空想の街・ハンツピィ'15 最終日 #赤風車

#空想の街 ( http://www4.atwiki.jp/fancytwon/ )ハンツピィの宴最終日(15/10/26) #赤風車 纏め。 過去本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。 公式様参加者様、お疲れ様でした。有難うございました。何か御座いましたらご一報頂けると幸いです。
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不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 えさ、という言葉も理解できなかった。それほど幼かったのだ。そこで屋敷に戻る際、記憶にある限り初めての廊下を渡った。 両側にあるものは格子のついた部屋だ。泣き叫ぶ声、嬌声、屋敷を揺るがす鈍い音、誰かの産声、撥ねる赤、 それでもまだ素通りした。耳に馴染んだものだったからだ。

2015-10-26 15:05:22
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 併し一度見た外は忘れられなかった。とにかく気になったのだ。出たいというわけでもなく、それからは度々隠れるように外を窺うようになった。誰も通らぬことが多かったが、外には小さく鳴いて飛ぶものがいる。地面からおかしなものが生え、風に揺れている。そこにとまる派手な虫に、

2015-10-26 15:07:28
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 あれはなんだろう、と、ぼんやり思うことしかできなかった。付添の者に訊いても無駄だ、同じ言葉しか返らない。訊くことは諦め、外を見るのと同じ頻度で、今度は例の廊下をたまに通るよう付添の者に言いつけた。 外とは違う。あまりに違いすぎる。

2015-10-26 15:09:40
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#赤風車 絶叫とともに小さなものが這い出て、あれは、と付添の者に問う。我々の餌です、とまたも返された。叫んだきり静まった者が処分されていくのをみとめ、今度はそちらを指す。 ――道具で御座います。替えはききます、おちばさまが心を乱すほどの者でも御座いませぬ。

2015-10-26 15:13:24
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#赤風車 次の檻、また次の檻、と移動しては尋ねた。砕けない返答も多かったがそれよりも、何故今までここをこうして通らなかったのか、そんな己に疑問をもった。 日の入らない格子の中、闇に白いものが浮き上がっている。座敷にいた己でも見覚えがあるようなと思った途端、足元に何かが転がった。

2015-10-26 15:16:24
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#赤風車 こん、からら、軽く音を立てて裸足のそばまで来たものは、何とも小さく脆いものだった。どこで見たろう、毎日目にしている気がして、拾ってこっそりと腹から噴き出すように結んでいる帯の隙間にそれを隠した。他の者と何か交わしていた付添の者には何も気づかれず、そうして座敷へ戻った。

2015-10-26 15:20:08
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#赤風車 噴き出すような帯の結び方をしているのは己のみだった。座敷を出入りする者は誰も彼も白い衣を身に付けていたが、腹の部分に目立ったものなどない。白いだけだ。顔も変わらぬように見え、皆区別もつかない。外を歩いていた何かとは大違いだ。

2015-10-26 15:23:15

知ってしまったことを、気づいてしまったことを

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#赤風車 出された膳を、その日も見ていた。全体が濃い赤で、つまり帯や湯や毎日持つ筆へつけるものと同じだった。その合間に、外を見上げたときに目にする色や、逆に地面を見たときに目にする色も見える。含めど何の味もせず、ただ僅か舌が痺れるようで、つい箸をもつ手が止まった。

2015-10-26 15:28:46
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#赤風車 膳の傍へ落ちた己の小さな手が握る箸に、自然と視線がいく。箸、だ、これは箸だ。これを持って食べるようにと付添の者にずっと言いつけられ育ってきた。 食事中の今は丁度他の者はいない。帯の隙間に仕舞っていたものをそっと取り出し、箸と並べる。 ――同じだ。

2015-10-26 15:33:02
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#赤風車 気づいた途端に胃の中身が逆流した。押さえようと両手を口に当てても止まらない、いや、座敷で音を立ててはすぐに誰かが来てしまう。 ――檻の向こうで見たものを思う。今まで己は何を使って何を食べていたのだ。予想通り音もなく駆けつけてきた者に抑えつけられ、漸く全てを吐き出した。

2015-10-26 15:36:11
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#赤風車 ――おちばさま。どうなされたのですおちばさま。 内容とは裏腹に、表情も何もない口調で訊かれ、ついに唇から言葉が漏れる。膳のものは何だ、檻のものは何だ、外にあるものを餌と言ったのは何だ、浅い息の中で響いた問いに、ずっと傅いていた相手の動きに異変が生じる。

