【ネタバレ注意 全クリア前提】「デイグラシアの羅針盤」に、本当に正解は存在しないのか?(2016/03/15更新)

「デイグラシアの羅針盤」(PC/全年齢対象作品/同人/サスペンス) この作品には「正解のないノベルゲーム」を謳っている。 が、プレイヤーの一部からは「とあるルートが正解」というように受け取られている。 本当にそのルートは正解のルートなのか?この作品にとっての「正解」とは何か、そして作品の全貌を少しずつ解いていくための"まとめ"。
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2016/02/14
 各見出しや細かい修正と「生存者を決めるのは、あなた自身」を追加しました。全体の考察としてはこれで最後になるかもしれません。何ヶ月にも渡って考察を楽しませてくれたこの作品、心から感謝しております。

(まとめそのものは整理が全く出来ていないので、更新はまだ行うかもしれません)

【作品紹介】

(※ 完成版の頒布が行われたのは2015年の夏コミ、C88です)
(※ 現在、Amazon とらのあな さんげっと!他 にてディスク版が販売。また DiGiket にてDL版が販売中)

カタリスト@デイグラシアの羅針盤 @catalyst_game

3日目東-T53a カタリスト catalyst-games.com 深海サスペンスADV『デイグラシアの羅針盤』本編を頒布します。 水深700mの海底に沈んだ潜水艇。救出された“二人の生存者”は一体誰か……? pic.twitter.com/9LyG6GWOyY

2015-08-14 16:15:53
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カタリスト@デイグラシアの羅針盤 @catalyst_game

デイグラシアあらすじ 1/2 「どうすれば、彼女たちは生きてあの海を出ることが出来たのか」 2033年8月1日、 深海遊覧船<SHEEPⅢ>は水深700mの海底に沈んだ。 一瞬にして失われた50名の生命。 残された者たちは、閉ざされた深海で生存への道を模索する。

2015-08-13 23:22:17
カタリスト@デイグラシアの羅針盤 @catalyst_game

デイグラシアあらすじ 2/2 だが、その水底には、彼らが予想もしなかった脅威が潜んでいた。 “二人の生存者”の片割れは、繰り返す記録と記憶の果てに、彼女たちを救うことができるのか。 「生存者を決めるのは、あなたです」 これは正解のないノベルゲーム。

2015-08-13 23:23:54

【注意事項】

 このまとめを作っている人間は「ただの馬鹿」なので、あまりに難しい話は理解出来ていません。
 温い目で見ていただけると助かります。

・これは解釈の1つです。

 全ルートをクリア(EXTRA含む)したばかりの方の閲覧はあまりオススメしません。考察のきっかけにする程度でお願いします。
 また、このまとめが「いちプレイヤーの解釈」という点に気をつけて、お読みください。参考程度に留め、自分自身の解釈を見つけることをオススメします。

(筆者は各ルート一度ずつしかプレイしていないため、全体的に未完成。整理でき次第加筆修正予定。)

・作品の楽しみを奪う可能性があります。

 「デイグラシアの羅針盤」は仕掛けと考察を楽しむ作品です。
 ほんの些細な情報でもプレイヤーの楽しみを奪ってしまうため、未クリアの方は回れ右でお帰りください。

 作品を楽しめなくなっても筆者は責任を取りませんよ!

 また、このまとめは以前行われたプレゼント企画内の制作秘話を読んだ上のものとなります。考察のほとんどは制作秘話と関係無いものですが、その点だけご了承ください。

考察を楽しみたい人種の方は特に、自力で考察されることをオススメします。


誤字について(2016/03/15)
Extraの柊乃編において、始めのテキストには2045年と書かれていますが、これは誤字だそうです。(カタリスト公式に確認済み)


▼考察のはじめ

 何故この考察を書こうと思ったのか。
 それはまとめの解説文の通り、本当に「デイグラシアの羅針盤」には正解はないのだろうか、ということを考えるためである。

 というのも、この作品の物語には完璧なハッピーエンドが存在しない。誰も犠牲にならず、罪を犯すこともないエンディングは、どのルートにも存在しないのだ。

 Aルートのエンディングでは、確認できた生存者は二人。
 Bルートのデンディングでも、確認できた生存者は二人のままなのだ。
 それに対し、Cルートのエンディングでは、生存者を6人確認出来る。

