『ノートルダムの鐘』~フロロー判事と聖職者フロローと『罪の炎(Hellfire)』
- morisato_snow
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ハロウィンといえばヴィランズ!ということで、『ノートルダムの鐘』の悪役フロローと、持ち歌の『Hellfire(罪の炎)』について語ります。 「自分を正義と思っている」「ヒロインに邪恋を抱いてしまう」などディズニーにあるまじき悪役なフロロー判事。でも、原作では特に悪役じゃないです。
2015-10-31 15:57:12と言うか、原作を読んだときの私の印象は、「え?原作の主人公ってフロローでしょ?」でした。第一に、物語が動くのは、必ずフロローが何らかの行動を起こしたときだから。
2015-10-31 15:57:23そもそも原作のフロローって、エスメラルダに出逢うまでは本当に清く正しく生きてましたからね。何しろ、ディズニー版における「カジモドは母親に捨てられて他に引き取り手がいなかった」というフロローの嘘っぱちが、原作においてはほぼ真実ですから。しかも、その前にも男手一つで弟を育てた苦労人。
2015-10-31 15:58:30それと、この物語は「作者がノートルダム大聖堂で見つけた、壁に刻みつけられたギリシャ語の『運命』の文字から、『この文字を書いた人は何を思っていたのだろう』と思いを馳せて書き上げた物語」という形になっていますが、読み進めるとこれを書いたのはフロローだと判明するんですよね。
2015-10-31 15:58:36そして、原作のフロローは何と36歳という若さ。ただ、1482年当時の36歳ですし、歳より老けてて頭は禿げてたそうですから、高年齢なりのエレガンスのあるディズニー版のフロローより…かもしれません。 TDLのショーに出てくるフロローは若い銀髪イケメンですが、どっちに近いのか(^^;
2015-10-31 16:00:06と言うか、カジモドが主人公扱いされるのって、原作ラストシーンの鮮烈さもさることながら、映画史の中で『ノートルダム』がホラー的な文脈で映像化され、カジモドの造形再現に力点が置かれるようになってきたからじゃ、とも思えます。ディズニーもその印象払拭をかなり意識していたようですし。
2015-10-31 16:00:08ここで考えたいのがフロローの歌う『Hellfire』の解釈です。 ざっくり説明すると、エスメラルダへの邪恋に苦しむフロローがマリア様に「正しく生きてきた私をあの魔女から守ってくれ」と祈るうちに、「選ぶは二つに一つ、私か火炙りか」という境地に至ってしまうというもの。
2015-10-31 16:00:58でも、ディズニー版におけるフロローの「正義」は何とも片寄りまくり歪みまくりなので、ともすると勝手にエスメラルダを魔女認定して勝手に煩悶して、勝手に自己完結して斜め上の結論出しただけに見えてしまいます(ってか、当時中学生の私の初見の感想がこれ(^^;)。
2015-10-31 16:01:03ディズニー版のフロローと原作のフロローで一番違うのは、前者は「最高裁判事」(にしては権力ありすぎですが)であるのに対し、後者は「司教補佐兼判事」だということ。つまり、彼がエスメラルダへの邪恋で苦しむのは、前者では「自らの正義」に、後者では「神への信仰」に叛くことだからなのです。
2015-10-31 16:03:03あの曲を「原作フロローのキャラクターソング」として聞くと…そもそもカトリックの聖職者にとっては女を欲しいと思ってしまうこと自体が罪なので、苦悩の奥行きが一気に深くなります。 歌詞もまた絶妙に選民思想的な部分と神への祈りをミックスして、どちらのフロローにも取れるバランスです。
2015-10-31 16:03:19何にしても、清廉な聖職者がジプシー娘の色香に惑ううちに堕ちていく様は、実に劇的でセクシーです。そんな原作フロローの要素を『Hellfire』の場面に凝縮したから、他の場面のフロローは辛うじてディズニーの悪役に踏みとどまれたのかも。…大聖堂でエスメの匂い嗅ぐとかやらかしてますけど。
2015-10-31 16:06:26そしてやっぱり、アランメンケンの音楽が素晴らしすぎます。ディズニーの方のキャラ立てしか踏まえない「わけのわからない自己完結ソング」的な解釈で聞いたとしても、思わず圧倒されてしまう迫力がある。神曲、と呼ぶにはあまりに禍々しいけれど、名曲であることには変わりありません。
2015-10-31 16:06:29ただ、フロローを狂わせるだけの魅力が原作のエスメラルダにあったかというとねえ…。現代目線だと、顔だけの優男に騙される頭の弱い娘、としか見えません。その点、ディズニー版のエスメラルダは強くて賢くて…決して思い通りにならない女だからこそ権力者の心を捉える、と極めてわかりやすいです。
2015-10-31 16:06:31人生を狂わせるほどの激しい恋をして、燃えるように人生を駆け抜ける…そんな経験ができるのって、ある意味幸せなことなのかも。まあ、巻き込まれた方はたまったものじゃありませんけどね。特にディズニー版では無実の人を焼こうとしたり水責めにしたりと、被害規模が半端ないですから(^^;
2015-10-31 16:06:53で、最後に英語小ネタ。でも『Hellfire』でなく、ガーゴイルトリオの歌う『A Guy like You』の話です。 この歌の出だしに、「恋人たちの街パリ、今夜は燃えている。だって火がついてるから。でもそこには愛(l'amour)がある」というフレーズがあります。
2015-10-31 16:07:05本当に文字通り燃えてるのをあたかも比喩のように言うのも可笑しいのですが、よく考えると後半はさらにウィットに富んでいます。パリがああなったのはフロローの恋心が凄まじく間違った方向にスパークした結果なので、とんちんかんなようで実は案外正解だったりする、と(笑)ブラックユーモアですね。
2015-10-31 16:07:08最近『ノートルダム』熱が再燃して、色々と調べものをしてるんですが…その過程でわかったのがキリスト教における「煙」の扱い。『罪の炎』の冒頭で司祭さんが香炉を振っていますが、あれはミサのときにも使うアイテム。煙の立ちのぼるさまが神への祈りを象徴しているのだそうです。
2015-12-04 21:03:18そう考えると「おやっ?」となるのが、「誘惑者」「魔女」としてのエスメラルダは一貫して炎の幻影として描かれていたのに対して、フロローと抱擁を交わしていたエスメラルダの幻影は煙として描かれていたこと。彼にとっての神とは、彼が祈りを捧げていたマリアとは一体何だったのだろう。
2015-12-04 21:06:14絵面で原作再現、という意味ではやはり圧巻なのが『罪の炎』。あの場面だけフロローが軽装だから聖職者っぽく見えるし、炎や煙のエスメも「至るところにエスメラルダの幻影を見る」という原作描写の再現。ただのディズニーマジックではないのです。
2016-01-24 11:24:00ダメ押し的に、暖炉の上には巨大な十字架が飾られてるしね。あと、実は原作には「パリ裁判所の暖炉の間にはあられもない格好で抱き合う修道士と修道女の姿で飾られた柱頭がある」という記述がある。原作ではフロローは判事ではないのでフロロー全く関係ない箇所だけど、着想のヒントにはなったのかも。
2016-01-24 23:55:44ディズニー映画版の楽曲を使ったミュージカル『ノートルダムの鐘』、劇団四季が2016年冬より公演開始! ぜひ今から予習しておきましょう。音楽は映画よりさらに重厚に感動的にパワーアップしています! amzn.to/1oOsNZm
2016-02-27 22:05:42