空想の街・ハンツピィ'15 二日目 #赤風車

#空想の街 ( http://www4.atwiki.jp/fancytwon/ )ハンツピィの宴二日日(15/10/25) #赤風車 纏め。 過去本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。 公式様参加者様、お疲れ様でした。有難うございました。何か御座いましたらご一報頂けると幸いです。 (皆さんのまとめを随時おすすめ設定させて頂く予定です)
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不可村 @nowhere_7

僅か目の色が変わった姉を徒華は責め立てた。「千草に、弟に何があったかもう確かめる方法はない、でもあの子はあんな冷たい場所でずっと――、私たちは何もできなかった! 姉さんが忙しい分あの子を気にかけていたんだ、姉さんに信頼されているように思えて、あの子が心配で」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:24:36
不可村 @nowhere_7

打って変わって徒華は自身の胸を押さえる。「私が軽率だった。人付き合いの経験がまるでないあの子にいきなり――あの子が放ってくれと言うのを鵜呑みにしていたのがだめだった、私はもう結婚どころかしあわせになんてなる資格は」 「思い上がるな!」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:25:14
不可村 @nowhere_7

吠えた姉を徒華は怯えの走った顔で見る。聞き分けの悪い幼子に噛んで含めるように、実華は言い聞かせた。「千草のことがあるからだよ。何も私は家族を減らしたいわけじゃない、逆だ!」 そこで澄んだ声が街を走る。「困ったことがあると男女はすぐに体で解決するじゃないか!」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:25:52

不可村 @nowhere_7

――発した徒華自身が、信じられないように瞼を数回上げ下げする。姉よりも重みのある睫毛が頬を掠り、朝日の中で白皙に影を作った。 真っ青なこめかみへ知らず汗を伝わせている徒華を、姉である実華は暫くの間、何か懐かしいものでも見つけたように黒目の中心へ収めていた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:26:44
不可村 @nowhere_7

携帯灰皿を川へ投げ、煙草の箱さえ握っていない実華が、空っぽの両手で欄干を握る。化粧すると反対にくどくなるほどの華々しい美貌が今は、ゆったりとした時を刻んでいた。 「――妹よ。いつの間に世界はそうなった――まるで同性愛者のほうが尊いみたいに聞こえる」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:27:30
不可村 @nowhere_7

その言葉を皮切りに徒華の蓬髪がざわめいた。 「ちがう、姉さん、私は、そんなつもりは」徒華の視界は揺れに揺れる。籠に入れられて振り回されているようだ。何に狂わされているのだろう、どうせなら美しいこの街に狂いたいのに、徒華の望みは徒華自身にさえ消されてしまう。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:28:00
不可村 @nowhere_7

蚊の鳴くように徒華の声が喉から這い出た。小さく呼びかけられ、整えればさぞかし人目を引くと思われる妹の悄然とした姿を、実華は橋から眺める。 「姉さん――姉さんは――、」体を重ねて何かいいことはあったか、 徒華の口から出たものは、そんな疑問ともつかぬものだった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:28:55
不可村 @nowhere_7

おかしなことを訊くなァ。答える実華の声は只管に静かだ。その瞳が優美に、水のそばで石の間から蓋のしまった灰皿を取ろうと奮闘している洸太郎と川を見渡している。 「ないよ。少なくともお前が期待しとるようなことは、何も」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:29:18
不可村 @nowhere_7

姉の不可解な返事に徒華は黙り込む。どこから湧いてどう流れるのか、悪戯っぽい笑い声のような川の流れが橋の上のふたりを束の間、取り囲んでいた。 一陣金風が過ぎ去り、徒華のズボンのポケットへ挿さっている赤い風車を回す。もう音のしないそれを徒華は後ろ手で握りしめた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:30:06
不可村 @nowhere_7

「ひとつ言っておこう。私たちは理解者であることに酔いたくてお前に歩み寄っているわけじゃない」 虚ろな目をした徒華の、形のいい耳に、姉の凛とした言葉が入り込む。「他でもない、お前が私の家族だからだよ。千草の風車の件もそうだ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:30:26
不可村 @nowhere_7

やっとのことで丸い石たちの隙間から灰皿を取り出した洸太郎が戻ってくるのを認め、実華は思いを流す。「敬愛すべき父上母上は千草を持て余し、学校にも行かせなかったがな、私はお前にそんな真似はしない。だがそれはそういう人間になりたくないからという理由からじゃない」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:30:53
不可村 @nowhere_7

