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あまりに月が綺麗なのでちょっとごめんなさいな気持ちになった pic.twitter.com/PGIvHxAvnA
2015-09-27 21:46:32満月の夜、雲間から差した光に照らされてすぅっと透けて周りに月色の粒子が水泡のように煌めく。 「そっか……思い出した。僕、月から落っこちてきたんだ……」 「何だ、何を言っている?」 「今夜が最後だったみたいです。……お別れ、ですね」 「最後……?別れ……?」 「ごめんなさい」
2015-09-27 21:52:22夜闇に浮かぶ月に、まるで吸い込まれるように光の粒が昇っていく。もう向こう側が見えるほどに透過された少年を見ているしか出来ない。彼は淡く微笑んだ。 「帰らなくちゃ」 「……どこへ」 その問いには返さずただ宙を見つめる。 「でもね、僕はずっと側にいますから。ずっと、見ていますから」
2015-09-27 22:10:22そう言っている間にも姿はほとんど薄くなり、光の強さも増していく。だが、目を閉じることはしなかった。 「ふふ、よかった。最後に、繋がることができて、分かりあえて、すごく嬉しい」 いつの間にか虫の音は止んでいた。ただ彼の声だけが夜の静寂に凛と響き渡っていた。 「ね、歌ってください」
2015-09-27 22:24:44ねだる様な物言いだというのにこちらを振り向いた目があまりにも痛切で。わかったと告げて歌い始めれば満足そうに、幸せそうに微笑むから。 声はより大きく、うねるように広がり光の粒と混ざりあって彩りを変える。 「ありがとう……大好きです」 歌が終わりに近づくと姿を覆い隠す程の光が溢れた。
2015-09-27 22:37:54「ーー!!」 思わず名前を呼んで抱き寄せた。だが、そこにあるはずの柔らかい感触も温かいぬくもりも無く、ただ月色の輝きが名残のように煌めいていた。昇る光を追いかけて宙を仰げば月が淡く照らしている。どこからか声だけが残響のように降り注いでいた。 「夜が明ければ全て忘れているでしょう」
2015-09-27 22:46:06視界を焼いた光も嘘のように収まり、ぽつりぽつりと残された粒も消えていく。 「だけどね、また来年、こうして月が満ちた夜に……少しだけ思い出してくれたら、嬉しいな」 次第に遠くなっていく声。よっつ、みっつ、ふたつ……消える光。 「そうしたら、僕はきっと月の光になって会いに行くから」
2015-09-27 22:58:58最後のひとつが、ふわりと舞って唇の前ではじけた。 「姿が見えなくても、触れられなくても、きっと……」 溶けるように消えた声はもう聞こえない。何も無い空っぽの手のひらを月が照らしている。 ーーどれほどそうしていただろうか。ふと聞こえる虫の音に我に返った。月は雲に翳りもう見えない。
2015-09-27 23:06:44酷く空虚な思いを抱えて帰路につく。一歩進むごとに、時が過ぎるごとに、大事な物がこぼれ落ちていくのが分かる。どうあってもなくしたくはないもののはずなのに、自分では、止められない。どれだけ嫌だと叫ぼうと、もがこうと、無情なる忘却の波は全てを攫って去っていく。体温、感触、笑顔、声……。
2015-09-27 23:14:26「…………さん」 誰かに名を呼ばれたような気がして振り返る。だが、そこには誰もいない。白み始めた朝の空が遠くにあるばかりで辺りは異様なほど静かだ。 今しがた思わず口の端にかけた名は、一体誰のものだっただろうか。ひどく心が締め付けられるような、それでいて愛しい、この名は。 「総司」
2015-09-27 23:25:04「……ってなっちゃうかもしれないですか!だから土方さん今すぐ抱いてください!」 「何だそれは。いいから離れろ総司」 「むーっ、いいんですかー?明日になったら僕が消えちゃってるかも知れませんよ」 「そんな事にはならん」 「分からないじゃないですかぁ」 「……迎えに行くからな」
2015-09-27 23:40:34「……っ」 「俺なら記憶が消える前にその場で月まで行って、連れ帰る」 「…………」 「どうした? さっきまでの威勢はどこへ行った」 「……土方さんの、ばか」 「誰が馬鹿だ。お前が下らん話をするからだろう。そこまで言ったんだ。総司、今夜は寝られないと思えよ」 「もう……大好き」
2015-09-27 23:52:31