2015-10-26 15:39:08
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#赤風車 ――どうやら今代のおちばさまは、おちばさまに向いてはいないご様子だ。 先までとは違う氷の声に、腰から頭頂までざっと総毛立った。 ――宜しいか、外のことなど忘れることだ。檻のものはおちばさまのもの、膳も字も大人しく口にすればよい。 次はない、と締められ、その場で閉口する。

2015-10-26 15:44:31
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#赤風車 逆らえばどうなる、それでもややあってそう打ち返した。純粋な問いだった。おれがさからったならば、おちばさまとおれにかしずくおまえたちは、おれをどうするのだ。 果たして相手は能面を、音も立てずに笑みへを変えたのみだった。一つ、名から逃げぬこと、頭にそんな文言が舞った。

2015-10-26 15:47:59
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#赤風車 このままでは喰われる、漠然とした予感に、その日から行動を控えた。檻でどんな叫びがあがろうと、付添の者が朱に染まっていようと無視を続け、吐きそうになりながらも膳を平らげ、また曲がりやすい筆で字を書いた。一つ、一つ、一、一、一、一、 早く出ねばならない。ここにはいられない。

2015-10-26 15:50:55

名から逃げた日

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#赤風車 決行は或る秋の日のことだった。季節を知ったのはもっと後のことだが思い返せばそうだった、朱の帯を振り乱し、白い衣の裾を返し、裸足でそのまま駆け抜ける。付添の者が交代にかかり、丁度込み入ったところで厠に抜ける振りをして、着の身着のまま垣根へ突っ込んだ。

2015-10-26 15:54:31
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#赤風車 今まで踏んだ何とも違う土を裸足につけ、それまで一度も出したことのない速度で駆け、とにかく誰も追いつけぬほど遠くへ、遠くへ、幼く短い足で行ける場所など高が知れているがそれでもだ。 ついに転んだ。走ったことなどない足ではそれが限界だった。一面野原の田舎道でひとり、倒れ込む。

2015-10-26 15:57:39
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#赤風車 意識が遠のく。手繰り寄せようとしてもすりぬける、そういえば朝餉を食べなかったのだった。今日くらいはあの屋敷の何も身には入れまい、そう決めて廊下から屋敷に広がる叫びが鼓膜に届く前に耳を塞ぎ駆けてきたが、 限界か、 そこでふと目の前に、石でできた何かがいることに気づく。

2015-10-26 16:00:57
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 地蔵だということは当時の己には分からなかった。気になったのはその前にあるものだ。まるでいつも己に出される膳のもののように、そこには白く丸いものが積んで供えてあった。 ならばこれは食べ物だ、外の食べ物だ、這う這うの体で手を伸ばし、我武者羅にそれを取って頬張った。

2015-10-26 16:03:52
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#赤風車 口にしたものは、ひどく、甘かった。あまい、あまい、こんなものは初めてだ、こんな食べ物が外にあるのか、外はこういうものなのか。 ――もうどうせここで終わるのだ。追いつかれるにしろ、ここで行き倒れるにしろ、これでよかった。腹は膨れたが走れそうにはない。空を見て、ときを待つ。

2015-10-26 16:07:43

其処は終わりか始まりか

不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 ――意識が完全に飛ぶ直前だった。 ばたん、やけに大きな音が響き、何事だと瞬きをした途端に四肢を振り回して喚き続ける。目だ、両目に何か落とされたのだ。音は何か落ちた音だ、ぼやける視界を擦り、体を捩って後退る。その体を摑まれ反射で顔を上げれば、濁った視界に見知らぬ男がいた。

2015-10-26 16:12:54
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 「落ち着け。痛くはねえだろうが」屋敷の者たちとは違う。檻にいたものとも違う、共通点は髪の色ぐらいだ。かけられた言葉を反芻し目にまた手をやる。そういえば痛みはない、驚いて不快になっただけだ。黙り込んだ己をまじまじ見て相手は続ける。「併しこれで暴れるんならお前、まともだな」

2015-10-26 16:17:06
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 まとも、と言われてもどう返せばいいか分からない。相手は黙るこちらを放置し、帯を引っ張った。「臓物結びじゃねえか。こりゃおちばの証だろう、お前なんでこんなとこにいる。まさか――逃げたか?」 その問いに、相手は追手か、と全身が強張った。見抜いたのかすぐさま手を離される。

2015-10-26 16:22:18
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