2014年9〜10月頃 狭間と彩雅

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--- @tune_sig89

彩雅】換気扇のごううという音が狭い空に向かって反響している。路地の、またそこから入り組んだ細道の間をのんびりと野良猫のように歩いている。見上げる空は快晴の青で口と耳を繋ぐチェーンがわずかに光る。

2015-10-06 13:59:48
--- @tune_sig89

彩雅】鼻をつくにおいは淀んで油臭い。さまざまな臭いが折り重なって喉の奥に絡みつく。もう少し開けた場所…たとえばこのまま歩いた先にぶつかる人通りのある道ならば少しは風も通って嗅覚に与える刺激も和らぐだろうか。

2015-10-06 14:05:29
--- @tune_sig89

彩雅】歩むスピードに変化なく、夏に比べ低い軌道をゆく太陽によって日中にもかかわらず広く濃い影を落とす細い道を進みゆく。その先は人が行き交う道だ。あちらは日が差してずいぶん明るい。

2015-10-06 14:10:31
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】街角の路地。どこかからほのかに、金木犀の淡い、あまい香りが漂ってくる。

2015-10-06 13:50:30
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】一気にすとんと、夏の気配の終わった街をぶらぶらと歩く。青緑のカットソーも、こころもち厚めの生地になった。都心のど真ん中とまではいわないが、この辺りは店も立ち並んで、気が向いたらそのあたりの店舗にふらりと踏み込める。半端な時間だが、人通りはすくなくない。

2015-10-06 13:55:24
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】ウエストバッグひとつの身軽な姿で、ただよった金木犀のありかはその辺に見えるかと、きょろりと周囲を見回してみる。

2015-10-06 13:57:28
狭間 駿 @c_yu_n

【2014年、秋。東京某所】

2015-10-06 13:58:00
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】(………、んん、) どこからの香りなのかは、結局よくわからない。ふたたび通りに目を戻し、人の流れに乗って歩きはじめる。

2015-10-06 14:05:03
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】夏が終わった。旅行にも行ったし、高認試験も無事受けて、これにはつつがなく合格した。情報屋の仕事は細々と続けているけれど、ひと頃のように派手な事件に巻き込まれるようなことも減った…ように思う。 (入試に向けても、) 頑張りたいところだけど、と、ぼんやり思いながら歩を進める。

2015-10-06 14:11:42
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】そういえばそろそろ、大学というのは文化祭の季節だろうか。遊びに来てみますか、と言ってもらったあの青年の大学の文化祭に、ハイジとか連れていけたらなあ、と考える。

2015-10-06 14:13:23
--- @tune_sig89

彩雅】「…」 視線を向けていたその空間に見知った顔が横切った。一目で全身を確認できるほどの数メートルは離れた距離で、ゆっくりと歩いていたようだが軽装の少年が見えたのは三秒もない。

2015-10-06 14:16:09
--- @tune_sig89

彩雅】表情の変化はなかっただろうと思いこちらに気付いた様子はなさそうだ、と眉も動かさず、野良猫のスピードから行く人の歩く速度に変化させて明るい路地へと姿を現す。

2015-10-06 14:20:56
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】「 、」 ふと立ち止まる。ショウウィンドウの前。全面ガラス張りの、視線より低い位置の台に設置されたディスプレイ。みるともなく漠然とながめてから、 (…あ、そういや、) ここはそう、半年…いや一年か。それくらい前に、小さな女の子と出会った場所だな、と思い浮かべる。朝登キイリ。

2015-10-06 14:16:09
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】(………、………、) ふとした思いがいろいろと脳裏をよぎるが、正直に表情に出すほどの揺らぎではない。ただ、ディスプレイを覗くようなかたちのまま、数秒ぶんその場に立ち止まる。

2015-10-06 14:18:53
--- @tune_sig89

彩雅】狭間駿が目の前にいる。顔には表れないが胸躍るような気持ちで真っ直ぐ彼の歩いた方向に足を向けた。丁度、大きなウィンドウディスプレイから顔を背け歩き出したところだった。その横顔に間違いない事を確認して、穏やかな人波の通りをまっすぐ歩いてみる。

2015-10-06 14:25:08
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】ディスプレイを見おろしていたかたちのそのまま、ゆっくりを足もとを撫でるように視線を滑らせる。進行方向に目を戻して、またゆっくり歩きだす。 高校の授業は、まだ終わる時間ではない。とくに急ぐこともなく、一歩ずつ歩く。

2015-10-06 14:26:14
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】人につけられているかもしれない、という警戒心は抱いていない。特段、まわりに気を張っているわけでもない。隻腕の和服青年あたりが見たら、ふぬけていると眉をしかめるだろうか。周りを歩くひとびとと、大差ない気の抜き方で『ふつう』に歩いて、進んでゆく。

2015-10-06 14:32:49
--- @tune_sig89

彩雅】水色の瞳で彼の特徴的な白い髪を捉える。行き交う人に遮られたり、彼が視線を向けた場所で同じように目を向けてみたりしながら距離を保ってかれの後をつけて見よう。特別異能を使うなり、身を隠そうともしない。

2015-10-06 14:33:12
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】しばらく後ろをふりかえることはない。ために、特徴的なピアスアクセサリーの、中性的なその人物に気付くことも、しばらくない。ただ、そろそろ歩いて疲れてきたから、このあたりの喫茶店にでも入ろうかなと考えはじめている。目を向ける店に、飲食店が多くなる。

2015-10-06 14:38:28
--- @tune_sig89

彩雅】喉の奥に絡みつく油っこい臭いはもうない。夜になれば肌寒く感じる風が心地よく吹き抜けて秋の香りを連れている。東京らしい人と排気ガスとコンクリートのにおいはいつも通りあった。

2015-10-06 14:40:20
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】それからふたたび、また別の、金木犀の香り。 「………、……、」 立ち止まって、それのただよってくる方向に鼻先を向ける。…香りに付随する感傷に浸って、一秒か二秒、その香りを目を瞑って深く吸い込んで、肩を竦める。目を開ける。竦めた肩を戻して、また歩きだそうとする。

2015-10-06 14:41:54
--- @tune_sig89

彩雅】そう言えば、最近このあたりに新しいカフェが出来ていたな、と考えていた。けれどその思考とは別に尾行は続けられる。ただ、歩みは人なみながら歩幅のせいもあって距離は少しずつだが縮まっているだろう。

2015-10-06 14:44:01
--- @tune_sig89

彩雅】「・・・」 立ち止まったのを見る。歩みは止めも緩めもしない。けれど彼が何をしていたのかも分からない。もし自分に気付くなり、もしくは何かを察知したのであれば興味深いと思うところだ。

2015-10-06 14:47:28
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】「……、」 悪意や、何か引っかかるような気配は感じない。ざわざわした心地はなにもない。最近は特に、そういう気配に鈍感になっているのかもしれないとも思うところ。ともかくも、なにも気付くことなく、また進行方向に向けて歩きはじめる。

2015-10-06 14:50:06
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