ニンジャスレイヤー二次創作【ソング・オブ・スターゲイザー】まとめ

篠原天佑。 @shinohara0714

◆リスタート◆テキストカラテメント行為◆ニンジャスレイヤー二次創作◆

篠原天佑。 @shinohara0714

「ドゥー、ドゥールドゥー……」スターゲイザーは、巨大な満月を見上げながら鼻歌を口ずさむ。彼は満月を好かぬ。特に今宵の如き大きく眩しい満月は。輝く天球の皓々たる明るさの前では、小さな星明かりなど容易く色褪せてしまう。彼は星を見上げるのが好きだ。見上げるならば星がよい。１

篠原天佑。 @shinohara0714

彼が歌うのは滅びた王国の古謡、電子戦争以前のレリック・ミュージックだ。それらを記録した電磁記録ディスクを持つ生者は今では数少なく、それを再生しうるミシカル・ドライブはさらに少ない。スターゲイザー、この禿頭の偉丈夫は、忘れられた彼方の国々の歌の最後の歌い手でもあった。２

篠原天佑。 @shinohara0714

【ソング・オブ・スターゲイザー】 （同人誌『ザ・ダークニンジャ・アンド・アザーズ』より）

篠原天佑。 @shinohara0714

常ならば鉛色の重い雲に覆われ、重金属酸性雨に煙る空は、今宵この時この刹那ばかりは、昏き天蓋を照らす蒼白の女神の支配下にあった。眠らない街、電脳とドラッグの海に揺蕩う〈夢見る都〉の煌めく尖塔群は、宙空に浮かぶ銀貨のような満月に照らされ、ネオンの街並みに巨人の如き影を落とす。３

篠原天佑。 @shinohara0714

ここはネオサイタマ。現代のソドムの市。痘痕面を分厚い白粉で塗り隠したエンシェント・オイランに喩えられる、悪徳と虚飾に満ちた日本の首都だ。４

篠原天佑。 @shinohara0714

カスミガセキ・ジグラット、０９２７２２１０。５

篠原天佑。 @shinohara0714

エンペラー不在の権力の象徴、日本の政治・経済……全ての権力の中心地、地上７００階の威容を誇る、死せる神々のパンテオン。その最上階の更に上、強化セラミック・カワラに覆われ、四方を黄金のシャチホコ・ガーゴイルに守護された屋上階にて、眼下の夜景には目もくれず、天を見上げるは一人の男。６

篠原天佑。 @shinohara0714

「ドゥー、ドゥールドゥー……」スターゲイザーは、巨大な満月を見上げながら鼻歌を口ずさむ。彼は満月を好かぬ。特に今宵の如き大きく眩しい満月は。月はいかにも地上に近すぎる。見上げるならば星がよい。彼方より、数億年前の光を弱々しく届ける星々は、好き嫌いは兎も角見上げるに値する。７

篠原天佑。 @shinohara0714

『何処より来たりて、何処にか去らん』……己に問うのはとうの昔に止めている。彼には分からぬ。帰りたいと希う場所はある。だが帰るべき場所かは分からぬ。ゆえに彼はただ見上げ続ける。見上げ続けるならば眩しすぎるのはうまくない。目を凝らし、目をすがめて探し求めるくらいが丁度よい。８

篠原天佑。 @shinohara0714

彼のオナタカミは既に準備を終えている。『１２人』の一人たる彼の目下の懸案事項は、ニチョームに拠った野良ニンジャどもだ。バイオニンジャはキュアのサブジュゲイターがカタをつけよう。だが他のニンジャ……ニチョームのヨージンボ、そしてあのシマナガシには彼と彼の配下が当たらねばならぬ。９

篠原天佑。 @shinohara0714

だがスターゲイザーは悩まない。本質的に、彼は敵を恐れない。極論すれば、彼ひとりおれば、この世のいかなる軍隊もセクトの首脳を悩ませることはない。彼は死なぬ。殺せぬ。如何に胡乱なニンジャのジツであろうが、彼を殺すことは不可能だ。そして彼自身にも。彼は自分で自分を殺すこともできぬ。１０

篠原天佑。 @shinohara0714

彼が身に纏うプロテクターからは、光ファイバーめいた蛍光色のチューブが伸び、あたかも死に瀕したミソサザイの心臓の鼓動めいて、緩慢に脈打ちながら絶えず触媒物質を四肢と頸動脈に送り込んでいる。それは恒久不変の循環システム。スターゲイザー自身にも止める事の出来ぬシステムだ。１１