いつになく素直な姉の本心を、徒華が砕いて全身に行き渡らせる前に、息せき切った洸太郎が橋へと戻ってくる。 「――取ってきたよ。実華さん、蓋閉めてたから灰は飛ばなかったけど、灰皿投げちゃだめでしょ、もう――あれ、ごめん、ぼくもしかしてお邪魔だった?」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:31:20
不可村 @nowhere_7

演技ではなく目をくるくるさせ焦りだす洸太郎から灰皿を受け取り、実華は首を横に振った。「お前が気にすることはないよ。助かった。それよりそろそろ行かんとな――そうだ、最後に」実華に目配せをされ、洸太郎が一回きょとんとしたあと直ぐにトランクを開く。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:31:47
不可村 @nowhere_7

「あぁごめん、危ない危ない。忘れるところだった――義妹さん、はい、これ」義兄のまろやかに大きい手から実を手渡され、その色と形に徒華はうっかりと一度それを落としそうになる。 「それを食べるのが宴に参加する条件だそうだ」徒華の脇をすりぬけながら実華が呟いた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:32:27
不可村 @nowhere_7

「食べると人間は何かの動物のようになる。我々も昨日はそれを食べて回ったよ。宴に参加できんのは惜しいが我々は長くあの場所を留守にはしておけん」 お前も今日の深夜には汽車に乗れよ、と実華は言い残し、片手を振り振り大股で歩いて行ってしまった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:32:58
不可村 @nowhere_7

凝然として実へ視線を落としている徒華を気遣いながらも、洸太郎も妻の後に続く。「羽を伸ばしていいんだからね。ぼくたち、何だかんだで昨日は楽しんだから。義妹さんは外出自体久々でしょう、気を付けて帰っておいで」 思い遣りに溢れたその言葉も、今の徒華には届かない。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:33:51
不可村 @nowhere_7

姉はまた事務所で辣腕を振るうのだろう。義兄はあの朗らかさで仕事場を和ませ、血より濃い絆で結ばれた従業員は皆、そんなふたりに続くのだ。片手に大福の入った重箱を、そしてもう片手には姉たちから渡された実を持って、徒華はぼんやりと故郷の温もりと蟠りを思った。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:34:31

あのひと

不可村 @nowhere_7

実を持つほうの腕が震えだす。それを止めることができず、徒華は住人に不審がられぬようにと、橋を背に森へと抜けた。 どうしてこの実なのだ、いやこの街のものだろうから己の知っているものとは違うだろうが――大きな樹へしなだれかかり、徒華の乱れた息が森に木霊する。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:35:11
不可村 @nowhere_7

何とも香しい秋の森の清涼さも徒華は跳ね返し、ひとり、森の入り口で佇む。よしんばこの実がそうでないとしても――何故今なのだ。何故こんなに離れた場所で、あんな話をしたあとで、この実に会わなくてはならない、熟れた種の沢山詰まった赤い実――、 「――柘榴さん」 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:35:48
不可村 @nowhere_7

知らずに端正な唇が、かつての想いびとの名を形作る。いやかつてではない、今でもずっと、心臓に焼き鏝を押されたように残り続けるひとの名だ。 級友であった六條櫻子と三人で友情を育んだ女学校時代を経て、柘榴は遠く離れた家へ嫁に行ってしまった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:36:10
不可村 @nowhere_7

@note ――わたしの苗字とあなたのお名前。とおかんや、とうか…音が一寸似ているわ。素敵ね。 いつだって強く励ましてくれた女性の囀りは、まだ脳内で響き続ける。柘榴さん、と徒華の声がまたも木に染みこんだ。 「貴女はもう、嫁に行ってしまった――十日夜家の者じゃないのに」 #赤風車

2017-02-13 12:55:53
不可村 @nowhere_7

褒めてもらった黒く長い髪も手入れを忘れられ、方々に無残に広がるばかりだった。柘榴に去られ、残された櫻子と徒華は手を取って何年も歩いてきた。いつか柘榴のことを思い出にできる筈だと、これからは櫻子を想って生きていくのだと思っていたのに、それは叶わなかった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:37:54
不可村 @nowhere_7

櫻子の健気な姿さえ押しのけ、徒華の心は今もずっと柘榴を見つめている。笑い話にしかならない、もう何年経つというのだろうか、共に忘れようと持ち掛けた櫻子でさえ徒華と同じく柘榴を忘れられないでいたというのだ。 これが喜劇でなくてなんだろう。 #赤風車 #空想の街

2015-10-25 03:39:30
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