 一見するとCルートがハッピーエンドないしトゥルーエンドじゃないの?と思うだろう。
 が、この物語で起きる事故では、そもそも50人程度が巻き込まれているのである。
 事故に巻き込まれた全員(メインキャラ以外を含めて)が助かることは「絶対にない」。
 事故の原因がいくつも存在しているため、原因の1つを取り除けたとしても、取り除かれなかった「他の原因」によって事故が起きた可能性も、否定することは出来ない。

 繰り返しになるが、この作品の物語には完璧なハッピーエンドが存在しない。誰も犠牲にならず、罪を犯すこともないエンディングは、どのルートにも存在しない


▼作品の分岐構造

  • Aルート…プレイヤーが最初に到達することになるルート
  • Bルート…Aエンド後に選ぶことができるようになるルート
  • Cルート…AエンドとBエンドを見た後に見ることが出来るルート

 この作品の構造は、単純に言ってしまえばAルート→Bルート→Cルートという攻略順なのだが、厳密には"違う"。何故違うのかについては後述。

 また、『本編α』『序章』『体験版』などに出てきたルートはAルートの出来事がベースとなっている。


▼"彼女"が助かる可能性

 作中ほとんど出番のない"彼女"、つまり、光理。
 彼女はAルート及びBルートではと「ある出来事」によって死んでしまうことになる。
 Cルートでも「ある出来事」によって死の淵に立たされるが、幸いにも一命をとりとめることになる。
 この光理を待ち受ける「ある出来事」は、AルートBルートCルートで共通しており、出来事自体を回避することは不可能だということがわかるはずだ。
 ここまでを見ると、「ある出来事」自体の回避は出来ずとも一命をとりとめるCルートが最善、に見える、が…。


▼「行方不明者」

 Aルートエンディング、Bルートエンディングにはそれぞれ事故報告が流れる。
 ここで注目して欲しいのは、犠牲者の名前が載っているかではない。「死亡者と行方不明者」であるということ。大事なのは行方不明者の方だ。

 事故の性質上、どの人間が死亡しどの人間が行方不明なのかははっきりとしない。
 が、行方がわからないことと死亡したことはイコールにはならない。
 行方こそわからないものの、生存している可能性もある、ということだ。

 本当に死んでしまったのか、どこかで生きているのか。それについての明言はない。


▼Cルートはシミュレーションなのか?

 Cルートには「ある出来事」が存在しない。それは何か?

 そう「白い部屋の出来事」だ。
 これが意味する「1つの可能性」。

 それは「Cルートはシミュレーション内の出来事ではないかもしれない」ということ。
 確信を持って言えるわけではないが、少なくとも白い部屋でのやり取りは、Cルート内では一度も出てきていない
 そもそも白い部屋とは何だったのかを考える必要もあるだろうが、シミュレーションは白い部屋の中で行われていたこと、そしてBルートのエピローグにて"彼"がシミュレーションを諦め現実を受け入れたことを考えると、BルートからCルートには繋がっていない可能性が高い。

 繋がらない2つの世界と歴史。
 果たしてここに「シュレディンガーの猫」は発生する。


▼3つのルートは繋がらない

 Bルートはプレイすればわかるように、Aルートエンディングから繋がるような話となっている。
 だが、前述の「Cルートがシミュレーションでない可能性」を考えると、歴史が2つに分かれているのではないかということが見える。

  • ABルート(SHEEP III沈没事故→Aルート→Bルート)
  • Cルート

 制作秘話を読むと、Cルートは当初の作品予定にはなかった、後に追加されたルートであることがわかる。追加するかどうかで議論を交わしたことも。

 それでも、最終的にCルートは追加された。
 当初の予定通りならばABルートをもって物語は終わりを迎え、EXTRAシナリオで補足と全貌の示唆という形だったのだろう。

 それでも、Cルートは追加された。
 何故か?

 その答えの1つは「正解のないノベルゲーム」というキャッチコピーと矛盾を起こしてしまったから、ではないだろうか?


