菌(きん)の語源にまつわるあれこれ

自分で投稿した分のまとめ。つげったーのテストをかねて。
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Y Tambe @y_tambe

「ばいきん」は漢字で「黴菌」。「黴」は訓読みで「かび」。「菌」は「くさびら」と読み、元々はキノコのことを指す。「茸」と同じ。

2011-01-12 10:17:42
Y Tambe @y_tambe

「菌/くさびら」は、古くは「くさひら」と呼ばれた。「草片」、つまり草(植物)に近い仲間だと考えられていた。だから「菌」の字にはくさかんむりが付いてる。この辺りは、西洋でもキノコがかつて植物に分類されていたのと同じで、洋の東西を問わない発想。

2011-01-12 10:21:14
Y Tambe @y_tambe

あくまで個人的な想像だけど、ひょっとしたら昔は、地面から生えるのを「草片/くさひら」、木から生えるのを「木ノ子/きのこ」とか呼んで区別してて、菌/茸は、それぞれに当てていた漢字なのかもしれない、とか思ってたり。

2011-01-12 10:24:21
Y Tambe @y_tambe

滋賀県に「菌(くさびら)神社」という神社がある。これは昔、飢饉があったときに、この神社の地に、一夜のうちに沢山の「くさびら」が生えて、人々を飢えから救った、という故事にちなむ。小さな神社だが、微生物(特に菌類)に関わりがある神社として、造酒メーカーなどがお参りするという。

2011-01-12 10:27:32
Y Tambe @y_tambe

狂言にも「くさびら(菌/茸)」という演目がある。山伏狂言と呼ばれるものの一つ。気味の悪い茸が生えたので山伏が調伏しようとするのだが、どんどん増えて、しまいには襲いかかってきたので山伏が逃げ出す話。

2011-01-12 10:35:23
Y Tambe @y_tambe

一方、カビの語源については、「醸す(かもす)」が転訛してきたという説が比較的有力だが、古事記にある「葦牙(あしかび)」から来たという説もあり、よく判ってないようだ。葦牙は葦の芽吹きを意味し、「(枝葉が分化した)植物らしさを持たない」点では、カビの持つイメージに通じる。

2011-01-12 10:45:26
Y Tambe @y_tambe

なので、まぁ今日的には、「黴」も「菌」も、どちらも菌類(特に真菌)を指すと言えるのだが…実は、この「菌」の扱いがちょっとややこしい。

2011-01-12 10:49:57
Y Tambe @y_tambe

日本語での漢字表記の話ではあるのだが、その背景には、西洋の生物分類学における流れも絡んでくる。もともと西洋では、すべての生物は「動物」「植物」に分けられるという、二界説から始まり、やがて三界説、四界説と増え、五界説で「ある程度の落ち着き」を見せた、というのは周知の通り。

2011-01-12 10:53:48
Y Tambe @y_tambe

五界説以降の、六界説、八界説、三ドメイン説は、ここでは本題から外れるので略。

2011-01-12 10:56:12
Y Tambe @y_tambe

二界説以降の分類の変遷は、主に原生生物、菌類、細菌などの、いわゆる「微生物」をどう分類していくか、の変遷とも言える。

2011-01-12 11:01:11
Y Tambe @y_tambe

これらの分類学上の変遷に伴い、日本での訳語も変遷していった。微生物のうち、運動性があり、動物的な要素が特に強いものには「原虫」の名があてられた。

2011-01-12 11:04:52
Y Tambe @y_tambe

そして、残りの「植物的な」微生物の名称として「菌(きん)」が用いられるようになった。「茸・黴・菌」という語のうち、茸は大きな子実体をつくる「きのこ」、黴は糸状菌である「かび」、そしてそれ以外のもっと小さな、単細胞生物まで含むものが「菌」とされた。

2011-01-12 11:08:23
Y Tambe @y_tambe

なお「植物的な」微生物の中でも、実際に光合成を行うもの(藍藻など)は、藻類の一種として、植物に分類されたわけだが、これはちょっと余談。

2011-01-12 11:09:49
Y Tambe @y_tambe

当初「菌」とされたのは、主に真菌類。真菌類には、生活相において単細胞の状態を取りうるものがあり、これがいわゆる「酵母」。酵母は、特定の菌種を指したものではなく、菌類の「状態」の名前(ただし一般には通例、Saccharomyces cerevisiaeを意味する場合も多いが)

2011-01-12 11:13:24
Y Tambe @y_tambe

おそらく、「茸」「黴」以外に、微生物に関わる漢字として存在した「菌」が、キノコやカビに近縁の、植物的な微生物を意味する用語に採用されたのだろう。

2011-01-12 11:14:38
Y Tambe @y_tambe

さらに時代が進み、単細胞の原核生物であるバクテリア(モネラ)が、酵母とは大きく異なる生物であることが認識されるようになった。そこで、これらを「菌」から区別する必要が出てきた。このとき、バクテリアが酵母などより遥かに小さいことから「細菌」という名が用いられるようになった。

2011-01-12 11:18:00
Y Tambe @y_tambe

ただし、当初はやはり「『細菌』とは言っても、大きくひっくるめたら『菌』の仲間」という認識の方が強かった。このため、さまざまな「細菌」の和名には「○○細菌」ではなく「○○菌」が採用された…大腸菌とか、ブドウ球菌とか。これがまた混乱に拍車をかけることに。

2011-01-12 11:21:58
Y Tambe @y_tambe

現在、「一般的な文脈」でなく、生物学的な文脈において「○○菌」という個別の和名が出てきた場合、それは概ね、細菌の仲間であることが非常に多いです。

2011-01-12 11:26:09
Y Tambe @y_tambe

(承前)…というより、純粋に生物学的な文脈だったら、ほぼ細菌だと思っていい。そして、現在「細菌」は、いわゆる菌類とは大きく異なる生物であることが判明してるので、「○○菌」という個別の和名があるものは、菌類ではなく、細菌であるという、ややこしいことになってる。

2011-01-12 11:28:17
Y Tambe @y_tambe

(承前)…というより、純粋に生物学的な文脈だったら、ほぼ細菌だと思っていい。そして、現在「細菌」は、いわゆる菌類とは大きく異なる生物であることが判明してるので、「○○菌」という個別の和名があるものは、菌類ではなく、細菌であるという、ややこしいことになってる。

2011-01-12 11:28:17
Y Tambe @y_tambe

しかも、そもそも「酵母菌」という和名の生物はいませんからね。俗称にすぎないです。 "@ALC_V センター試験的文脈だと酵母菌以外全部細菌です。 "

2011-01-12 11:30:56
Y Tambe @y_tambe

古い文献などでは、「シイタケ菌」「マツタケ菌」などの表記をしてるケースは結構見かけた記憶があります。キノコの子実体「以外」の意味を強めるために、今も使っているケースがまれにあったように思います。

2011-01-12 11:34:47