だろう)」 不安と恐怖に苛まれた眼がイクスを見た。⇒

2015-06-21 23:28:28
ほりしゅー @IKS_gc2

@e_pochiko イクスは、妹の手を取る。遠い昔のように。兄として、自分が傍に居ると、言い聞かせるように。 その様子を認めた母は、優しく告げた。 「二人の、したいようになさい。私も味方になってあげる。だから……時間がかかってもいいから、最善と思える答えを出すのよ?」➡️

2015-06-21 23:36:11
ままるだ(まちるだ) @e_pochiko

@IKS_gc2 「ありがとう。お養母様……お兄ちゃん」 言うべきことは、言ったのだから。 今は、甘えさせてもらおう。 兄の手と養母の胸が、じんわりと暖かかった。 【To Be Continued】

2015-06-21 23:42:08