伏木悦郎が語るマツダ・SKYACTIV誕生の経緯

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伏木悦郎 @fushikietsuro

こんにちは、伏木悦郎です! 自動車のフリーライターを長いことやってきました。時代が大きく転換することが明らかになった今、クルマで語れる未来をつぶやこうと思います。

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伏木悦郎 @fushikietsuro

BOSCHの創業者ロバート・ボッシュは「信頼を失うくらいならむしろお金を失ったほうがいい」という言葉を遺した。この信念は現在のボッシュグループに引き継がれ行動規範になっているという。BOSCHはVWに開発目的で不正ソフトを供出したが、不正使用の決断はVW。お金のために信頼を失った

2015-10-12 14:07:36
伏木悦郎 @fushikietsuro

日本でディーゼルによる環境汚染問題が取り上げられたきっかけは石原慎太郎元東京都知事による『東京都ディーゼルNO作戦』(1999年)。ペットボトルの黒い煤を振ったパフォーマンスに日本中がディーゼルアレルギーに陥った。元都知事は旧運輸大臣経験者。内情は承知の上で政治的に動いたといえる

2015-10-12 14:14:21
伏木悦郎 @fushikietsuro

ディーゼルNO作戦は、改善されない東京都心部の大気汚染状況に業を煮やした都の環境規制当局者によって練られたもので、戦後の産業振興政策から優遇され続けたトラック/バスをターゲットにしたもの。RV(今で言うSUV)や東北北海道の一部を除いてディーゼル乗用車はメジャーとはいえなかった

2015-10-12 14:20:18
伏木悦郎 @fushikietsuro

しかし元知事が発したメッセージは、さすが閣僚経験のある政治家らしいパフォーマンスによって日本中をディーゼルアレルギームードに一変させた。この報道を受けた私の疑念は、ディーゼルNO作戦は技術の問題なのか政治の問題なのか経済が関わるのか純粋な環境問題なのか。それを探るべく取材を始めた

2015-10-12 14:26:02
伏木悦郎 @fushikietsuro

当時私はCSTVにレギュラーの自動車番組を持っていたので、それをベースに自動車専門誌を合わせて関係省庁、団体、企業を集中取材した。運輸省(当時以下同)、通産省、資源エネルギー庁、環境庁、東京都、石油連盟、いすゞ自動車。浮かび上がった現実は思った以上に幅広いものだった。

2015-10-12 14:31:26
伏木悦郎 @fushikietsuro

当時問題視されたのは、産業優遇や公共交通機関に供される社会的な側面から規制強化が進まなかった大型トラック/バスを中心とするディーゼルが撒き散らすNOxやPM(ディーゼルパティキュレートマター:微細な粒子状物質)。東京などの大都市部では深刻な健康被害を及ぼすことが指摘されていた

2015-10-12 14:36:38
伏木悦郎 @fushikietsuro

問題の根はどこにあるのか?産業優先、公共性からディーゼルの規制が緩かったのは事実で、石原都政が掲げたディーゼルNOは国レベルの行政のあり方に疑問を投げかけるものでもあった。技術の問題としては大型トラック/バスメーカーも環境問題には無関心ではなく、研究開発は進められていた

2015-10-12 14:40:43
伏木悦郎 @fushikietsuro

最新のディーゼルエンジンがこれによって劇的に変わったといわれる技術にコモンレールという燃料噴射システムがある。1000バール以上の高圧に高められた各気筒共通(コモン)のパイプ(レール)燃料の軽油を蓄え、電子制御で6~7回に渡って噴射時間/時期をコントロールして噴く画期的な技術だ

2015-10-12 14:48:31
伏木悦郎 @fushikietsuro

このコモンレール燃料噴射システムを世界で最初に実用化したのは日本のデンソーで1995年のことだった。エンジン呼称にその名を残すルドルフ・ディーゼルのイメージから何となくドイツのBOSCHかな?と思った向きもあろうが、トヨタグループ系列の日野や三菱のトラックに採用されたのが最初だ

2015-10-12 14:57:39
伏木悦郎 @fushikietsuro

コモンレール誕生の経緯を私が知ったのは後のことで、ディーゼルといえばいすゞということで当時オーソリティといわれたエンジニア出身の常務を紹介され取材した。誠実な人柄だったが、曰く「技術開発には莫大な投資が掛かる。それに対するご褒美(インセンティブ)がないと、なかなか進められない」

2015-10-12 15:02:32
伏木悦郎 @fushikietsuro

コモンレールによる燃料の微細化と噴射タイミング/量・時間の制御と燃焼室/ピストン形状などによりエンジン内での浄化は進んだが、効率良く希薄燃焼させると空気中の窒素が酸化してNOxを増大させ、その抑制のため空気量を減らすと燃料が蒸し焼きになって煤(PM)が発生する。後処理が必要になる

2015-10-12 15:10:22
伏木悦郎 @fushikietsuro

当時は連続再生型DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)やNOx吸蔵還元型触媒が日本のイビデンなどによって開発されていて、技術的には前進の方向だったがその採用に関わるコスト増を税制などの優遇措置でフォローされないと企業活動としては難しい。さらにNOx触媒の特性が問題になる

