ケンペイ天狗「ラッキーストライク・フロム・ハデス」

アナ・イゴール @KNPITNG

◆忍殺風艦これ二次創作「ケンペイ天狗」◆　 togetter.com/li/679544 　#ケンペイ天狗 （実況・感想用タグは #knpitng をご利用下さい。)

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「しれぇ！やりましたね！」「俺はラッキーだからよ」パワリオワー！公園にファンファーレが鳴り響く。テラミチは蛍光色に明滅する自動販売機からケモラムネを２本取り出すと、うち１本を小動物めいた少女に投げ渡した。『当たり倍点！もう一本！』自動販売機は叫び続ける。01　#ケンペイ天狗

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「しれぇ！やりましたね！」「まあ、俺はラッキーだからよ……」テラミチは狂ったようにアルミ玉を吐き出し続けるパチンコ台の前で、動揺を抑えるために煙草を吸った。隣では子供用椅子に座った少女が小動物めいて目を輝かせながら、けたたましく光るパチンコ台を眺めている。02 　#ケンペイ天狗

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「しれぇ！やりましたね！」「ああ、お、俺はラッキーだからよ……」テラミチは震える手を抑えながら己のクジに書かれた番号と、壁に掲げられた番号を見比べた。「ジャックポット……」1000万クレジットの大当たりだ。『頑張れば当たる』、クジに書かれた標語が妙に空しい。03 　#ケンペイ天狗

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「しれぇ！助けて！」「……」テラミチは状況を整理する。そう、俺はデッカーで。いや、デッカーをクビになった無職の浮浪者で。深海棲艦の遺骸拾いで生計を立てたら突然現れたこいつに出会って。それから何もかも上手く行きだして―――、そして、突然海軍が目の前に現れたんだ。04 #ケンペイ天狗

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「そいつは死神だよ、君。おとなしく引き渡したまえ」眼帯の艦娘に護衛された白服の男は、穏やかな笑みを浮かべながら少女に手を伸ばした。その方がこの少女も幸せか、テラミチは一瞬考える。「しれぇ！この人、怖いです！」しかし、少女はテラミチのブルゾンを両手で強く掴む。05 　#ケンペイ天狗

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「ああ、俺はラッキーだからよ。」瞬間、テラミチは腰のホルスターから違法デッカーガンを抜き放ち、躊躇なく２発提督へ発砲した。「お前のことも守ってやるよ」しかしそのコンマ２秒後、銃弾は護衛艦娘の刀に叩き落とされ、鬼の形相となった提督はテラミチ殺害の指示を叫ぶ。06 　#ケンペイ天狗

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（（（俺はラッキーだからよ、当たりゃしねえさ）））テラミチは自分の頬を掠めた機銃弾をどこか他人事のように見送りながら、少女の手を掴むと転げるように走りだす。（（（だが、どうしてこうなった？）））彼は自問と共にソーマト・リコールめいて今日一日を振り返り始めた。07 #ケンペイ天狗

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【ラッキー・ストライク・フロム・ハデス＃１】 #ケンペイ天狗

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汚染された黒い砂浜、ヨコハマベイサイド。そこは工場排水による重金属汚染だけでなく、海流の関係で深海棲艦の残骸が大量に流れ着く危険地帯だ。「ウープス！」背中に狼が描かれたブルゾンを着た一人の浮浪者が、立ち込める悪臭に耐えながら黒く染まった深海棲艦の遺骸を漁る。08 #ケンペイ天狗

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名をテラミチというその浮浪者は、噛みあわせの悪い左顎をゴリゴリと鳴らしながら駆逐イ級の機銃をダガーで剥がし取った。深海棲艦の残骸は高価だ、モーテル代一週間分にはなるだろうか。「俺はラッキーだからよ」テラミチは誰ともなく呟く。それは元デッカーとは思えぬ惨状だ。09 #ケンペイ天狗

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デッカーをクビになってから３週間。テラミチの生活は急激に悪化していた。懲戒免職により全財産をネオヨコスカ州警察に差し押さえられたからだ。寮（訳注：会社の一部を居住空間として社員に貸し出し業務時間の延長を図る日本独特の習慣）の家財を持ち出せなかったのも痛恨だ。10 #ケンペイ天狗

