男子凍結 第三部

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三十六

夢乃 @iamdreamers

唐津戸シンイチに接触した人物、細胞サンプルや遺伝子情報を入手できる人物の追跡は思ったように進まなかった。彼がセンターに入ってからの二十年前までの二十八年間、その間に彼を指名した女は延べ千七百人前後。 #twnovels

2015-11-22 13:01:14
夢乃 @iamdreamers

そのIDをすべてリストアップして重複を削除、氏名・生年月日・住所と現在の職業を抽出。セリが以前に用意したアクセス権で調べることができたのはここまでだった。というより、公営のネットワーク・ストレージから得られる情報はこれが限界だった。 #twnovels

2015-11-22 13:01:37
夢乃 @iamdreamers

国民の個人情報は、国と地方自治体の管理・運営する公営ネットワーク・ストレージ、いわゆる行政ネットに記録され、本人の同意があれば誰でも情報を取得できる。しかし、過去の学歴や職歴は過去一年分ほどを除いて、各官庁のサーバ・ストレージに移動するのが常である。 #twnovels

2015-11-22 13:02:03
夢乃 @iamdreamers

セリが手を回して用意したアクセス権は、公営と民間のネットワーク・ストレージからのほぼ無制限の情報入手を可能にしたが、さすがにそこに存在しない情報までは入手しようがない。各所のサーバ・ストレージからも情報を入手するため、レナは何枚もの令状を申請した。 #twnovels

2015-11-22 13:03:08
夢乃 @iamdreamers

ただ、真相を隠して捜査を行なっている以上、申請書にも事実を書くわけにいかない。結果、レナの書いた申請書は、通常ならばセリも却下する内容だった。にも関わらず、セリはそれを何も言わずに受け取り、どう手を回したものか、遅くとも翌日には捜査令状が発行された。 #twnovels

2015-11-22 13:03:43
夢乃 @iamdreamers

そんなセリの手際に感心してばかりもいられない。レナは部下に指示を出して、情報を集めた。捜査の進捗は思わしくなかったが、それでも少しずつ対象者の絞込みは進められた。 捜査の方針を変更してから、既に一月以上が経過していた。 #twnovels

2015-11-22 13:04:16

夢乃 @iamdreamers

「いつの間にか、今年ももうクリスマスなのよね。忙しくて気付かなかったけど」 その日の捜査を終えた洲莉岡ミリアは、一緒に署を出た華牟羅ケイコに言った。 「これで気付かないほうがおかしいわよね」 ケイコは、イルミネーションに彩られた駅前の通りを歩きながら答えた。 #twnovels

2015-11-22 13:05:08
夢乃 @iamdreamers

商店の前には、赤い服に赤い帽子を身に着けた店員も目立つ。 「うん。自分でもそう思うよ。でもここんところ、仕事のことばっかり考えてたら、周りが目に入らなくて」 「まったく。気を付けなさいよ。車道に飛び出したりしないように」ケイコは呆れたように言った。 #twnovels

2015-11-22 13:05:48
夢乃 @iamdreamers

「そういうことは無意識にやってるから大丈夫」 「それは大丈夫じゃないわよ」 頭を軽く小突くケイコにミリアは苦笑いで答えた。 「で。ケイコは、明日明後日はお子さんと過ごすんでしょ?」 「うん。その予定」 「私は二日とも仕事よ」 ミリアは溜息を吐いた。 #twnovels

2015-11-22 13:06:27
夢乃 @iamdreamers

「ミリアも子供産んだら?」 ケイコがそう言ったのは、子供のいる刑事は全員23日と24日の土日に休暇を貰えたからだ。クリスマスイブを子供と過ごせるように、とレナが考えたようだ。 「そう思わないでもないんだけど、今はなんかセンターに行く気になれなくって」 #twnovels

2015-11-22 13:07:01
夢乃 @iamdreamers

ミリアは頭上のイルミネーションを見上げた。 「それに、子育てとか大変じゃない?」 「まあね。でも、ウチは友達二人と一緒に暮らしてるし。母親三人で子供四人を育てているようなもんだから、分担してなんとかやってるわよ。マンションに育児施設もあるし」 #twnovels