篠原天佑。 @shinohara0714

己が己以外のものに……半ば崇拝し、半ば憎悪する、不可知の大いなるシステムに生かされる違和感は、既に彼が忘れて久しい感覚だ。だが、じきに全ての人間が……ニンジャであろうとモータルであろうと些かの差異もなく……すべての人間が彼と同じものになる。システムが等しく彼らを生かすのだ。１２

篠原天佑。 @shinohara0714

アマクダリ・セクトは統治する。モータルもニンジャも区別なく、百万の血肉とソウルを吸い上げて、オイルと電子流の代わりに循環させる機械仕掛けの無貌の神だ。彼ら『１２人』も、所詮は無貌の神の面を覆う無限数の仮面の幾つかに過ぎぬ。彼らのうちの幾人が、その真実に思い至っていることか。１３

篠原天佑。 @shinohara0714

「ははは」スターゲイザーの唇から、束の間愉しげな笑いが漏れた。「まわれまわれ、運命の車輪。何もかも圧し潰し巻き込んで、地上を等しく平らにならせ」そして初めて眼下の夜景に目を落とした。「平らにならせ……」メンポの下の唇に笑み。瞳には光。高き天の座から下界を見下ろす酷薄な光。１４

篠原天佑。 @shinohara0714

その時。小さな踵が強化セラミック・カワラを鳴らし、不死の男の注意を惹いた。「相も変わらず酔狂なこと」「まだブリーフィングがいるかね、ＣＥＯ殿？」アイサツは先刻の戦略会議の折に済ませている。ゴシック喪服ドレスの白髪の少女、『１２人』の一人。恐るべきキュアがやってきたのだ。１５

篠原天佑。 @shinohara0714

「二週間後にニチョームは燃え落ちる。俺とお前で燃やして落とす。いまさら異議でも？」スターゲイザーはゆったりとした動作でキュアを振り返った。「それについては些かも」「まあ、なかろうな」然り。少なくともオペレーションに関して、イクサに関してエゴが連携を阻害することはあり得ない。１６

篠原天佑。 @shinohara0714

「わからんでもない」肩を竦めて、スターゲイザー。「イクサのあとの話かな？」「然り、然り」微笑するはキュア。「我らの輝かしき未来について。弊社と御社の提携の根底にあるのは信頼です。叶うならば、イクサのあともそれが続くことが望ましい」「恐ろしいな。流石はキュア。流石はヨロシサン」１７

篠原天佑。 @shinohara0714

少女そのものの姿をしたヨロシ・バイオサイバネティカ社ＣＥＯは、少女そのものの笑みを浮かべたまま僅かに声に不機嫌さを滲ませた。「はぐらかされたくはないわ」キュアがペイシェントなる奴隷ニンジャを連れずに歩くのはちょっとした椿事だ。アトモスフィアの違いは殊更指摘するまでもない。１８

篠原天佑。 @shinohara0714

「アルゴスの目は欺けなくてよ？ましてやこんな月の綺麗な夜には」優雅に指差すキュアの仕草に、スターゲイザーは再び天から地上を睥睨する眠らざる目を見上げた。「はぐらかすつもりも無し」アルゴスの目は誰の上にも等しく注がれている。誰の上にも。「ただ、そう、言葉を選んでいる」１９

篠原天佑。 @shinohara0714

「真実を覆い隠す言葉を？」「否。相互理解のための言葉を」「私には理解は難しいと？ヨロシサンには？地上の人間には？難しいと？」「そう責めてくれるな」流石に閉口したようにキュアを見下ろす。人の世を永らえんとするもの。それは人の欲から生み落されたものに過ぎないが、それだけに侮れぬ。２０

篠原天佑。 @shinohara0714

少女の姿をしたそれは、信じられぬほど年ふりた瞳で不死者を見上げている。ただ生きた年月の嵩を較べるのであれば、あるいはスターゲイザーすら凌駕するかも知れぬ女。積み重ねた歳月と不釣り合いの姿形は、そのまま人の欲のかたちに等しい。永遠の生、永遠の若さへの執着。恒久不変性への執着だ。２１

篠原天佑。 @shinohara0714

「一体どれほどの大イクサならば、あなたの不死の秘密の一端を垣間見ることができるのかしら」ああ、そうか。やはり。ならば。キュアが欲するのは、ヨロシサンが欲するのは、永劫不変の生命に至る秘密だ。ニチョームのイクサの首尾によっては、提携の代償にそれを望むのか。強欲もここに極まれり。２２

篠原天佑。 @shinohara0714

だがそれでもなお、本質的に、それは彼自身と同じものだ。それはどちらも、人のわざに連なるものだ。モータルのテックと、ニンジャのジツのハイブリッドだ。たとえ一方は地にあり人の手に握られ、一方は高みにあって既に失われているとしても。ゆえにスターゲイザーはその醜さを厭う気にはならぬ。２３