現代的なイデアルの定式化もデデキント切断も考えたのは同じデデキントで、背景にある洞察は同じなんですよね。内包を外延で転換するという。「ある数で割れる」という順序で完備化したものが素イデアルの空間である、と乱暴に言う事もできる。
2015-10-22 02:30:05※誤って消してしまいましたが、「素イデアルの空間」ではなく「イデアルの空間」とするのが正しいです。(by mr_konn)
イデアルの考え方の本質的な転換点は、数nと「nの倍数数全体」を同一視して見せることで、さらに「何らかの倍数全体になっていそうな集合」として新たな数を導入して見せた事にある。同様に、デデキント切断も、ある数nと「それより下の数全体」を同一視して見せたものだ。
2015-10-22 02:34:51切断の場合は下だけじゃなくて上も含むけど、これは実数の構成において最大元や最小元がつけ加わっては困るというある種ad-hocな要請によるもので、空集合や環全体を通常イデアルと見なさないのと同じことだ。
2015-10-22 02:36:23これらは決して単なるアナロジーではない。デデキント切断の概念を少し手直しして半順序集合に一般化すれば順序論におけるイデアルの概念が得られ、それはブール代数/ブール環に完備化すれば通常の可換環のイデアルと一致する。
2015-10-22 02:40:10だから、数学一般について、デデキント切断が実数の構成法にしか使えないのかというと、そんなことはなくて寧ろ本質的に同じ概念が至る所で使われているとも言える。
2015-10-22 02:45:20それはなぜかと言えば、両方とも性質とその外延の同一視という、カントール-デデキント集合論の登場によって初めて可能になった強力な考え方が両者の根源にあるからというわけです
2015-10-22 02:47:02この辺りの話、順序論をある程度やったことがあって、初歩の代数学を齧ったことがある人であればだいたいわかってることなんだと思うんだけど、いかんせん順序論って集合論とかのロジックか、せいぜいジェネトポの人くらいしか詳しくやらないし、ちゃんと関係を述べてる文献も見たことないんだよなあ
2015-10-22 03:01:33モデル理論より補足
モデル理論をやったことのある界隈には有名な話ですが、
- 代数閉体k上の1変数多項式環のスペクトラム
- 自己稠密な線形順序集合Lのデデキント完備化
はともに、(それぞれk,Lというモデルの)1-typeの空間の構成として捉えることができます。ただし、位相の入り方はZariski位相や順序位相より細かいものになっています。この空間の構成は“論理式集合を一つの元と見なす”という構成になっていて、任意のモデルに対して行えます。したがって、(mr_konnさんが言うところの)「性質とその外延の同一視」をロジックの立場から捉え直したものだと言えるでしょう。
参考文献
David Marker, Model Theory: An Introduction (Springer), Chapter 4.