茂木健一郎:「降りる」についての連続ツイート

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茂木健一郎 @kenichiromogi

降りる(1)夏目漱石は、子どもの頃から読んでいるが、その本当の「偉さ」がわかったのは、ずっと後のことである。近頃は、漱石の「降りる」生き方に共感し、瞠目する気持ちになった。

2011-01-17 07:23:45
茂木健一郎 @kenichiromogi

降りる(2)漱石の生きた明治時代は、日本が発展という物語を一生懸命に追いかけたとき。「発展」という物語に乗れる人はいい。しかし、そこから落ちこぼれる人たちもいた。そのような人にこそ、漱石は真実を見た。

2011-01-17 07:24:47
茂木健一郎 @kenichiromogi

降りる(3)『坊っちゃん』で、赤シャツは目端が利いてうまいことやっている。一方、きよは不器用で、明治の発展など関係なく、坊っちゃんへの愛だけに生きている。どちらが人間としてまっとうか、すぐにわかる。ところが、そのまっとうな人間の方が破れていくのだ。

2011-01-17 07:26:03
茂木健一郎 @kenichiromogi

降りる(4)漱石自身、途中までは明治の「発展」の真っ直中にいた。東京帝大を卒業し、文部省によってロンドンに派遣される。ところが、そこから、漱石は「降りた」。東大を辞し、当時のベンチャー企業だった朝日新聞に入る。それからの漱石は、いわば「隠居」。

2011-01-17 07:27:18
茂木健一郎 @kenichiromogi

降りる(5)漱石の書いた小説に、時代の発展の寵児は登場しない。みな、変化についていけず、あるいはそれを潔しとせず、呆然とたたずんでいる。しかし、そのような「降りる」生き方にこそ、人間の真実を見たのだ。

2011-01-17 07:28:16
茂木健一郎 @kenichiromogi

降りる(6)明治以来、日本人は、ずっと「発展」という圧迫の下に生きてきた。今は、ネット、グローバル化、中国などの圧迫の中にある。その波に乗って生きることは、立派なことだし必要なことだが、一方で「降りる」ことで見えてくる真実も確かにある。

2011-01-17 07:29:22
茂木健一郎 @kenichiromogi

降りる(7)。降りてみること。自分の足下を掘ってみること。自分の身体の範囲だけのことに心を砕くこと。猫と遊ぶこと。青空を見つめること。そのような「降りる」生き方の中でつかまれたものが、案外長い生命を保ったりする。

2011-01-17 07:30:11
茂木健一郎 @kenichiromogi

降りる(8)一方で、時代の「発展」の圧迫の中、波に乗る生き方は、その時は輝いて見えても、しばらく経つとすっかり忘れ去られてしまう、そんな歴史の不可思議もあるように思う。

2011-01-17 07:30:59
茂木健一郎 @kenichiromogi

降りる(9)発展の波に乗る人も、心の中に歪みができる。乗らないで降りる人は、別に罪悪感も、劣等感も抱く必要はない。「降りる」生き方のモデルを、夏目漱石が示している。その小説には、ひんやりとしたリアリティと人肌の温かさがある。

2011-01-17 07:32:20
茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、「降りる」ことについての連続ツイートでした。

2011-01-17 07:32:35