空想の街・ハンツピィ'15 二日目 #赤風車

#空想の街 ( http://www4.atwiki.jp/fancytwon/ )ハンツピィの宴二日日(15/10/25) #赤風車 纏め。 過去本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。 公式様参加者様、お疲れ様でした。有難うございました。何か御座いましたらご一報頂けると幸いです。 (皆さんのまとめを随時おすすめ設定させて頂く予定です)
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不可村 @nowhere_7

肩を上下させ、洸太郎が首を捻った。あのね、と滑らかな口調が続く。「うんと、ぼくたちなりに考えたけど、やっぱり難しいんだよ。――どうして恋なのかな、友人じゃだめなのかな。ぼくだって、同性で尊敬できて執着するような相手はいたけど」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:10:52
不可村 @nowhere_7

洸太郎は実華や徒華の遠縁の親戚にあたる、泉という家の出だ。田舎の山奥の出身だが階級は低くないので学校には最後まで通っている。洸太郎は今、その頃の自分を思い出しながら話しているのだ。「でもその執着は恋情にはならなかった。欲みたいなものが向かうこともなかった」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:11:20
不可村 @nowhere_7

優しい義兄の真摯な眼差しを受け、それでも徒華の顔は晴れなかった。 「どうしてだなんて」それこそ自分が訊きたい、徒華は心の底からそう思う。物心ついたらこうだった。これが当たり前の世界に存在しているのだ。徒華からすれば姉たちのほうが余程分からない。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:11:46

免罪符の名は

不可村 @nowhere_7

「恋人って何なんだろう、何の許可証なんだろう。それがないと本当に何もゆるされないのかな。大義名分みたいに、何でもしあえる言い訳みたいに――ぼくは夫婦や家族はそうだとは思わない。でもきみが言う、六條さんとのお付き合いなんかは、何か言い訳めいているように思える」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:12:06
不可村 @nowhere_7

どこまでも透明な瞳で語る夫を実華が制止する。「洸太郎よ、そのへんにしておけ。時間がない。それに」肩を落とした徒華を、小さな顎をしゃくって実華は夫へ指し示した。「この分じゃあ我々が言う前にどこぞの誰かに言われたようだぞ。これ以上矢を突き立てる必要もないだろう」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:12:52
不可村 @nowhere_7

弓矢どころか包丁を心臓にくらった気分の徒華なのだが、姉は夫から引き継ぐように会話を紡ぎだした。「なァ妹よ。お前はいつも我々に、わかってくれわかってくれ、と喚くな、だがそれはこっちの台詞なんだよ。解ろうとしてもどうしてもできない、そういうことも世にはあろう」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:13:23
不可村 @nowhere_7

諦めではなく立ち向かった末に出たであろう姉の回答に、徒華がますます縮こまる。それでも唇は動いた。「姉さん、街を見たろう。宴の内容だって手紙に書いてあったじゃないか。私の心はこの街と、今日の宴と同じなんだ、種の違いも性差もない。身分差も歳の差も関係ないんだ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:13:55
不可村 @nowhere_7

徒華はまだ続ける。「ひとにはこころがあるだろう。だからただのけものとは違って可能性があるんだ、私はそう思う。種も性も歳も全部超えて歩み寄れるのがこころのあるものじゃないのか。人間は何にだって恋に落ちる可能性があるんだ。私は単にそれが、同性だったというだけで」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:14:41
不可村 @nowhere_7

「こんの戯けが!」 実華は何も茶々を入れず聞いていたが、徒華が一通り言い終わると、そこへ鋭く一喝した。 跳ねあがった徒華の目に、どこか寂しげで果てなく真剣な姉の美貌が映る。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:15:10
不可村 @nowhere_7

「言っとることが矛盾しとる! それにお前は気づいてない、よく考えろ、いいか、お前が言うことが正しいとしよう、私も大方は賛成だからな――、併しだとするとおかしいぞ。人間が同性とでも恋愛できるというのなら、つまり我々のような者もそうなる可能性があるなら」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:15:35
不可村 @nowhere_7

実華は手に持った携帯灰皿に音がするまで力を込め蓋をした。「――ならばだ、逆に人間は――お前たちのような者もだ、我々に逆の可能性があるならば、お前たちこそ異性と恋に落ちる可能性がある、ということになる。……お前の言っとることはそういうことなんだよ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:16:16
不可村 @nowhere_7

