「ザ・フォート・イン・ザ・モーニング・ミスト」

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

数分後、リカルドは蒼黒の甲冑・ダマスクに身に纏い、プリンツに相対していた。彼は近頃イアイドーに精通しだした好敵手神通と対等に戦うために、自主訓練中は常にダマスクを近くに置く様にしていた。先の素振りの最中も、下半身はしっかりとダマスクのレガースを着込んでいたほどの徹底ぶりだ。 22

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「何時でもいいぞ」リカルドはヨロイ・カラテを構える。右腕をチョップ形で前方に出し、左腕を腰に落とすヨロイ・カラテの基本の構え。「…では」プリンツは刺突剣めいて己の剣を前に突き出す。(ビスマルクとは違うな…)リカルドは構えを観察する。プリンツが踏み込む。剣と右腕が同時に動く！ 23

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「イヤーッ！」「イヤーッ！」鈍い金属音が響く。プリンツの繰り出した突きを、リカルドの右腕が払ったのだ。プリンツは慌てず。盾を繰り出す。「イヤーッ！」リカルドは捻りながら左腕を前へ繰り出す。コークスクリューブローが盾に激突する！CRAAASH！プリンツの体が僅かに後退する。 24

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「イヤーッ！」プリンツはその後退を利用し、剣を横薙ぎに振るう。刃が胴を狙う。「イヤーッ！」リカルドは右腕を折り曲げ、剣を受け止めた。プリンツが笑う。腕に衝撃が襲い掛かる！「グワーッ！」衝撃を受け、リカルドが横に数十センチほど後退る！(何て膂力だ)リカルドは冷や汗をかいた。 25

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「イヤーッ！」「イヤーッ！」プリンツの重い剣撃を、リカルドは己がカラテで払う。(やはりビスマルクとは違うな…あっちが篠突く雨のような間断無い剣なら…こっちは疾風か。一刀の重さと速さで敵を薙ぎ払う剣…)「イヤーッ！」「イヤーッ！」リカルドは徐々に後ろへ圧されながらも剣を弾く！ 26

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「凄いな」その光景を、離れた距離で見守っていた若葉が賞賛する。「力押しで提督に勝るのは戦艦位だと思っていたが」「あとは神通さん、かな？」春雨も若葉の言葉に同意する。「あの人はどっちかというとワザマエで上回ってる感じだけど」「世界は広いな」若葉は黙想的に言った。 27

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「イヤーッ！」「イヤーッ！」リカルドとプリンツが互いに距離を取った。「スゥーッ…ハァーッ…」リカルドは調息し、油断無く観察を続ける。プリンツは剣を構え、言った。「弱いですね」嘲笑。「長良の話から、もっと強いものかと」「なぁに。そんなこともあるさ」リカルドは笑い返した。 30

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言葉の投げ合いもまたカラテである。罵倒により敵の心を折り、戦況を己の優位に運ぶ。或いは精神を揺らがせカラテを鈍らせるのだ。リカルドは観察し、理解できないながらもプリンツが己に対し激しい怒りを持っていることを真に実感した。そして彼女は、存外プライドが高い。「来いよ」手招く。 31

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「言ってなかったが俺はまだ本気じゃないぜ」リカルドは挑発的に笑った。「それを見せてやる。超えてみな、騎士殿？」「…言いましたね」プリンツは敢えて挑発に乗った。プリンツは怒りに満ち満ちた目でリカルドを見た。己からビスマルクの歓心を奪わんとする憎き敵を。 32

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自分が父から知らされ、つい先日まで隠し通してきたビスマルクの秘密を、この男はあっさりと明かし伝えてしまった。何たる抜け駆け！その秘密は美しい夜景と共に、自分がビスマルクに伝えようとしたというのに！日本派遣が決まり、長く離れ離れとなり、漸くその機会が訪れたというのに！ 33

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何よりも許し難いのは、抜け駆けたのがいかにも野蛮なこの男だったという事実！当初プリンツは彼がハンターであったと知り驚いたが、彼からは父のような偉大さを感じない。彼女が崇拝するビスマルクに対して、まるで不釣り合い！このような蛮族が父と同じハンターとは到底信じがたい！ 34

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「そのニヤケ面…」プリンツは己の出せる最大スプリントで駆ける！「ぶっ壊します！」プリンツのニューロンが加速し、主観時間が鈍化する。リカルドは構えを解き、腰を落とす。(何だそれは！)プリンツのニューロンが、何度目か分からぬほどの怒りで沸騰する。(私を、父の剣を侮辱するか！) 35