2015-10-12 15:22:49
伏木悦郎 @fushikietsuro

NOx触媒に使われる貴金属(主にプラチナ)は硫黄被毒による劣化が懸念され、軽油に含まれる硫黄分の除去が不可欠となる。石油連盟や資源エネルギー庁を取材すると、当時の日本の軽油は500ppm(ppmは百万分の一分率)以上あった。後処理装置が有効に働くには10ppm以下が望ましいという

2015-10-12 15:29:07
伏木悦郎 @fushikietsuro

私が石油連盟に取材した当時(2001年頃)の段階では確か10分の1の50ppmあたりに削減されていた(と思う)。すでに世界でも上位のクリーン度合で、業界では3000億円の投資を掛けてみり、今後同程度のコストを掛けて10ppmに持っていくと説明された。現在は10ppmとなっている

2015-10-12 15:42:21
伏木悦郎 @fushikietsuro

結果としてのクリーンディーゼル対応可能な状況にあるわけで、石原元都知事の功績として認めていい。そもそも日本が輸入する大半が硫黄分の多い中東産原油で、ガソリン/軽油を問わず脱硫にはコストが掛かる。石原都政がディーゼル普及抑制と推進を演出した。政治は結果責任。見事な貢献と言えまいか

2015-10-12 15:52:13
伏木悦郎 @fushikietsuro

石原都政のディーゼルNO作戦によって蔓延したアレルギーによって今世紀初頭の日本に環境技術としてのディーゼルブームは生まれなかった。一方欧州では地球温暖化が技術的関心の上位を占め、二酸化炭素CO2の抑制が環境問題の中心を成すようになった。1997年のCOP3の京都プロトコルが源流だ

2015-10-12 15:58:19
伏木悦郎 @fushikietsuro

欧州では食糧自給率100%超のフランスのように農業大国という環境から農業に使われるディーゼル機器に慣れ親しむ文化的土壌があり、副燃焼室時代からも一定のシェアを占めていた。同様に農業王国の北海道でもJAによる軽油一括購入で農耕トラクターと同じ安価な軽油で走るクルマのシェアは存在した

2015-10-12 16:07:01
伏木悦郎 @fushikietsuro

ディーゼルNO作戦は日本にもあった乗用車需要を霧消させたが、欧州ではボッシュによるコモンレールディーゼル普及が進み、その経済性はもちろんだが何よりもスポーティで走らせて楽しい性能がEU全体で小型車の50%を占めるまでの人気を博した。

2015-10-12 16:12:05
伏木悦郎 @fushikietsuro

『クリーンディーゼル』は、環境性能については疑念も指摘されたがCO2=燃費低減はユーザーメリットとして歓迎された。ブームが喧伝されるようになった2005年以降、モーターショー取材などの折りに現地で欧州/日本のディーゼルモデルを試した。私なりの結論はブームの源泉は走りの良さに尽きた

2015-10-12 16:15:37
伏木悦郎 @fushikietsuro

コモンディーゼルターボは本来の高トルク特性に加え、懸念材料だったNVH(振動騒音粗さ)が抑えられ、走行中は現在のガソリンエンジンと見分けがつかない。アイドリングや遮音不足が気になる例もあったが、スポーティで燃費がいい素性の良さは交通の流れが速い欧州でもてはやされる主因と理解できた

2015-10-12 16:21:51
伏木悦郎 @fushikietsuro

欧州ではディーゼルが不可欠。日本各社も開発に乗り出したが、EURO5はまだしもEURO6には有効な技術基解決策を見出せずにいた。ホンダの2.2ℓ i-DTEC搭載のアコード/シビック、EE20ボクサーディーゼルのレガシィ、スカイ以前のアテンザ2.2ℓとPSA1.6ℓ搭載のアクセラ

2015-10-12 16:37:34
伏木悦郎 @fushikietsuro

乗れば納得の出来ばえで、オーバーサイズの2.2ℓ i-DTECが与えられたシビックCDiは2ℓ201psの同typeRより実用的でスポーティだった。印象的だったのは他に先んじてEURO6対応を果たしたアベンシス。DPNR(ディーゼルパティキュレートNOx低減)触媒の効果に注目した

2015-10-12 16:48:20
伏木悦郎 @fushikietsuro

たしかEURO5のレガシィEE20とコンボイしたと記憶するが、同じワゴンスタイルのアベンシスは11km/ℓ台とレガシィの30%落ちに終わりがっかりした。NOxの還元のために燃料を噴くためで環境対応には優しいが、燃費は直接ユーザーメリットに繋がる。今にして思えば正しさが分かるのだが

2015-10-12 16:55:23
伏木悦郎 @fushikietsuro

欧州でことあるごとにディーゼルモデルを試したのは2005~2009年頃だったろうか。魅力は肌で感じていたので、輸入各社に「日本市場での普及を考えるのなら得意技で勝負するべき」と進言した。日本ではまだアレルギーが強いとみる各社マーケティング部門の反応は鈍く、波はやってこなかった

2015-10-12 17:08:14