携帯灰皿に彫られた優美な花をなぞり、実華は続ける。「それこそ“我々”も“お前たち”もない。お前の言葉を直すのならこうだ、“ひとはこころがあるからこそ同性でも異性でも恋情を抱く可能性がある、それがたとえ異性愛者でも同性愛者でも”」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:16:49
不可村 @nowhere_7

黙し続ける妹へ実華は目線を放る。「解せないといったつらだな。まァ言っていて私も妙だと思うよ、欲情はまた別だろうしな。だがお前の言うことを万人に当てはまると仮定するとこうなるんだ。お前はそれに気づかんで、お前だけの主張を“皆もこうだろう”と押し付けとるわけだ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:17:20
不可村 @nowhere_7

「そんなつもりは――」徒華の声は何とも頼りなく揺れる。そんな狙いはないのだ、姉に言われたように、周囲の気持ちを代弁するような気はさっぱりない。その筈だが、どんなにここで言い訳をしようと、そうとられてしまうなら、叫び続ける徒華にも問題はあるのかもしれなかった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:17:42
不可村 @nowhere_7

姉夫婦は徒華が同性しか愛せないということを知っても、驚きこそすれ家を追い出すような真似はしなかった。そんな子供は勘当したり家に封じ込めたりすることが当然のようなあの故郷だが、そんな空気を嫌う姉夫婦は、頭ごなしに否定してくることはなかったのだ。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:18:11
不可村 @nowhere_7

それでも、矢張りどうしても、限界というものはあるのか――突破できないのか。考え込み、またゆるゆると視線を橋の煉瓦へ落とす徒華を眺め、実華は徐に携帯灰皿を振り被って川へと投げ込む。 瞬間、弾かれたようにそれを目で追ったのは洸太郎だ。「あぁっ!」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:18:59
不可村 @nowhere_7

騒々しさで耳目を集めつつも洸太郎は憤慨する。「もう実華さんてば! ちょっと待って、拾えそう――ぼく取ってくるから!」小さなトランクを片手に、虹色に輝く不思議な石段へ、橋を下り回り込む洸太郎のふわふわとした髪が消えると、実華は呆気にとられている妹へ向き直った。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:19:30

擦れ違う矛先

不可村 @nowhere_7

「なァ妹よ」どこかうっとりとした、堂々たる姉の厳かな声に、徒華が内心汗を一筋垂らしながらそっと振り向く。 「お前には料理の腕もある。学歴もあるし、私に似て顔もいいほうなんだ――、そろそろ自分を卑下し続けることはやめてその表情を変えたらどうだ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:20:24
不可村 @nowhere_7

「それが姉さんの言い分か」見えない羽虫を確実に射止めるように徒華は囁いた。「姉さんたちなりに寄り添おうとしてくれていることは分かるよ。私がおかしなことを言い張っているのも――まだこっちは理解できないけど、姉さんがそこまで言うならきっと何かあるんだろう、でも」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:21:26
不可村 @nowhere_7

徒華は一旦そこで息を吸う。 「どうして友人じゃだめなのかなんて私が一番訊きたい! 姉さんは義兄さんと子供の頃から一緒だったから分からないかもしれないけど、――友人でも嫉妬したり大切なひとはできるよ、これは義兄さんの言う通りだ。でも、でも、理屈じゃないんだ!」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:21:58
不可村 @nowhere_7

己の弁舌を徒華は他人事のように聞いている。「些細なことで泣いたり相手を直視できなくなったり、ふれることを許されたいと思ったり相手の夢見に自分がいればいいと願ったり――、恋愛感情だけでできた恋心なんてない、姉さん、私はそう思える相手がどうしたって同性なんだよ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:22:53
不可村 @nowhere_7

「矢張り解れ解れと言っとるように聞こえるなァ。妹よ、理解できん者はみな異常か?」らしからぬ大根芝居の人払いをした実華はというとやっと腕組みを解き、朝の水面から叫びきった妹へと視線を移す。「お前の主張を聞いとるとどうにもこの世には線があるように思えてならんよ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:23:24
不可村 @nowhere_7

「姉さんみたいなひとがいるからそうなるんだろう」上目遣いで姉をねめつけ、徒華の話は続けられる。「私が結婚だって? よく言う――悪い冗談はやめてくれよ姉さん。千草があんなことになってどうしてそんな話を進められるんだ。姉さんがそんな人間だとは思わなかったぞ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:23:56
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