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「イイイヤァアアアアーッ！」プリンツは己の持てる最速で持って剣を振るう。狙うは側頭部！如何に鎧に全身を覆われようとも、衝撃を通せば中の人体は当然傷付く！(獲った！)プリンツは己の勝利を確信した。遠くで見守る吹雪の目が光った。「イヤーッ！」KRAAASH！ 36

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プリンツは目を見開いた。剣は側頭部に当たらなかった。突然掲げられた右腕に阻まれたからだ。見れば、左腕も同じように掲げられていた。プリンツは恐れた。剣から伝わる感触を。鎧を着た人間の感触ではない。山？否、城砦だ。プリンツは朝靄の中、突如として城砦が出現した光景を幻視する。 37

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「あれは」「三戦立ち？」若葉と春雨はリカルドの構えを見て、その正体に思い至る。三戦立ち。足を八の字の形に立って、やや膝を曲げて力を入れる空手の基本中の基本の構えだ。カラテは現代武術の源流だ。故に近代空手の構えをリカルドが取っても何ら不思議な事ではない。だが、何たる堅牢さか！ 38

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「イヤーッ！」瞬きの間に、リカルドの右腕は捩じれ、プリンツの左腕を、即ち剣を持つ腕を掴んだ。「しまッ…」「イヤーッ！」ハンマーめいた左腕がプリンツ目掛け振り下ろされる！「イヤーッ！」プリンツは咄嗟に盾で防ぐ！KRAAASH！プリンツは逃れようとした。「イヤーッ！」再びの拳！ 39

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「イヤーッ！」プリンツは咄嗟に盾で防ぐ！KRAAASH！プリンツは右腕に力を「イヤーッ！」拳が降る！「イヤーッ！」盾で防ぐ！KRAAASH！プリンツは蹴りを「イヤーッ！」拳が降る！「イヤーッ！」盾で防ぐ！KRAAASH！プリンツは行動「イヤーッ！」拳が！「イヤーッ！」盾！ 40

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「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」 41

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「盾を…下ろせない！」プリンツは驚愕した。リカルドの左腕は己の行動よりも早く、そしてその膂力は生半な受け止め方では地震に強力なダメージとなって襲い掛かるだろう。今やプリンツは突然の豪雨に晒された無力なピニール傘めいて動かすことが叶わない！受け止める他選択肢が無い！ 42

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「あれはインストラクション・ワン！」吹雪は居住まいを正し、正座して叫ぶ。「インストラクション・ワン？」若葉がその言葉の意味を問う。「私が受けたカラテの教えの一つです」吹雪はリカルドとプリンツのイクサを真っ直ぐと見据え、言った。「太刀先生という高名な方から伝授されたそうです」 43

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「曰く、『百太刀振い断てぬからと言って、一太刀の威力に頼ってはならない。速さで勝負するならば、飽く迄も速さを貫くべし！千太刀振い断ち切るべし！』と」「成程」若葉が頷く。「えぇと、つまり？」春雨が首を傾げる。 44

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「つまりは初志貫徹」若葉が己の解釈を口にする「或いは敵の得意で戦うのではなく己の得意で戦う」「また或いは」吹雪が言った。「己のエゴを、貫くこと！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」リカルドとプリンツのイクサは未だ続く！だがプリンツは己の不利に気付く！ 45

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見よ！プリンツの足元を！徐々にコンクリート地面に亀裂が奔っているではないか！このままでは陥没し、体勢を崩されるのは免れぬ！（かくなる上は！）プリンツは最後の賭けに出た。リカルドの左腕が振り下ろされ、振り上げられるモーションに入る！「イヤーッ！」その瞬間、プリンツが跳躍！ 46

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跳躍と同時にプリンツは頭を後ろに引いた。（この頭突きで体勢を崩す！）プリンツはリカルドを見た。リカルドの頭もまた、後ろに引かれていた。「えっ」プリンツの瞳をリカルドの瞳が捉える。観察を続けてきた瞳が。両者の頭が前へ動き、衝突する！KRAAASH！「グワーッ！」「ンアーッ！」 47

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プリンツの視界に星が散った。ニューロンがぐらつく。リカルドが構える。腰を落とし、弓引きめいて右腕を引き絞る。プリンツは立て直そうとした。溜めは一瞬だった。上体がブレる。拳が矢めいて空を裂く。プリンツの腹部に、当たる！「イヤーッ！」「ンアーッ！」アロー・ポン・パンチ！ 48