春の月 -桜×土方歳三-

綺羅さん(@kiraboshi219)による薄桜鬼の創作小説第11弾。 桜×○○シリーズ2作目。 最終回更新しました。 続きを読む
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🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「春の月-桜×土方歳三-」 第1回

2014-04-14 21:55:14
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

文机の隅に置かれた茶碗の中で揺らめくのは女の存在__。 土方歳三は、困惑していた。

2014-04-14 21:55:40
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

文久三年十一月、 小島鹿之助にあてた書簡の中で、島原、祇園、大坂新町などで慕われているとして女の名を書き連ねた。

2014-04-14 21:56:07
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

それは、京でもうまくやっているという戯言のようなものだった。 心配症な小島に、明るい話題を送ることで、 「トシも相変わらずだなぁ」と思わせられれば良かった。

2014-04-14 21:56:26
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

同年十二月の夜、 市中で羅刹を“始末”したその場に偶然居合わせた雪村千鶴と出会ってから、土方のこころには、いつも彼女が引っ掛かっていた。

2014-04-14 21:56:45
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

同じ故郷の空気を纏った女。 花街の着飾った女とあまりに違いすぎて、なんだか妙に意識してしまう。

2014-04-14 21:57:35
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

(一回り以上も離れた餓鬼っぽい少女に女を感じるなんざ、 鬼の副長が聞いて呆れる)

2014-04-14 21:58:05
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土方は書き損じた紙を丸め、屑かごに投げ入れようと構えた。

2014-04-14 21:58:30
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「……」 思い直して紙屑を開き、想いのままに筆を滑らせる。 豊玉の句には、春の月が多い__。

2014-04-14 21:58:53
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温かい春の日差しに誘われて、長閑な時間が流れていく。 斎藤の稽古を終え、一汗流した隊士たちがさっぱりした顔つきで大広間へと戻って行くのを横目に、 土方の部屋に現われた近藤勇は、どことなく元気がなかった。

2014-04-14 21:59:16
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「どうした、近藤さん。何か問題でもあったのか」 土方は即座に仕事を放棄して、近藤と向き合った。

2014-04-14 21:59:30
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「うむ……、実はな、トシ」 土方に促されて腰を下ろした近藤は、なかなか本題を言い出さず、 眉を顰めてはまた唸る。

2014-04-14 21:59:45
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「なんだよ、今更躊躇うことはねえだろう。 どうせ話すつもりで来たんだから」 金の無心か女の話か。 土方個人への相談といったら、そんなものが主だった。

2014-04-14 22:00:07
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

どちらも解決してみせるつもりの土方は、 近藤の二の句に少なからず驚いた。 「総司の、ことなんだが」 「総司?」

2014-04-14 22:00:30
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「最近、あまり構ってやれてなくてな。 きっと淋しい思いをしていると思って、たまには昼飯を外で食わないかと誘ってみたんだ」 「犬っころみたく尻尾を振ってついて来ると思ってたものが、 来なかったんだな?」

2014-04-14 22:01:20
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

近藤は恥ずかしげに頷き、頭をかいた。 沖田が敬愛している近藤の誘いを断るとは珍しいこともあるものだ。 土方も違和感を覚える。

2014-04-14 22:01:45
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「もしかしたら、いい人でもできたのかと思ったのだが、 それを聞くのも妙に気恥かしくてなあ」

2014-04-14 22:02:02
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

近藤の言いたいことはもうわかっている。 土方に真相を確かめてほしいのだ。

2014-04-14 22:02:19
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「子供の頃から成長を見守ってきた総司ゆえに、 そういうこととなると聞きにくいものだな。 俺は、総司の父親のような気持ちになったよ」

2014-04-14 22:02:52
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

近藤の見せる困り顔は、局長のものではなく、 試衛館で過ごしていた時のものに戻っていた。 気にかかるのは贔屓と言われても仕方がない。 近藤にとって沖田は可愛くないわけがないのだから。

2014-04-14 22:03:24
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

近藤は土方にこの件を託し、障子を開けて南中の太陽に目を細めた。 「トシ、桜が綺麗だなあ」

2014-04-14 22:04:17
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「花びらが舞ってきて、せっせと掃除している奴もいるぜ」 土方が指さす方向には、箒を持って風に舞う花びらと格闘中の雪村がいた。側にいる沖田が雪村をからかいながら、手を貸してやっている。

2014-04-14 22:04:32
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「彼女はいつも一生懸命だな。何事にも手を抜かない。 息抜きもさせてやらねばいかんな」 近藤の優しい目は、父親のような慈愛を感じさせる。 土方は近藤の言葉の中から、 雪村を連れ出してやってくれと頼まれたことも頭に入れることにした。

2014-04-14 22:04:57
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「総司は、いつからあんな風に哀しい目で笑うようになったんだろうか……」 「近藤さん?」

2014-04-14 22:05:16
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「いや、なんでもない。それじゃ、頼んだぞ。 もしいい話になりそうなら、全面的に応援しよう!」 「あ、ああ」 近藤の瞳に宿った一瞬の曇りに、土方は胸が締め付けられるような想いを抱いた。

2014-04-14 22:05:36
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