空想の街・ハンツピィの宴2015 1日目

twitter上の創作企画「空想の街」のまとめです。 漏れや不備等あれば公式までご連絡ください。 編集可能にしてありますが、手動による編集を入れていますので時間順ボタンはご遠慮ください。
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佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

傷の回復には時間がかかった。痛み止めの薬が何度も打たれ、吸引することもあって、頭がぼんやりした。 夜眠ろうと努力した。努力しないと、男に襲われた時の恐怖や痛み、燃えさかる家から命からがら本を一冊だけ守った記憶で心が打ち震えた。勝手に涙が眦からこぼれ落ちた。#作家と女房 #空想の街

2015-10-25 16:30:18
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

生まれてしまうことを止められない。それ以上に生まれる環境は選べない。 女は本を愛していた。一番は作家の綴る物語だった。だけど自由に本を選べない国で、読むことが咎められる国で、一番読みたい本は国一番の悪だった。 女房は悔しくて泣いた。作家に会いたくて泣いた。#作家と女房 #空想の街

2015-10-25 16:34:26
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

どうして一番大好きなものを読んでは駄目なのですか? どうして一番大好きな人に会うことが出来ないのですか? どうして私の愛しているものは遠くに引き剥がされるの? #作家と女房 #空想の街

2015-10-25 16:37:10
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「え、ええ。すごく良い天気ですね。秋晴れというか」 女の声は浮き立ち落ち着かない。 作家は今思い立ったと言わんばかりに、指を空に向けた。 「今日は良い天気で出かけるのにもちょうど良い。××国の最中が美味いと聞いた。食べにいこう」 女は目を丸くした。#作家と女房 #空想の街

2015-10-25 16:54:01
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

××国といえば今すんでいる国と敵対関係のある国だと聞いた。だからそこに行くと言うことは、もう二度とこの国に戻らないという意思表示だった。 「私も、一緒に行って良いんですか?」 女は慎重に尋ねる。作家は何を言うんだと言わんばかりに眉を下げ、口を開けた。 #作家と女房 #空想の街

2015-10-25 16:59:09
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「君は私の妻だ。夫婦が一緒に出かけて何も不思議じゃない」 「……」 「早く、準備してきなさい」 女房は拳を握って大きく頷いた。 そして花のように笑った。 「はい!」#作家と女房 #空想の街

2015-10-25 17:06:18
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

二人は様々な人の力を借りて国を脱出した。 新天地の国で暮らすようになった。幸せになった。 けれども作家は、この三年、小説を一冊も書いていない……。 作家はその理由を語ろうとしない。 女房が起きた時、隣に作家はいなかった。 散歩にでも、行ったのだろうか? #作家と女房 #空想の街

2015-10-25 17:10:45
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

作家はメモ帳にペンを走らせた。朝日の光はまぶしく冷たい。時計塔の近くのベンチに座って、思いつくまま書いている。 「……」 作家はやがてメモ帳に書いた紙を破り、丸めて、ごみ箱に捨てた。 そう、作家は今日も小説を書けなかった。 書きたいのに、書けなかった。#作家と女房 #空想の街

2015-10-25 19:20:41
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