▼どちらが正解なのか?








































 さて、この記事の中で整理したABルートとCルート、そのどちらがあの世界での正史・事実なのかを考えてみよう。

 Cルートは様々な出来事の種明かしと、生き残った者の多くが助かることになるルートだ。
 対して、ABルートでは生き残るのは縁と片桐の2人。他の者は行方不明ないし死亡してしまう。

 ハッピーエンドを求める人は、Cルートこそが正史だと捉えるかもしれない。
 現実はそんなに上手くいかないものだと考える人はABルートが正史だと捉えるかもしれない。

 ここでゲームの構造を振り返ってみよう。

 ABルートは「もしあの時違う選択をしていたら」ということを前提に語られるルートだ。
 これは"メタ選択肢"で、もしあの時ということをプレイヤーが考えてしまった時点で、そのプレイヤーにとっての正史がABルートに捕らえられるよう練られている。
 結末を後悔し、やりなおしたいと思っている者には、ABルートが正史で固定されてしまう、ということだ。
 あなた(プレイヤー)がやり直してみたいと思ってしまう限り、エンディングはABルートで揺るがない。
 これがinfinityシリーズ、特にRemember11という作品そのものへのオマージュとなるポイントだろう。

 対してのCルートだが、このルートは「選択した結果はどうあれ、大事なのはこれからどうするかだ」ということを前提に進んでいく。
 Cルートは単なる解明編ではないのだ。
 選択した結果を受け入れ、後悔はあれどそこで立ち止まらず、前を向き続けようとする。
 Cルートは選択した結果を否定しないのだ。
 それがもし最終的に悲劇に繋がる可能性があったとしても、その選択はやはり、最良の選択だったとこちらのルートでも言っている。故に、Cルートは選択した結果を受け入れられるプレイヤーに対しての正史にもなる。

 要は「どちらも正解かもしれない。だがそれを決め受け止めるのはプレイヤー自身だ」ということだ。
 ある人にとってはABルートが正解で、ある人にとってはCルートが正解で、またある人にとってはどちらも正解で、更にはそのどれでもないルートこそが正解と受け取る人もいる。
 これはRemember11が世に出た後、プレイヤー各々が真実を求め考察したという出来事自体に対しての製作なりの思いだろう。

 「正解のないノベルゲーム」の意味は「プレイヤーの数だけ正解となりうる解釈がある」ということ、なのかもしれない。


▼世界が分岐している、その理由(仮)

詳細はこちら
(ふせったーを利用したツイートだったため、暫定です)


▼彼の見ている世界と私たちの見ている世界は異なる?(仮)

詳細はこちら
(ふせったーを利用したツイートだったため、暫定です)

▼生存者を決めるのは、あなた自身

 ABルートとCルートの関係、「正解の無いノベルゲーム」という考えに行き詰ってしばらく。ある呟きを見つけた。
 …確かに。その言葉があれば、その言葉があることで、正解を無くしつつも物語に決着をつけることができる。

それが
「生存者を決めるのは、あなた自身です」

 あなた(=プレイヤー自身。彼ではない)が「こちらが正解だ」と思ったルートが正解で、けれどそれは他のプレイヤーの正解とは異なり、プレイした人それぞれに違う正解(つまり解釈)が存在する。それぞれに異なる正解が存在することは、多様性を認めること、他者を認めることと変わらない。「デイグラシアの羅針盤」は「種の多様性」(未知の存在と深海生物、進化論)という大きな考え方と、「個の多様性」(人間同士の個体差)という小さな考え方、その二つを深海という場所で描いていたのかもしれない。

 恐らくこれで考察は終わりだろう。
 まだまだ不明な点もあるだろうが、恐らくその解釈もまたプレイヤー次第ということだ。そういうことにしておいた方が、色んな方の考察も捗るのではないだろうか。

 生存者が何名だったのか。それを決めるのは「デイグラシアの羅針盤」を遊んだプレイヤーである貴方自身。けれどその正解は、他のプレイヤーたちの正解と同じではない。同じではないかもしれない。
 それで良い。
 「正解の無いノベルゲーム」とサークルは始めから宣伝しているし、ABルートとCルートどちらも納得いく終わり方のはずだ。それ以上は「好みの問題」でしかない。
 生存者は何人だったのか、真実はどうだったのか。それらは全て自分たちプレイヤーの解釈次第。

 さあ、あなたにとっての「このゲームにおける正解」は何だっただろう?
 あなたなりの答えを聞かせてほしい
 多くを考え、他の誰かが信じる正解を見聞きし、自分だけの正解を見つけてほしい。
 それが「デイグラシアの羅針盤」という作品なのだと私は思う。

(2016年2月14日 青海ムツキ)

▼他の方の考察

リンク 開発日誌 過去の中に〈今〉を見つける:『デイグラシアの羅針盤』評 〈作品情報〉作品名:デイグラシアの羅針盤http://www.catalyst-games.com↑作品サイトへ制作:カタリストジャンル:深海サスペンスA...

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