山本七平botまとめ/【戦中・戦後をつらぬく"目"②】現代は社会的居候を養っていける社会

山本七平『人生について』/戦中・戦後をつらぬく"目"/199頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【山本】それからもう一つ、ジャングルの生活っていうのはこれで中々忙しいんです、ものを考える暇がないくらい…。 【質】食物を集めたり…。 【山本】食物を集めますね。そして火を起す…。 【質】火を起すにもマッチはない…。 【山本】火種をとってなければなりませんね。<『人生について』

2015-09-15 15:38:54
山本七平bot @yamamoto7hei

②【山本】水牛を捕まえて来たといっても、殺して肉にするっていうのは大変な作業なんですよね。 米を取って来ても、モミでしょう。 精白して米にして、ハンゴウで炊いて食べるまでの作業ってのは、一日それやってりゃ日が暮れちゃうわけで、日が暮れると、灯がないでしょう。

2015-09-15 16:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

③【山本】だからジャングルの生活っていうのは現代人には不可能なんですよ。これは…おかしい事ですよね、現代人は忙しすぎるから自然に帰れっていうでしょう。 しかし、現代人がそう言うのは大変に贅沢な欲望なんですよ。 今の生活をそのままの状態にして、自然を欲しいっていうんですからね。

2015-09-15 16:38:54
山本七平bot @yamamoto7hei

④【山本】本当に自然に帰ったら、人間は食うだけで精一杯なんですよね。 【質】なるほど、別荘地に電気冷蔵庫を持ち込んで(笑)。 【山本】冷暖房もあって…。 【質】病気すりゃ、医者も近くにいて…。 【山本】何もかも揃ってて、しかも回りが自然的環境であって欲しい、という事でね。

2015-09-15 17:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤【山本】第一、ジャングルには道路がない訳でしょう。歩けって言いましてもね、今の人は歩けないと思いますよ。落葉が一尺も二尺も積もっていますからねえ。歩くと、それが凹んで水がジーッと滲んで来ますねえ。 ですから乾いた固い上の上を踏むっていう事が天国みたいな気がするんですよ(笑)。

2015-09-15 17:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥【山本】メシを炊くとすると、海岸へ行って海水をくんで来て、それから、火を起こして…とやってると、一日じゃたりないですよ。 横井さんが三十年間何してたって言いますけど、おそらく、横井さんも明けてから暮れるまで、自分の食べることで精一杯だったんだと思いますよ。

2015-09-15 18:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦【山本】だいたい魚捕まえてくるんだって大変ですからねえ。どこにでも転がっているってもんでもないわけですから。 その忙しさっていうものは、現代人にはわからないんですよねえ。 【質】そうですねえ。そういうところは、盲点になっていますね。

2015-09-15 18:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧【山本】そうですよ、盲点なんですよ。 クルマはいけないから歩けって言いますけど、今の人は荷物をかついで歩けるかどうかっていうと疑間に思うんですよね。 20キロ背負って一日40キロ歩くっていうのは、非常に強壮な人間でも最大限度なんです。

2015-09-15 19:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨【山本】ですから、機械文明の恩恵を百%受けながら、自然的状態にいたいというのは、人間のもつ、一番の贅沢と言う訳ですねえ。 【質】機械とまでいかなくても、道具は必需品でしょうね。刃物はどうしました。 【山本】「ボロ」っていうカマとナタをかねたようなものを一丁持っているんです。

2015-09-15 19:38:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩【山本】しかし、これを使うっていう事は、大変な熟練がいるわけです。 これで肉も切るし、太い材木も切る。籐の皮をけずって結束するヒモも作る。家を建てるにも、これ一丁でやるわけです。 ところが、これが特殊な技術でしてね。 材木を切って、縄を作って、本の葉で屋根をふくわけです。

2015-09-15 20:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪【山本】それができない人間は雨が降っても立ってなきゃいけない(笑)。 【質】そういう事になりますね。 【山本】まあ、私達の部隊には農村出身も漁村出身も大工もいましたから、手先の技術を合せて、何とかできたわけですが、それは戦前の技術を持った人達であったからよかったわけで、(続

2015-09-15 20:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫続>現代の農村といったって、稲を刈って束ねるにしたって、機械で自動的にやってるわけでしょう、どのくらい自分でシュロの皮からナワをなえる人がいるか…。 【質】確かにそうですね。 それに、そういう所ですと、なかなか一人では生きられないっていうことがありますね。

2015-09-15 21:09:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬【山本】あの、横井さんのような人は特別ですね。 共同作業でないとできない仕事が沢山ありますからねえ。 材木を持ち上げるにしても二人ではできるけど、一人じゃできないし、それだとまず家が建ちません… ですから、共同生活というのは、むしろ生活のための手段なんですねえ。

2015-09-15 21:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭【質】そうすると現代の自然に戻りたいという欲望は他人に煩わされたくないから、一人になりたいという事なんですね。 【山本】ええ、そうです。 一人で住めるという事はあらゆる人間が何らかの形で、その人間をどこかで援助していると言っては変ですけど、生活を支えているわけですよね。

2015-09-15 22:09:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮【山本】山にカンヅメを持って行くっていうにしても、そのカンヅメを作る人がいるわけです。 つまり、今は社会的居候ができるというか、社会全体が居候を養っていける社会になったんでしょうけどね。

2015-09-15 22:38:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯【山本】さっき、ジャングルの中で米を食うに至るまでが大変だと言ったわけですけど、米にするそのモミ自体が、現地人の作った田から横取りしているんですよね(笑)

2015-09-15 23:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰【山本】私達にしたって、まだ本当の原始生活じゃないわけですねえ(笑)。 それすらできないとなると、そういう状態で、 はたして人間生きていく能力があるかどうか ということになりますね。

2015-09-15 23:38:53