空想の街・ハンツピィの宴2015 2日目

twitter上の創作企画「空想の街」の纏めです。 編集を自由にしてありますが、手動で編集を入れてあります。時間順ボタンのご利用はご遠慮ください。
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不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

それを逃げ道にするつもりなどない。せめて次こそ他人から、自身の気付かぬ本心を打ち当てられぬよう、徒華は自分自身へ言い聞かせる。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 02:48:47
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

――柘榴さん、あなたを食べて、夜鷹になった、 などとは口が裂けても言えない。が、こちらも一生会う予定などないのだ、 一生だ。 自嘲すると徒華は疲れたように目蓋を伏せ、汽車の出る駅へと速足で進んでいった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 02:50:02
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

宴が終わり、バータイムも終わり、夜は更け、人の語らう姿は街から消えた。宿から夜風に当たりながら作家は散歩に出る。紙たばこに火をつけて、空気に残る宴の酔いを感じた。街が健やかに眠りにつこうとしている中、暗がりから男……語り部が出てきた。 「寝ないのかい?」 #作家と女房 #空想の街

2015-10-26 22:06:38
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「少し興奮していてな。心が湯あたりを起こしている」 「そりゃ大変だ。氷嚢を頼んだ方がいいんじゃないか?」 氷山の一個分の氷嚢が必要じゃないのかね。 作家は喉の奥をならして笑った。 「そうかもしれない。体がうずくのだ。いや叫んでいる。まるで若い頃のようだ」#空想の街 #作家と女房

2015-10-26 22:11:05
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

書きたいという熱が身のうちから溢れている。作家はそれに喜びを覚えつつも、反面ひどく冷静だった。このエネルギーをちゃんと方向性を持って使わなければ、物語は物語という化け物になってしまうことを作家は知っていた。語り部は作家の手にしていたたばこを盗った。 #作家と女房 #空想の街

2015-10-26 22:14:34
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「やめられなくて困っているほど、すきなものとして観測している。めでたい日だ。もらって良いだろ」 「最近高いのだ、それも」 「野暮なことを。少しは優しくしてくれよ」 「のぞき魔に何も言われたくない」 そう言いつつ、作家は語り部に火を貸した。 煙が二つ昇る。 #作家と女房 #空想の街

2015-10-26 22:20:34
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「書く気は目覚めているが、まだ何を書くべきか分かってないんだろ」 「のど元までは出てきている。それをまず書かなければ、私は駄目だと思うのだが、それが何かが分からない」 「先生は奥さんだけではなく自分のことですら鈍感なんだな」 作家は諦めたように眉を下げた。#作家と女房 #空想の街

2015-10-26 22:25:51
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「ここで虚勢でも張れれば良いが、全てを観測している者にそれをしてもまるで意味がない」 「素直で気持ちが悪いな」その答えを知っていても、語り部は一寸心が動いた。素直というか、諦めや失望で目をかすませる作家に。だから思わず聞いた。 「なぁ」 #作家と女房 #空想の街

2015-10-26 22:34:21
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「あんたがもし生きる屍になったら、何を残したい?」 「生きる屍?」 「そうだ、手足は動かず、しゃべることも出来ず、視線も送れない。出来ることと言えば、微弱な脳の波をおくることだけ」 「脳の波で何かを残せるのか?」 「そうだよ。途方もなく時間はかかるけど」#作家と女房 #空想の街

2015-10-26 22:39:23
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「たった一冊本を残せるとしたら、どうする?」 作家はたばこを簡易灰皿に強く押しつけた。そして天を仰ぎ見る。星が瞬くきれいな晩だった。そして彼はこの世で一番きれいだと信じているものを想った。 「女房の物語を残したい」 自分よりも一等輝く星の物語を。#作家と女房 #空想の街

2015-10-26 22:43:40
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

語り部は目を丸くした。 「自分を書こうとしないのか。死ねば消えるんだぞ。忘却で世界から。覚えているとしたら俺ぐらいだ。それでも」 「私は多分、口では何ともうまく伝えられない。誤解も語弊も止められない。でも文字なら、まだ少しはまともに伝えられるかもしれない」#空想の街 #作家と女房

2015-10-26 22:48:40
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

語り部は腹を抱えて笑った。これは心底、面白い。 この男は、常々妻のことで頭がいっぱいだと思っていたけれど。 ここまで、心底馬鹿なくらいだとは。 「妬けるねぇ」 語り部の吐息のようなぼやきに作家は顔をしかめた。 「何か言ったか?」 「いや何も」道化は笑った。#作家と女房 #空想の街

2015-10-26 22:55:53
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「じゃあ、俺から一つ奇跡をあげよう。後ろを見てみな」 作家は語り部の指さした方向を見る。 厚手の上着を着た女房が顔を真っ赤にして、こちらを見ていた。 「あの、その、声が聞こえて」#作家と女房 #空想の街

2015-10-26 22:59:20
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「何だろうと思ったら、あなたが生きる屍になっても、私の物語を残したいと言っていて」 作家は女房の言葉に何も言えず、語り部をじろりと睨みつけようとしたが、あの道化は闇へと消え去っていた。 「でも私、あなたを生きる屍なんかにしませんから。絶対にしませんから!」#作家と女房 #空想の街

2015-10-26 23:05:11
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

妻は何か感動しつつも、ピントのズレたようなことを言い出した。 それを見て作家は思う。女房はやはり不思議な生き物だ。 見ていて飽きないし。可愛いと思う。けして口にしようとは思わないが。 「君を今、物語にしたらとても楽しいものになりそうだ」作家は言った。#作家と女房 #空想の街

2015-10-26 23:09:51
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「私は先生の頭の中を覗いた物語が読みたいものです」 女房は作家の言葉に茶々を込めた言葉を返す。作家がやる気を出している姿は、女房はとても嬉しかった。希望が湧いてくる。 作家は女房の言葉を聞き、自分の顎に手をかけた。#空想の街 #作家と女房

2015-10-26 23:13:18
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「ならば、私たちの物語は何ともいえない味がするかもしれない」 作家は喉元から、ぽんと引っかかっていたものが取れた気がした。 「わ、私たちの物語ですか」女房は仰天する。 「そうだ、それはきっと面白い。例えばタイトルは」 作家は珍しく目元を優しくして笑った。#作家と女房 #空想の街

2015-10-26 23:17:29
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

#作家と女房」 なんてどうだと、作家は顔を紅くしたままの女房の手を取った。 おわり #空想の街

2015-10-26 23:19:12
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