2015-11-22 13:07:38
夢乃 @iamdreamers

「あ、それでか。署の育児施設には連れてこないな、って思ってたけど」 「ミリアは何で子供産まないの?」 ケイコはミリアを見て聞いた。 「うん、今はね。仕事が忙しいし。それに今調べてるのがアレでしょ?なんかセンターから足が遠のいちゃって」 #twnovels

2015-11-22 13:08:19
夢乃 @iamdreamers

「別にセンターを調べているわけじゃないんだから気にする必要なんてないのに。何なら、別のセンターに行ったっていいんだし」 「いや、そういうことじゃなくて、気持ちの問題よ。男について調べているときに、男を抱く気には私はなれないのよ」 #twnovels

2015-11-22 13:08:53
夢乃 @iamdreamers

「気にしすぎだと思うけどね」 それから話は、今調査中の捜査のことに移っていった。とは言っても、当然、具体的な内容には触れない。 「今度のこと、警部は年内に決着を付けたかったみたいだけど、ちょっと無理みたいね」 #twnovels

2015-11-22 13:09:32
夢乃 @iamdreamers

「そうね。私も、せめて絞り込みは済ませておきたかったけど、数が多すぎてそれも無理みたい。なにしろ、二十年以上前のことだもの、調べるにも限界があるのよね」 自分の担当を思い出して長い息を吐くミリアに、ケイコが聞いた。 「そっちも大変なの?」 #twnovels

2015-11-22 13:10:13
夢乃 @iamdreamers

「まあね。民間のネットワーク・ストレージから対象に関係する情報を探して過去の動向を分析するなんて、初めてのことだし。行政ネットと違って旧いデータも残ってるけど、それだけに量も多いし。もう、専門の業者に依頼した方がずっと早いんじゃないかな」 #twnovels

2015-11-22 13:11:02
夢乃 @iamdreamers

「それはできない相談ね」 「解ってるわよ。私だって。ただの愚痴。ごめんね~、クリスマスを前に愚痴なんて聞かせて」 「いいわよ。私だって似たようなもんだし。毎日労働局に行ったり、それから企業を回ったり。しかもこの寒空の下」 #twnovels

2015-11-22 13:11:45
夢乃 @iamdreamers

「私はケイコよりはマシかなぁ。暖房の入った部屋でできるし。いちいち令状を申請する必要もないし。そうそう、警視が用意したっていうアレ、凄いのよ。行政ネットだけかと思ってたら、民営ネットもアクセスフリー。もう、なんでもできちゃう感じ」 #twnovels

2015-11-22 13:12:29
夢乃 @iamdreamers

「へぇ。あの捜査IDそんなに凄かったんだ。民間企業も情報を全部ネットワーク・ストレージに入れておいてくれればいいのに。そうしたら、いちいち足を運ばなくても、ミリアが調べてくれたのね」 「やめてよー、私の仕事が増えるだけじゃない」 #twnovels

2015-11-22 13:13:29
夢乃 @iamdreamers

二人は顔を見合わせてクスクス笑った。それから真顔に戻ってケイコが言った。 「でも、どうやったらそんな凄いの用意できるのかしら。考えてみればあの人も結構謎が多いよね。私たちの方の令状だってどうやって取ってきてるんだか」 #twnovels

2015-11-22 13:14:16
夢乃 @iamdreamers

「そういえばそうよね。本当のことを書くわけにいけないんだし」 ミリアは夜の街を様々な色で照らす電飾に目を向けて続けた。 「考えてみると、今の捜査を続けていられることだって謎よね。今、外向きには私たち何をやってることになるのかしら」 #twnovels

2015-11-22 13:14:56
夢乃 @iamdreamers

「そうなのよね。しかも今、私たちこの件しか担当してないし。それがそもそも異常よね」 「署長よりも大きな権限を持っている、なんて噂もあるけど、あながち間違いじゃないのかも」 そこまで話したところで、二人は駅に着いた。 #twnovels

2015-11-22 13:15:45
夢乃 @iamdreamers

「それじゃまた、月曜に。・・・あ、ミリアは月曜休みだっけ」 「うん。イブに仕事の変わりにクリスマスは休みよ」 「じゃ、火曜にね。また」 そう言って二人は別々のホームに分かれた。ひと時の休息のために。 #twnovels

2015-11-22 13:16:39
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