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彼がデッカーをクビになった理由はなんてことはない。海軍に逆らったからだ。３週間前、アイスにモナカ、そしてヒシモチと、脱法・違法薬物揃いのドラッグパーティにガサ入れした彼は、パーティの主催者が海軍提督であることを知らず、そして知っても態度を変えなかった。11 #ケンペイ天狗

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正義感の代償は高くついた。薬物汚職提督を捕縛し意気揚々とネオヨコスカ州警本部に凱旋した彼を待っていたのは、署長からの怒号と左顎の形が変わるほどの懲戒暴力だった。そして次の日には、ドラッグパーティの主催者はテラミチだったということに州警記録が改竄されていたのだ。12 #ケンペイ天狗

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なんたる暗黒癒着！正義はどこに？セプクを要求されたテラミチはやむをえず署長の額をデッカーガンで撃ち抜き、唖然とする取り巻き汚職マッポ３人をケイボーカラテで不可抗力殴殺。しかるのち押収品倉庫の爆薬に放火し、爆破の混乱に乗じヨコハマまで逃げ延びたのだ。奇跡的幸運！13 #ケンペイ天狗

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テラミチに頼れる相手はいない。弟は彼がデッカーをクビになった途端に連絡がつかなくなったし、母親は10年前に妹を殺した間男とまとめて、彼自身の手でプリズンに叩き込んだからだ。しかし再就職するにも彼は警察に負われる身。たった３週間でこのザマだ。14 #ケンペイ天狗

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「ゲッ」機銃を剥ぎとり終えた断面から、血とも重油ともつかぬ体液が流れ出て、テラミチの手に流れ落ちた。赤黒い体液はゴム手袋を容易く溶かし、塩分濃度3.4％の塩水に変える。「ウープス！」肌に触れた体液のゾッとする感覚にテラミチは思わず身を引いた。幸い、手は無事だ。15 #ケンペイ天狗

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「危ね……」テラミチは周囲を見回す。深海遺骸漁りをするカネ目当ての浮浪者の数は多くない。命懸けの大博打だからだ。提督としての先天的資質、深海棲艦を浄化する力を持たない者にとって、深海体液は心身を汚染する有害物質なのだ。深海遺骸が高く売れる理由でもある。 16 #ケンペイ天狗

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「ア……、アッ、アバーッ！」深海汚染に耐え切れなくなった浮浪者の一人が発狂し、赤い海に頭から飛び込む。テラミチは顔を歪めた。死体は浮いてこない。当然だ、深海棲艦に汚染されて死んだ者は、海色に溶けて赤く海の一部となり果てるのだ。今はもう無い関東平野と同じように。17 #ケンペイ天狗

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「ナムアミダブツ……」テラミチは先ほど深海体液がかかった自身の手を改めて見ると、ベルトに括りつけたウォトカで消毒した。変異は無い。「ま、俺はラッキーだからよ」テラミチは己の幸運とブッダに投げやりに感謝を捧げると、残りの艤装も剥がすべく駆逐イ級の残骸に目を戻す。18 #ケンペイ天狗

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しかし、いかなる事態であろうか、そこには駆逐イ級の残骸は無かった。「アイエッ！？」たった十秒前まではそこにあったはず。まさか生きていたのか？テラミチの背筋を冷たい恐怖が走り抜ける。もし機銃を剥がしたことで起きたならば、数秒と経たず自分の命を狙いに――― 19 #ケンペイ天狗

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「しれぇは幸運艦なんですか？雪風と同じですね！」その声は背後からだった。全く足音も、気配すら無かった。「アイエエエ！」深海棲艦には銃より近接武器！テラミチはデッカー時代の感覚を総動員し太腿のホルスターからケイボー抜き放つと振り返る！20 #ケンペイ天狗

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しかし、そこに立っていたのは深海棲艦などではなく、「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です！」白い水兵服に身を包んだ少女だった。「は……？」「しれぇ、宜しくお願い致しますっ！」「聞きたいことはあるが、まず訂正させろ」テラミチは呻いた。「俺は、幸運”艦”でも司令でもねえ」21 #ケンペイ天狗

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「？」少女は一度だけクビを傾げると、テラミチの手を強引に握る。「しれぇは、しれぇですよ？よろしくお願いします！」また、トラブルか。「俺は……ラッキーだからよ……」テラミチは口癖となった自分の運命を呪う台詞を吐くと、諦めたようにその手を握り返した。 22 #ケンペイ天狗

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（【ラッキー・ストライク・フロム・ハデス】＃１おわり、＃２に続く）